4月16日から18日(現地時間)まで、米ワシントン州シアトル市で米マイクロソフト社が主催するハードウェア開発者向けのイベントである“WinHEC(Windows Hardware Engineering Conference)”が開催されている。会場は、シアトル市内の中心部にあるWashington State Convention & Trade Center。
WinHEC会場入り口の様子 |
調子の上がらない(?)WinHEC初日
かつてはWinHECといえば、それなりの話題になったもので、イベント開催前から報道されるなどの盛り上がりがあったが、どうもそれは過去の話のようである。日本のマイクロソフトの広報もあまり積極的ではなく、事前に案内を出してくれるように頼んだにもかかわらず、結局出発までなんの反応もなし。米国本社の広報を担当しているPR会社にメールを出したら、半日もしないうちに案内が来た。
会場となったWashington State Convention & Trade Center。シアトルの中心部にある |
通常のイベントであれば、初日から話題になるようなキーノートスピーチを持ってくるのだが、今回のWinHECでは、ビル・ゲイツ(Bill Gates)氏のキーノートスピーチは最終日である18日。米インテル社の社長兼COOのポール・オッテリーニ(Paul Otellini)のスピーチも最終日である。
マイクロソフト副社長のジム・オルチン氏。最初はにこやかだったのだが…… |
クライアントPCを3つに分類し、それぞれに目標を掲げた |
さて、初日の16日はマイクロソフト副社長のジム・オルチン(Jim Allchin)氏のスピーチ。現在の状況説明といったところで、特に大きな発表という話ではなかった。スピーチ途中で、BluetoothとIEEE 802.11bが共存することを見せるというデモがあった。ところが無線によるインターネットアクセスができず、意図とは逆に両者が共存しないことを見せて(?)しまうデモになってしまった。これにはオルチン氏も相当頭にきたようで、一瞬、語調がかなり怒りを含んだものに変わってしまった。もっとも、すぐに普通の調子に戻ったが、なんか、最初からつまづいた感じである。
IEEE 802.11bとBluetoothの共存を見せるデモの最中にアクシデント発生。無線LANでインターネットにアクセスできなくなってしまった。一瞬、オルチン氏は怒りの表情をみせた |
イベント自体は、クライアントやサーバー、デバイスドライバなどのいくつかのトラックに分かれ、並行して複数のコンファレンスが進行する形で、展示会場も併設されている。16日は初日ということもあり、コンファレンスもどちらかというと導入的な感じのものが多いが、明日からは深い内容に入っていく感じだ。また、このWinHECの期間中には、ハードウェア関連各社のプレゼンテーションも行なわれる。
Windowsのロードマップ。2003年には、『Windows.NET Server』が登場し、その後次期Windowsである“Longhorn”に移行する。Windows.NET Serverにはウェブサーバー専用版が追加され全部で4系列(現在は3系列)となる。このほか『SBS(Small Business Server)』も『SBS 2002』として登場 |
PDA並みの小型パソコンが登場
今回米トランスメタ社は、OEM先の1つである米OQO社のウルトラパーソナルコンピューター『OQO』の紹介をWinHEC会場近くで報道関係者向けに行なった。簡単にいえば、PDAサイズの小さなWindows XPマシン。10GBのHDDとIEEE 802.11b/Bluetooth、USB、IEEE 1394インターフェースを持ち、タッチパネル付きのカラーVGA液晶ディスプレーを備える。単体でパソコンとしてそのまま利用できるが、デスクトップマシンに接続して外部記憶装置のようにも利用できる。サイズは幅105×奥行き74×高さ22mm、重さは250g。Pocket PCなどよりひと一回り小さく、ちょっと厚みがあるという感じだ(ちなみにコンパックの“iPAQ”『H3630』が幅83.5×奥行き130×高さ15.9mmで180gである)。
米OQO社のウルトラパーソナルコンピューター『OQO』。手前側には拡張コネクターとUSB、IEEE 1394コネクターがある。また、写真左側の端にはヘッドホンジャックがある |
CPUにトランスメタのTM5800-1GHzを使っているために、今回トランスメタ経由でのお目見えとなった。256MBのメモリーを内蔵しており、スペック的にはノートパソコン並みである。バッテリー駆動時間は正確には示していないがMP3プレーヤーとして利用すると7時間、MPEGファイルの連続再生では2時間程度だという。
反対側から見たOQO。中央に見えるのはシーソー式のポインティングデバイスで、IEEE 802.11b/Bluetoothのアンテナを内蔵しているという。右側の小さな穴がマイクで、左側下の部分は小さなファンのための排気口。TM5800-1GHzを最大パフォーマンスで連続実行させると、この筐体ではどうしてもファンで排気しないと放熱ができないとのこと |
単体で持ち歩いてMP3プレーヤーなどにも使えるし、ちょっとしたデータの参照なんかもできる。液晶がVGA(640×480)なので、最近のアプリケーションの表示にはちょっと能力不足を感じるが、逆に持ち歩きのできる外部HDDで、移動中でも中の情報を参照できると思えばいい。米アップルコンピュータ社の『iPod』は、MP3プレーヤーだが、FireWire(IEEE 1394)経由で使えば単なる外部記憶装置として利用でき、日常的に使うデータをそのまま持ち歩けるわけで、コンセプト的には似たものを感じる(iPodは、アドレス帳として使うためのソフトなども登場しているので、液晶は小さいものの、PDA的な要素が入ってくるのではないかと思われる)。
OQOを持つ、米OQO社社長兼CEOのジョリー・ベル(Jory Bell)氏。日本の携帯電話やPDAにも詳しいだけでなく、アニメにも詳しいらしい。以前はアップルコンピュータで『PowerBook G4』(例のチタニウムのやつだ)を担当していたという |
なお、このOQOは2002年下半期にOEMメーカー(家電関係だという)から発売される予定で、価格としてはローエンドのノートパソコン程度(1000~1500ドル。日本円で約13万~19万5000円)を考えているという。PDAとしても、外部記憶としても非常に高価だが、非常におもしろいデバイスである。
また米AMD社はプロセッサー関係についての情報提供を行なった。国内では17日付けで0.13μmプロセスの『モバイルAMD Athlon XPプロセッサ』(“Thoroughbred”コア)が発表になったが、同じコアを使ったデスクトップ向けプロセッサーも今年上半期中に登場予定。その次には“Barton”と呼ぶ0.13μmプロセスでオンダイ2次キャッシュ512KB版のAthlonコアをが、今年の下半期に登場する予定だという(従来BartonはSOI技術(※1)を採用という話もあったが、SOI採用はなくなった模様)。このとき、モバイル向けのBartonも用意するという。また、2002年後半から2003年前半にかけて登場が予定している64bitプロセッサー“ClawHammer”は、2003年下半期には0.09μmでSOI技術を使ったプロセスの“ClawHammer-S”に切り替える予定だという。だとすると米AMDは、2003年には0.09μmプロセスへの移行を開始するわけで,これはかなり早いペースである。
※1 SOI(Silicon on Insulator):半導体回路をシリコンウエハー上に形成する際、まずウエハー上に絶縁膜を作り、その上にトランジスターを作るというもの。この技術を使用することで、低消費電力化や、20~30%高速化できるという。米AMDは2001年3月に米IBM社とSOI技術に関するライセンス契約を結んだ。これまで米AMDでは“Hammer”と“Barton”からSOI技術を導入するとアナウンスしていた。米AMDが中心となって開発したチップ接続高速化技術“HyperTransport”関連では、すでに次期バージョンの策定に入っているという。まずは、現行の規格を強化する方向で、具体的にはピンあたりの帯域を1.6Gbpsから2Gbpsに高速化する予定。また、将来的には信号を多値化することで4~6Gbpsまで引き上げるという。そのほか、アドレッシングの64bit化やハードウェアによるエラーマネジメント(自動リトライなど)を組み込むために、HyperTransportコンソーシアム参加の各社から提案を受け付けているところだという。64bit化に対しては米シリコングラフィックス社が、エラーマネジメントについては米サン・マイクロシステムズ社が提案を行なっているという。