岩本氏が指摘する“出版社ならではのコンテンツとは?” |
ここ数年、ちまたでは“雑誌離れ”が進んでいると言われるようになった。その原因のひとつとして挙げられるのが、インターネットの普及だろう。岩本氏の講演では各種ネットビジネスが登場した1997年以来、9年連続で毎年0.7%~3.6%雑誌の販売金額が低下していると紹介された。
それではこのまま雑誌はネットメディアに押されて衰退してしまうのだろうか? 岩本氏は情報へのアクセス方法を引き合いに出し、「インターネットの検索エンジンから見つかる情報はユーザーの興味のあるもののみ。一方、雑誌は検索エンジンでは出てこない“興味のない事柄”への興味を喚起できる」と、今でも変わらない雑誌の優位性を説く。
また岩本氏は、従来のネットメディアを「ウェブサイトやブログなどは情報を発信する側がコストを負担し、書きたい人がタダでも書くという“自分史”に似ている存在」と分析。「情報を受ける側がコストを負担し、お金を払ってでも読みたいという、質と編集力が勝負の情報」を提供できるのが出版社のコンテンツであると述べている。
「最大限、ネットの力を味方に付けて利用する。そして出版社が培ってきたノウハウとテクニックを発揮すること」――。これこそが、今後、出版メディアが向かうべき道だと岩本氏は強調した。
プリペイドカード販売も視野に
一方で、電子雑誌の行く先にも懸念がないわけではない。岩本氏は、「執筆者の理解と了解が得られるか」「書店など、従来の販売ルートにもメリットはあるのか」「紙の雑誌の売れ行きにどう影響を与えるか」「何より日本の読者に受け入れられるのか」といった問題点を指摘する。
執筆者の理解と了解については、スタート時の雑誌にふさわしいものを選定することで解決。従来の販売ルートに対する問題は、電子雑誌を購入できるプリペイドカードを作って書店売りする構想があることを明かした。
紙メディアへの影響は、米国では電子雑誌の登場で紙の雑誌の売れ行きも増加傾向にあると紹介。最後に日本の読者に受け入れられるかどうかについては「やってみなければ、わからない」と結ぶ。
2006年が“電子雑誌元年”となるか
『iTunes Music Store』 |
電子書籍からもう少し視野を広げて、日本における電子コンテンツ配信を見渡せば、2005年は“着うたフル”や“iTunes Music Store”の普及で、音楽のダウンロード配信に火がついた年だった。
2006年前半は、出版社やオーサリングソフトメーカーが携帯電話機へのコミック配信に対して本腰を入れ始めており、コンテンツ配信の業界自体は盛り上がっていると言えよう。
岩本氏によれば、小学館の電子コンテンツの売り上げは「近年ではコンテンツ数を増やせば増やすだけ、売り上げが伸びている。元々分母が小さいので全体の売り上げから見るとそこまで大きくはないが、急激な伸び率はほかのどの部門よりも勝っている」とのことで、手応えを感じているようだ。
とはいえ現状では、Zinioの国内サービス開始時にどれだけの出版社が参加してどれほどのタイトルが揃うのか、価格や使い勝手でどれほど既存の雑誌を超える魅力を実現できるのかといった点が明らかになっていない。
携帯電話への配信の流れにのって、2006年後半、電子雑誌が成功するかどうか。雑誌業界全体の意気込みとその手腕が問われるだろう。