映像や音楽にも見られる中国のサブカルチャー
では、中国からはサブカルチャーは生まれないのかというとそうでもない。本来のサブカルチャーは、既存の体制や文化への異議申し立てであるが、反政府、反中国的人なコンテンツが生まれている。
2009年に中国政府が全PCに強制的にフィルタリングソフト「グリーンダム」を入れようとしたときに、ネットでグリーンダムを萌え化した「グリーンダムたん」が誕生し拡散。その時点で流行していたギャル文字のような文字「火星文」とミックスさせ、グリーンダムたんを題材にしたイラストやゲームやボカロ曲やその動画が登場した。
ただし、画像までは多くの人が目にしたようだが、音楽や動画の視聴者はそう多くなかった。これもこの手の音楽や動画コンテンツを見ている人が少ない証だろう。日本のネットカルチャーが好きな中国人が作ってみて喜んだが、中国内の影響は小さかった。
現在の中国ネット発サブカルチャーの方向性を決めたのが、2005年末に一個人が作った「一個饅頭引発的血案(一個の饅頭が引き起こした事件)」という動画だ。
これは中国の中世を舞台にした映画「無極」のシーンを切り貼りして、中国人が「あるある」と共感する偽ニュースに仕立てた19分にも及ぶコラージュ動画(悪稿)だ。
もともと当時コラージュ画像がそれなりに人気だったと記憶しているが、これ以降しばしば中世が舞台の映画のシーンを引用し、吹き替えを行なったり字幕をつけて、中国人あるあるを散りばめる動画が今に至るまで出続けている。
ネットの音楽シーンに一石を投じたのが、既存の音楽の常識を覆した2006年の「tante」という曲だ。ドイツ人のRobert Zollitsch氏が作曲し、妻のgong琳娜氏が歌うその曲は、中国風の曲でありながら、音程が幅広く、スキャットマン・ジョンの曲のように歌詞は謎の言葉が並び、既存の中国的音楽から脱却した音楽で、ネットで「神曲」と呼ばれブレイクする。
中世を舞台としたオンラインゲームが人気
一個饅頭引発的血案とtanteは、伝統を重視しつつ、そこからの脱却により評価を得た。伝統的世界観のコンテンツといえばオンラインゲームもそうだ。
中国人は小さなころから映画やテレビドラマのほか、勉強でもこの伝統的世界観に触れているので入りやすいし、世界観を共有している。中国のファンタジー中世世界が舞台の「武侠」は1970年末から人気で長く人々の間に根付き、さらにテレビドラマやオンラインゲームが多数登場。
それらのオンラインゲームを題材としたネット同人小説もまた続々と登場し、その小説を読むことで読者がゲームを遊びたくなるという相乗効果を生んだ。
つまり、日本で見られるアニメやライトノベルやゲームと同人文化の相乗効果は、中国では今のところ中国の伝統的コンテンツの中で生まれているのだ。
中国の伝統に人気が集中する点については数字にも出ている。中国2大動画サイト「優酷(YOUKU)」と「土豆(TUDOU)」は、かつては別会社だったが合併し、土豆は日本のアニメや韓国ドラマに重点を置き、優酷と差別化した。
土豆の日本アニメの視聴者は大都市の20歳以下に集中し、動画再生回数でいえば、優酷と土豆では10倍もの開きがあり、土豆が足を引っ張っているという。
伝統的な価値の中に“クールチャイナ”の根がある
筆者が思うのは、中国のサブカルの土壌というのは、日本人から見るとどうしても日本の後追いコンテンツに注目しがちだが、中国の伝統的価値観のコンテンツにこそ“クールチャイナ”の根があると思う。
世界で人気を博す日本のコンテンツは、限りなくリアルな日本や、近未来やファンタジーを描く作品もあるが、「NARUTO」「犬夜叉」「銀魂」のような中世日本を想像するような作品もある。
中国から世界がクールだと感じるコンテンツが出るなら、そのようなコンテンツになるのではないか。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)、「日本人が知らない中国インターネット市場[2011.11-2012.10] 現地発ITジャーナリストが報告する5億人市場の真実」(インプレスR&D)を執筆。最新著作は「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」(インプレスR&D)。
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