10月23日、シスコシステムズ(以下、シスコ)は8月から始まった2013年度の事業戦略説明会を開催した。代表執行役員社長の平井康文氏が絶好調だった2012年度を振り返りつつ、営業目標至上主義から、企業文化の醸成や社会還元を掲げた2013年の事業目標を披露した。
2012年度は30%増の成長率
次の一手は?
平井体制になって3回目となる事業戦略説明会は、米シスコ会長兼CEOであるジョン・チェンバース氏のビデオメッセージからスタートした。チェンバース氏は前年度から約30%増という成長率をたたき出した日本法人やマネジメントチームを称え、2年連続でChairman's Choiceに選出したことを発表した。「今年はほかの国・地域に授与しようと考えたが、日本の業績が際だっていた」(チェンバース氏)とのことで、平井氏自体をシニアバイスプレジデントを昇格させ、今後も日本市場に多くの投資を行なうとアピールした。
ビデオメッセージに引き続いて登壇した平井氏は、「Ignite Japan」をキーワードに、ビジネスの成長に寄与してきたこの1年を振り返った。まず5年間受賞企業がなかった日本経営品質賞(大規模部門)で見事に1位になったほか、5月には創立20周年を迎えた。また、本社にコラボレーション体験ショーケースのオープンさせたほか、年間を通じてクラウド/マネージドサービスの強化を行なってきたという。こうした施策が見事に結実したのが、前述した30%増という成長率というわけだ。
そして、2013年は「Excite Nippon!-Bridging our tomorrow through the connected human network-」のステートメントの元、Customer Partnership、Corporate Citizenship、Cisco Familyという3本の目標を掲げたという。
全役員と数ヶ月におよぶ議論で作られたこの3つの目標は、「売り手良し、買い手良し、世間良し」という道徳や規律を重んじ、社会貢献を是とした近江商人の理念によく似ているという。ユーザーやパートナーに対する価値提供という施策と同じレベルで、社会貢献やシスコ独自のワークスタイルの創造に重みを置いているからだ。「昨年までは5つの戦略のうちの3つまでがGo To Marketで、ソリューション、アーキテクチャー、サービスなどの営業戦略に基づくものだった。それを今年は大きく変え、事業戦略と同じくらいCSRや社員ライフワークインテグレーションを重視した」と平井氏は説明した。この3つの目標に、シスコが持つカルチャーや体験、新しい組織体制などをラッピングすることで、シスコならではの組織風土を醸成。最終的には、「社会に徳を還元する組織になりたい」と抱負を述べた。
平井氏は、「IT業界において、長らくテクノロジーの価値を訴求してきた。しかし、テクノロジーはあくまでイネーブラーでしかないと強く感じている。確固たるビジョンやカルチャーがなければ、いくら最新のテクノロジーがあっても意味がない」と断言。技術のみの訴求ではなく、新しいビジネス組織としての価値を自らが創出し、それらを顧客や社会に還元することに力点を動かしていく方針を明らかにした。
モノのインターネットを前提とした新市場
そしてフォグコンピューティング
さらに、平井氏が説明した事業戦略の1つに「IoT(Internet of Things)」が挙げられる。IoTは文字通り、人間以外のさまざまなデバイスがインターネットにつながることを指し、クラウドとモバイルの普及により、今後大きな市場拡大が見込まれる。平井氏は、「インターネットで初めてショッピングが可能になった1990年のクリスマスから、今日まで7973日が経ち、インターネットは電気、水道、ガスに続く第4のユーティリティとなった。しかし、モノという観点でみると、全体のうちの1%しかインターネットに接続されていない」と語る。
電力網とITを組み合わせることで高度な電力制御や省エネが、車とつなぐことで安全性の向上が、医療機器とつなぐことで、健康増進や高齢化対応などができるように、モノがつながることで、さまざまな価値が創造される。新しい仕事、生活、遊び、学びが想像されるというのが、同社のビジョンだ。
このIoTの取り組みの1つが、本日付で発表された「IoTインキュベーションラボ」開設である。シスコ ボーダレスネットワーク事業統括 専務執行役員 木下剛氏は、IoTの時代に向けた課題の1つとして「スケール」を挙げた。「当初、インターネットは人口以上には伸びないだろうと目されており、IPv4のアドレスで足りると思われていた。しかし、今後残り99%のモノをつなげようとすると、IPv4では足りなくなる」(木下氏)。そのため、事実上無限大のアドレス数を持つIPv6を利用するのが、IoTの基本的な前提になる。
もう1つの課題として木下氏が挙げたのは、モノのインターネットでは新しいネットワークが必要になってくるという点だ。従来のルーティングをベースにしたネットワークでは、常時接続を前提に、障害などにいち早く対応できる点を重視してきた。しかし、モノのインターネットにおいては、必ずしも常時接続ではない。「接続が不安定であることがむしろ正常という状態になる」というわけだ。
これに対して、同社が提唱しているのが、「フォグコンピューティング」になる。Fogとは出たり、消えたりする「かすみ」の意で、クラウドに対して、よりテンポラリな意味合いを持つ。集中型のインテリジェンスであるクラウドに対し、気象や交通情報のセンサーのような常時接続ではないデバイスを前提とし、複数のクラウドで分散処理を行なう新しい考え方だ。
これらフォグコンピューティング向けの技術は以前から開発を進めており、かんけつ動作を前提としたルーティング技術であるRPL、センサーのような小さいデータの効率的な伝送を実現する6lowpanやCoAPなどの新しいプロトコルもすでに標準化を進めているという。「技術開発は目処がついた。次には実用化に進めていきたい」(木下氏)とのことで、IoTインキュベーションラボでは、IoTのエコシステム開発やフィールド実験、各フォーラムの連携などを進めていく。特にパートナーや産学連携による実証実験を積極的に進め、インターネットの新たな価値創造を進めていくという。