HPLの技術を使い、ヘッドフォンでもこの感覚を味わえる
第2弾配信で注目したいのは、WAV/FLAC/DSDサラウンドによる配信に加えて、HPL音源も最初からリリースするという点である。昨年からリリースが始まったHPL音源は「Head Phone Listenging」の略。HPLオプティマイズという、アコースティックフィールド(プロ用録音機器を取り扱っている販売代理店・タイムロードの特殊音響研究部門が独立)が持つ「ヘッドフォンに最適化したエンコード技術」を採用した音源となる。
と書いてもあまりピンとこないと思うので、HPLを展開するアコースティックフィールド 代表取締役の久保二朗さんのお話を聴きつつ補足しよう。
まず世間には仮想ヘッドフォン技術が存在する。HRTF(頭部伝達関数)やバイノーラルプロセッシングといった技術を応用したフィルターを使い、左右2chしかないヘッドフォンでも360度方向の音の動きや空間の広がりを再現することができるというのがウリである。ドルビーやDTSが開発したものが有名だが、その再生にはDolby HeadphoneやDTS:Xなど、対応した再生機器が必要となる。
実際の空間では楽器や歌手の声といった直接音だけでなく、少し遅れてその音が壁面や天井に反射した音を聴いている。だから音源に独自で開発したフィルターを加えて、こうした二次、三次の反射そして遅延を加えていくと、2chしかないヘッドフォンでもサラウンドに匹敵するような空間の広がりや音の動きを再現できるわけだ。
HPLオプティマイズも、基本的な考えは共通している。違いとしてはサラウンドやステレオ用に作られた音源を、「専用の機器側でフィルターを適用し、その機器で聞いた場合だけ立体的になる」のではなく、一般的なヘッドフォンと再生機の組み合わせでも立体的な音になるように、「音源そのものにフィルターをかける」という点だ。
HPLオプティマイズの再生機器を選ばないというポイントは、音質的なメリットも得やすい。というのも仮想サラウンド技術では、フィルター処理をするためにDSPが必要になるが、安価な民生品ではコスト的な問題で性能に制限のあるものを使用せざるを得ない。製品によっては処理性能が追いつかないため、商品企画的に、音の動きなどよりわかりやすい部分に注力した製品が市場に出てくる傾向があるのだという。HPL音源は音楽再生のみを考慮した音響機器で再生するので、有利になるのだそうだ。
音楽専用に作られたフォーマットということもあり、音響効果や音の動きを強調する方向感ではなく、音楽をより自然に聴かせる再現性の高さに主眼を置いている。
一般的な音源はスピーカーで聴くことを前提に作られているため、これをヘッドフォンで聴くと違和感の原因になることも少なくない。本来なら前方の中央に定位し、自然に左右に広がって聞こえるよう配慮して制作された音が、左右で断絶して固まって聞えてしまうといったこともありうるのだ。HPLの展開を始めたきっかけには、ヘッドフォンでもスピーカーで聴くのと同じ自然さを味わえるようにするという意図もあったという。
HPL音源を作る際は、ミックス時にHPLのフィルターをあてるだけでいいため、制作側の負担も少ない。HPLの音源は現在、14作品がリリースされており、これに今回のHD Impressionの音源が加わる。実はHD Impressionの第1弾音源も、今年の6月にHPL版が追加されている。
サラウンド再生を意図したHD Impressionの音源はHPLと相性のいいものだし、その魅力を味わいたいが自室に大型のサラウンドアンプを導入し、複数のスピーカーの設置には無理があるという人にとっても身近な存在となるだろう。
筆者もHPL版の音源を聴いてみたが、音のクリアーさや広がり感はもちろんだが、聴き疲れしにくいという点も特徴に思えた。スピーカー用に作られた音源の中の一部をヘッドフォンで聴くと違和感が出ると書いたが、人間の耳はよくできていて聴き続けているうちにそれを違和感なく補正してしまう。逆に言えば、聴く際の負担も大きいということなのだろう。
