WinHEC最終日(現地時間17日)はビル・ゲイツ(Bill Gates)会長兼チーフソフトウェアアーキテクトと、米インテル社のポール・オッテリーニ(Paul Otellini)社長兼COOのキーノートスピーチが行なわれた。
今日は一応、米マイクロソフト社から世界初の“商用”製品としてBluetooth対応のキーボードとマウス、そしてBluetooth送受信機が発表されたが、出荷は今年の後半で価格は未定である。もっとも、マイクロソフトは、Windows用のBluetoothスタックを出荷していないので、今出荷しても使えないのではあるが。
いままでのセッションの話などを総合すると、BluetoothはWindows XPの無線LANと同じような形でサポートするらしい。
キーノートスピーチに登場したビル・ゲイツ会長兼チーフソフトウェアアーキテクト。しかし、この人の服装、シャツの色が違うだけで、去年のPDCも今年のCESも同じである |
初日にジム・オルチン(Jim Allchin)副社長がBluetoothとIEEE 802.11bを共存させるデモで失敗したときも、Windows XPの無線LANと同じようなダイアログに多くのアクセスポイントが表示されていた。あのとき、キーノートスピーチ会場は全部テーブル付きで、多くの参加者がノートパソコンを出していたし、会場で無線LANによるインターネットアクセスができるとアナウンスされていたために多くのユーザーが無線LANを使っていたようだ(筆者も接続できるかどうか試していた)。それで結局Windows XPが目的のデバイスを見つけられなかったのかもしれない。図らずも会場がWindows XPの無線機能のテスト現場となってしまったわけだ。
こんなので大丈夫なんでしょうかね。オフィスでみんながBluetooth対応キーボードやマウスを使っても。気が付くと隣の人のパソコン動かしてたとかね。
マイクロソフトは現在Windows XPで行なわれているエラー解析サービスを強化する予定。エラーデータを集め、IHV/ISVに公開し、バグフィックスなどはWindows Updateで公開するという。同社の調査によると1%の欠陥がクラッシュの50%を占めているとか |
マイクロソフトの示す未来に疑問あり
ゲイツ会長のの話は、「まだPCは健在」ということに尽きる。現在ではPDAやセットトップボックスといったさまざまな機器が登場しているが、パソコンは柔軟性に富み、今後も家庭などでさまざまな役割を果たすだろうということ。インターネット電話やウェブアクセスが可能なテレビといったものがあるが、それよりもパソコンと家電製品そしてMiraなどの組合せの方がいいよ、と言いたいわけだ。
電話サービスを利用するときに便利なUSB接続のヘッドセット。たしかにマイクとスピーカーの電話には違和感がある |
言い分は分からないでもないが、1つにはリビングでテレビを見ながら動画付きのメールを読むような生活をしたいと思っているかどうか、あるいはそれがほんとに便利なことなのかどうかである。さらに言えば、音楽、映像業界や家電業界それぞれの思惑が障害としてそこに出てくる。マイクロソフトが、いくらネットワーク経由でMP3ファイルが家中好きなところで聞けるとか、Windows Media Playerで映画を高画質で見ることができるといっても、著作権のような問題をどうするのか、あるいはコピーコントロールCDのようなものをどうするのかという問題も出てくる。これは、一見法律的な問題にも見えるが、実際には音楽、映像業界とマイクロソフトの対立なのである。
Miraで制御されて、テレビの視聴中に送られてきた動画を再生表示できる |
今回の多くの家庭向けデモが映像を扱ったものだったが、そうした、ネットワークやパソコン経由で、さまざまな作品が楽しめるようになるにはどうも道のりが長そうである。
オッテリーニ氏は開発中のプロセッサーのデモ
さて、このようなマイクロソフトに対して、後から登場したインテルのポール・オッテリーニ氏のスピーチはかなり真面目である。具体的には開発中のモバイル向けプロセッサー“Banias”と、“HyperThreadingテクノロジ”(※1)をサポートする次世代Pentium 4“Prescott”のデモを行ない、次々世代Itanium“Madison”の話をした。内容としては今年2月の“IDF Spring 2002”のダイジェストという感じだが、BaniasやPrescottを一般聴衆の前で動かして見せるのは初めてである。また、Baniasについては開発チームの状況を伝えるビデオも見せた(米国のIDFではここまでやってない)。
※1 HyperThreadingテクノロジ:物理的には1つのプロセッサーだが、OSやアプリケーションからは2つのプロセッサーが存在するように見え、ソフトウェアがマルチスレッドに対応していれば、1つのプロセッサー内でタスクの並列処理が可能となる技術。米インテル社のポール・オッテリーニ社長兼チーフオペレーティングオフィサー(最高執行責任者) |
Banias開発チームのリーダー、ムーリー・エデン(Mooly Eden)氏。彼らはイスラエルで開発を行なっている(画面キャプションでEdanとあるのはEdenの間違い) |
Baniasは、この前のIDFでは対応するチップセットの“Odem”のみを公開し、Banias本体は何も見せてくれなかった。このときにはPentium 4に電圧やピン配置などを変換する“ゲタ”を履かせて利用していたが、今回はBaniasの試作チップを使っている(残念ながら写真は撮れなかった)。
Prescottのデモを行なった米ヒューレット・パッカードの小型デスクトップマシン |
もう1つは米ヒューレット・パッカード社による、Prescottの試作機を使ったHyperThreadingのデモである。現在Xeonで利用可能なHyperThreadingは、来年登場のPrescottでデスクトップ機でも利用可能になる。今回はそのPrescott搭載マザーボードを小型匡体(匡体はHP製となっているのでHPの試作機と思われる)に収めたもので、ビデオエンコーディングのデモを行なった。
HyperThreadingテクノロジがある場合(右)とない場合(左)でのビデオエンコードのデモ。画面右上のインジケーター(矢印部分)がHyperThreadingありのほうは2つになっている |
世界で最初にPentium 4に移行した国は? 中国だという。つまり新しく登場した市場が最新のテクノロジーを購入することになるというわけ |
最終日ともなると、ずいぶんと人の姿も減り、海外から来ているエンジニアばかりが目立つ感じになる。最終日のコンファレンスも少しまわってみたが、かなり空席が目立つ。5時に最後のコンファレンスが終わると自由解散という感じでみんな帰っていく。プレスルームもすでに片づけが始まっており、人影もあまりない。
今ひとつ盛り上がらなかったのは谷間の時期だから?
さて、3日間を振り返ってみると、ちょうどWindows XPが出た直後であり、次世代Windowsは2004年リリース予定の“Longhorn”となるために、今回は谷間の次期にあたる。今回のコンファレンスでは「Longhornではこうなる」とか「Longhornで対応予定」といった話が多かったが、あくまでも計画、予定の話ばかりだった。
マイクロソフトではBluetoothのSDKを5月に出荷し、今年後半にWindows XPでのサポートを開始する |
来年だともう少し具体的にLonghornの仕様がはっきりして、開発者向けには必要なハードウェアやデバイスドライバーなどの話ができるのだと思われる。
2つの液晶パネルを使ったディスプレー。表示にはWindowsのマルチディスプレー機能を使う。こうすることで安価な液晶パネルを複数使って広いデスクトップを実現できる |
その意味では“目玉”のないWinHECというのが今回の印象である。なお、米国外では次に台北でのWinHEC開催が予定されている。かつてWinHECは日本でも開かれていたのだが。パソコン開発の中心は台湾に移ってしまったようである。
3つの画面を境目なしに表示するディスプレーの試作品。どうも後ろから映像を投影するリアプロジェクション方式らしく、後ろに市販のプロジェクターが見えた |