黒歴史GPU編の第9回は、お待ちかねのNVIDIA「GeForce FX 5800」を取り上げたい。「NVIDIA Hair Dryer」の自虐的な蔑称でも知られる製品である。
どの辺が自虐的かと言えば、ほかでもないNVIDIAのマーケティング自身が、「ヘアドライアー」と言ったからだ。こんなビデオをわざわざ製作して公開したことで、「GeForce FX 5800=ヘアドライアー」と世界的に定着してしまった。ちなみに、この動画は誰かが勝手にアップロードしたものだが、ビデオ自体は本当にNVIDIAが作成したものだ。
NVIDIA自身が作った「GeForce FX 5800」を茶化すビデオ。後継の「GeForce FX 5900」発表時に披露された
なぜグラフィックスカードがヘアドライアーになってしまったのか、というあたりから解説しよう。GeForce FXシリーズの登場前後の話は、連載11回で触れたが、もう一度おさらいをしよう。
1999年の「GeForce 256」で、DirextX 7世代最初の製品を投入したNVIDIAは、このあとGeForce 2、GeForce 3、GeForce 4とバージョンを重ねていき、「GeForce 3 Ti」ではDirectX 8に、「GeForce 4 Ti」ではDirectX 8.1に対応する。
GeForce 4 Tiがリリースされたのは2002年2月のことだが、その4ヵ月後にATIが、DirectX 9に対応した「R300」コアの「RADEON 9700」を市場に投入する。RADEON 9700はそれまでの「R100/R200」コアの構造を継承しつつ、DirectX 9に求められる「Unified Shader」(統合シェーダー)の構造にスムーズに転換した構造であった。一方のNVIDIAは、もう少しアグレッシブな内容を考えていた。それはGPGPU的な利用法である。
RADEON 9700はあくまでも3D描画をメインとして、DirectX 8時代のVertex Shader(頂点シェーダー)/ピクセルシェーダーからなる構造を、DirectX 9対応に変更したという程度のものであった。しかしNVIDIAは、のちにGeForce FX 5800として登場する「NV30」コアを、単に3Dだけではなくもっと汎用に使うことを想定した。同社は当時この機能を「Cine FX」という名前で呼んでおり、DirectXよりも機能を強化していたほどだ。
CineFXは、現在のNVIDIAのGPGPU環境である「CUDA」で実現されたものほど高機能ではなく、また柔軟性も乏しかった。NVIDIA自身、CineFXはあくまで「描画を映画品質まで高めるもの」という扱いであり、その意味ではGPGPUと呼ぶよりも、DirectX 9のUnified Shaderを独自に拡張したもの、と考えたほうが正確かもしれない。
このCineFXを利用するための言語が、NVIDIAが提供した「Cg」(C for Graphics)で、これはマイクロソフトがシェーダープログラム開発向けに提供した「HLSL」(High Level Shader Language)によく似た構造となっていた。
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