変化はメインストリームではないところからやってくる
直球で「愛」とは言わない! 背中で語るアニメの美学 【後編】
2010年10月30日 12時00分更新
「脚本の温度が低い」
―― それでも印象に残るということは、キャラ立て以外で際立ったものがあるのかもしれません。ご自身の脚本の特徴はどのようなものだと思いますか。
大西 よく書かれるのは、地味な脚本(ホン)だと。実際、脚本の温度は低いと思うんです。
(c)A-1 Pictures/閃光のナイトレイド製作委員会
―― 温度が低い?
大西 何というか、熱い脚本を書けないんですよ。熱血な主人公がいて、主人公の情熱で物語を引っ張っていくような勧善懲悪ものがなかなか書けない。力業で勝ってしまうのは、なかなか書きづらいところがありますよね。
つい、理屈が欲しいと思ってしまって。勝つのなら、勝つための理屈がないと落ち着かない。根性で勝ってしまうというのは、観ている分には受け入れる部分もあるんですけど、自分が書くとなると何となく気恥ずかしいという。
―― 桜井を書いていて、ご自身で、ここは決まったなというシーンはありますか。
大西 第5話の「一雨欲しいところだな」というのが自分でも気に入っていますね。
(葛が追う、西尾という男について尋ねる桜井)
葛 「昔の級友です。それだけです」
桜井 「そうか……。もう関わるなということだ。意地でもあちらで始末をつけるつもりらしい……」
葛 「……」
(遠雷が聞こえる)
桜井 「(汗を拭き)一雨欲しいところだな……」
(第5話「夏の陰画」脚本より)
―― 雷の音がして「一雨欲しいところだな」と。そのあとに続く雨のシーンが、西尾のその後などの結末を予感させますね。
大西 桜井は、声が大林隆介さん※だったし、雰囲気がすごく出ていました。「ナイトレイド」全体の雰囲気まで表してくれた感じという気がしていますね。
※ 大林隆介 : 「機動警察パトレイバー」後藤喜一役、「機動戦士Zガンダム」ベン・ウッダー役など
(c)A-1 Pictures/閃光のナイトレイド製作委員会
熱い若者たちをよそに、物事を常に外側から見ている桜井。「雨」が、情熱で動く若者たちの今後の悲しみを象徴しているとすれば、「一雨欲しいところだな」は、彼らに冷や水を浴びせるというようにも感じられる。なぜアニメ業界では、こういった低温かつ象徴的な脚本が「異色」なのだろうか。
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