SEMIジャパン(※1)は11日、都内で“SEMI FPD Expo 2002”(※2)の開催説明会を行ない、合わせて“21世紀のフラットパネルディスプレイ(FPD)産業を展望する特別講演会”を開催した。講演では、(株)日立製作所ディスプレイグループ プロダクトマネージャの田嶋善造氏とJPモルガン証券会社株式調査部ヴァイスプレジデント シニアアナリストの大森栄作氏が、国内FPD産業(※3)の見通しなどについて語った。
※1 SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)ジャパン:SEMIは半導体とフラットパネルディスプレーの製造装置や材料メーカーが所属する、非営利の国際団体(本部は米カリフォルニア州サンノゼ)。SEMIジャパンはその日本事務所(東京都千代田区)。2000年末の正会員は2458社、うち日本企業は530社。※2 SEMI FPD Expo 2002は、2002年4月16~18日に有明の東京ビッグサイトで開催予定。SEMIが主催し、東京都と米国大使館が講演予定。(社)電子情報技術産業協会が主催する“EDEX 電子ディスプレイ展”“ESS システムLSIソリューションフェア”が同時開催。
※3 FPDには液晶ディスプレーのほか、PDP、有機/有機ELディスプレー、LEDディスプレー、蛍光表示管、FED(電界放射ディスプレー)などが含まれる。ただし、統計資料にもよるが、現時点では液晶がFPD市場の8~9割を占めている。
日立製作所ディスプレイグループ プロダクトマネージャの田嶋善造氏 |
日立製作所の田嶋氏は“液晶製造ラインの現状と将来展望”と題した講演の中で、液晶ディスプレーの現在の市況について調査会社の資料を示し、アナリストらによる日本の液晶産業についての厳しい現状分析を紹介した後、「最後に夢のある話を」と前置きして「液晶屋の夢であるシートディスプレー(大型、薄型、軽量のシート状ディスプレー)を作るのは、私は日本のメーカーしかないと考えている。この夢に向かってがんばりましょう」と、会場の材料、部品、製造設備の技術者、経営者に呼びかけた。
大型(12インチ以上)TFTアモルファス液晶ディスプレーメーカーの生産量グラフ(単位は1000台)(出典:米DisplaySearch) |
続いてJPモルガンの大森氏が、“電子部品、FPDの動向”について講演した。電子部品市況について、来年にはワールドカップサッカーや冬季オリンピックが開催されるため、各メーカー共にAV関連の需要に期待しており、例年の需要期である年末に売れ行きが悪かったとしても“来年がある”と楽観的に見ている部品メーカーが多いという。また、パソコンについては、大森氏が指標としている産業用水晶振動子の市場が上向きになっており、年末にかけてパソコン市場は回復するとの見方を示した。
液晶産業については、'99年、2000年と何とか営業利益が黒字になっていたが、2001年は'98年以前の赤字に逆戻りするという。これは2000年末から毎月10%の割合で価格が下がったからだが、この背景には、韓国の三星電子社、LG.フィリップスLCD社、シャープ(株)の新工場が相次いで稼働し、本格的な供給過剰におちいったためと分析した。今年後半には需給バランスは改善するものの、価格の大幅上昇には結びつかず、2001年は本格的な液晶不況の年になるとした。
JPモルガン証券会社株式調査部ヴァイスプレジデント シニアアナリストの大森栄作氏 |
また大森氏は液晶市場における日本メーカーの位置づけについて、営業利益においては、日本メーカーはサムスン電子やLG.フィリップスLCDの2社に大きく水をあけられた状態(2000年の営業利益はサムスン電子が1100億円、LG.フィリップスLCDが700億円。シャープは400億円、エプソンが350億円と続く)で、売り上げにおいてもTFT液晶だけではやはりこの2社の後塵を拝しているという。なお、台湾企業はまだ赤字の状態で、今後伸びるかどうかはまだ分からないとした。液晶産業は利益は薄いが、大きな投資が必要な産業となっており、設備投資のタイミングこそが利益の分かれ目になっているという。
こうした状況から、液晶メーカーはこれまで利益の出ている勝ち組とそうでない負け組に分かれているという。勝ち組には、タイミングの良い積極的な設備投資や、差別化技術を持つ、サムスン電子、LG.フィリップスLCD、シャープ、日立製作所、エプソンが上げられるという。液晶から撤退したホシデン(株)や、TFTアモルファス液晶を外注化し、低温ポリシリコン液晶に特化しつつある(株)東芝はいわば逃げ切りであるが、日本電気(株)、松下電器産業(株)、富士通(株)、三菱電機(株)、カシオ計算機(株)、三洋電機(株)などは(過去の実績において)負け組であるとした。
日本、韓国、台湾の3地域に分けて見ると、日本は中小型(10インチ以下)市場ではトップであり、開発力技術力に優れ、ガラスやフィルター、ドライバー回路などの周辺も抑えている。韓国はノートパソコン、モニター向けではトップで、生産力において優位にあるという。台湾はモニター向けで韓国に匹敵し、資金調達やユーザーとの距離が近い強みを持つとしている。
大森氏の分析によると、'90年代の液晶産業はパソコンが牽引し、製品や技術戦略、生産性向上などに大型化が求められてきたが、2000年代は携帯電話やゲームデバイスなどが中心となり、中小型製品、ポリシリコン液晶、カラーSTN液晶製品が求められるようになるという。技術戦略においても、低消費電力や反射技術が求められ、こうした技術力を持つ日本が競争力を再び持つ可能性があるとした。今後液晶産業で勝ち残るためには、独自技術を生かし、積極的な設備投資を行ない、共同の生産工場などのアライアンスを組むといった戦略が必要であるとまとめた。
講演を聴いていたのは、ほとんどがSEMIジャパンの会員である部品、製造設備、材料メーカーなどの経営者や技術者で、田嶋氏、大森氏が語る液晶産業の厳しい状況の説明に熱心に聞き入っていた。講演後には質疑応答の時間もとられたが、ほとんど質問は出ず、こうした認識が浸透しているように感じられた。