連載292回でASC Red Stormを紹介したが、このASC Red Stormの後継ともいえるシステムがロスアラモス国立研究所に設置されたCieloだ。
運用開始は2011年であり、現在もまだロスアラモス国立研究所で運用されているシステムである(関連リンク)。位置づけ的にはRoadRunnerの後継であり、RoadRunnerが2013年に引退したのを受けて、現在はロスアラモス国立研究所のCapability Computing Systemのポジションにある。
Capability Computingはこちらでも説明したが、「非常に計算量が多い大規模シミュレーションなどを、最大限の計算能力を利用して最小時間で解決する」ためのものだ。
さて、CieloがRed Stormの後継にあたるというのは、単にCapability Computing向けだからというわけではなく、Red Stormの構造を発展させたものだからだ。そこで、Red Storm以降のCRAYの製品ラインを紹介していこう。
Red Stormを製品化した
CRAY XT3
連載292回の最後にも書いたとおり、Red Stormの構成をCRAYはCRAY XT3として2004年に製品ラインナップに追加した。
Red Stormそのものは最終的に140キャビネット構成で納入されたが、CRAY自身はXT3について以下のサンプル構成を提示している。
CRAY XT3の性能 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
キャビネット数 | Compute PE | Service PE | ピーク性能 | 設置面積 | ||
6本 | 548個 | 14個 | 5.6TFLOPS | 12TILES | ||
24本 | 2260個 | 22個 | 23.4TFLOPS | 72TILES | ||
96本 | 9108個 | 54個 | 94.6TFLOPS | 336TILES | ||
320本 | 30508個 | 106個 | 318TFLOPS | 1200TILES |
さすがにキャビネット320本の構成は論外なほど巨大なので納入事例はないようだが、例えば2005年11月のTOP500の上位100位を見てみると、下記のようにそれなりに売れているのがわかる。
2005年11月のTOP500で、上位100位以内にあるXT3 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
順位 | 組織 | システム名 | 実効性能 | |||
10位 | オークリッジ国立研究所 | Jagure | 15.2TFLOPS | |||
14位 | Engineer Research and Development Center DSRC | Sapphire | 12.2TFLOPS | |||
33位 | PSC | BigBen | 7.9TFLOPS | |||
70位 | Swiss National Supercomputing Centre | 4.4TFLOPS |
ちなみに翌年はさらにシステム数が増えているのは、PCなどと違って受注から納入→システム構成を経て、運用開始までそれなりに期間がかかるためである。国内でも例えば北陸先端科学技術大学院大学が4キャビネット構成のXT3を導入、運用を行なっている(関連リンク)。
このXT3のすぐ後で、CRAYはXD1というラックマウント型のHPCサーバーソリューションを発表する。
これは元々カナダのOctigaBay Systems Corp.という会社が開発していたものをCRAYが会社ごと買収、製品化したものである。
XD1はXT3に似た構成にはなっているが、インターコネクトはXT3のSeaStar Linkとはまったく異なるラピッドアレイ・インターコネクトを用い、また2つのCPUに1つ、アプリケーション・アクセラレーション・システムが搭載されているのが特徴だ。
このアプリケーション・アクセラレーション・システムとは、FPGAで、XD1ではXilinxの「Virtex-II Pro」が搭載されていた。
最近でこそFPGAをHPCに使おうというアイディアが盛んに議論されているが、2004年当時はやや時期尚早だったようで、XD1も作ってはみたものの、FPGAで思うようにアクセラレーションができない(プログラミングが難しい)という話があり、結局XD1はそれほど広く使われないままに終わった。
→次のページヘ続く (商業的に成功した後継機TX4)
この連載の記事
-
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第792回
PC
大型言語モデルに全振りしたSambaNovaのAIプロセッサーSC40L Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ