「CapCut World」で聞いたAIとクリエイターの現在地
AIでデザインが簡単になっても残る仕事 AIで変わる4人のクリエイターの仕事と人生
2026年11月03日 11時00分更新
2026年9月5日、動画編集アプリ「CapCut(キャップカット)」は、初のグローバルコミュニティイベント「CapCut World」をシンガポールのCapella Singaporeで開催した。CapCutのユーザーは現在、世界170以上の市場で6億6000万人を超える。会場にはクリエイターや業界関係者、CapCutのスタッフなどが集まり、新機能の紹介や作品上映、ワークショップなどを通じて、動画編集の枠を超えた創作の未来をアピールした。
ステージ発表とは別に、各国のクリエイターが順番に登場するメディア向けの質疑応答も行われた。今回は、個別に取材した日本のISSEIさんに加え、メディアセッションに登壇した日本のしまやすさん、インドネシアのErinatiさん、シンガポールのHenri Kangさんの話を紹介する。
ISSEIさんがAIに求めるのは、映像を作る時間より考える時間
日本から参加したISSEIさんは、YouTubeのチャンネル登録者数が日本最多となる約7600万人に達するショート動画クリエイターだ。言葉を使わないコメディーで海外の視聴者にも親しまれており、TikTokで活動してきたことから、動画テンプレートが海外でも広く使われていることは知っていた。それでも、シンガポールの会場でさまざまな国のクリエイターを目にし、CapCutが世界的なツールなのだと改めて驚いたという。
CapCutが世界で広く使われている理由にも納得だと、ISSEIさん。操作を始めるまでのハードルが低く、簡単な編集だけで終わらず、細かい部分まで自分で手を入れられるためだ。動画を撮ってすぐ公開したい人と、仕上がりを追い込みたい人が同じアプリを使えることが、CapCutの強みだと見ている。
普段使っているAI機能を尋ねると、少し意外な答えが返ってきた。実は新しいAI機能を積極的に使い始めたのは最近で、以前から重宝していたのは顔の補正機能程度だったという。肌の質感を滑らかに整える機能で、ISSEIさんは動画版のプリクラに例えた。自分の肌の調子が気になるときに使っていたそうで、最新の生成AIばかりが便利な機能というわけではないらしい。
とはいえ、今は新しい映像生成も積極的に試したいと考えているとのこと。これまではCapCutで編集中の動画から一部分を切り出し、別の生成AIサービスに渡して加工し、出来上がった映像をCapCutに戻すこともあった。問題は、生成が必ずしも一度で決まらないことだ。何回か試してようやく納得できる映像になっても、最後に画角を少し寄せたいだけで、別のサービスでまた作り直す羽目になる。
その点、CapCutの中で生成から編集まで済ませられれば、ファイルを何度も行き来させる必要がない。大がかりな変更はAIに任せ、ほんの少し拡大したい場面ならタイムライン上で手動調整すればいい。技術的には似た映像を作れるサービスがほかにもあるが、作業の途中で使うツールを切り替えなくて済む違いは大きい。
ISSEIさんがAIに期待するのは、編集作業の効率化にとどまらない。動画のアイデアを生み出す過程そのものも、AIによって大きく変わると考えているという。現在もCapCutのテンプレートから思いがけない発想を得たり、頭の中に浮かんだ映像を編集ツールで具体化したりしているのだ。
さらに将来は、作りたい動画のイメージを言葉で伝えるだけで、AIが何通りものストーリーボードを提案し、そこから自分の表現に合うものを選べるようになるかもしれないと考えているそう。AIに言われた通りに作るのではなく、自分にはなかった発想を取り込みながら、作品をより面白くしていく。そんな創作のパートナーとしての可能性を感じているようだ。
「AIは自分の時間を作ってくれるし、自分の枠組みにはないものを提案してくれます。ただ、どんなものが人に刺さるのか、データを見ながら改善を重ねていくのは、まだ人間がするべき部分だと思うんです。自分が今後どんなアイデアを作り、何を伝えたいのか。そういうコアなことに使う時間を作ってくれる、パートナー的な存在ですね」(ISSEIさん)
しまやすさんが説く、AIでデザインが簡単になっても残る仕事
メディアセッションに日本から登場したのは、デザイナーのSHIMAYASU(しまやす)さんだ。元ヤフーのデザイン責任者で、現在はWebサイトやUI・UXの制作、企業向けコンサルティングに加えて、デザイン教育にも携わる。著書に「デザインにセンスはいらない デザインの解剖図鑑」がある。
デザインを教える仕事には原体験があるという。制作会社にいた頃、初心者に一から仕事を教え、成長した人が社員として働くようになった。そこで感謝された経験が、デザイナーを育てる活動につながっているという。誰もが最初からプロの道具を使いこなせるわけではないことを、現場で見てきた人だ。
しまやすさんがCapCutを本格的に使うようになったのは、デザイン制作を支援する「Design Studio」の登場がきっかけだった。例えば、赤を基調にしたデザインを青に変える場合、単に色を置き換えるだけでは全体のバランスが崩れる。従来なら配色を調整しながら何案も作る必要があったが、AIなら元のデザインを基に複数のバリエーションを出し、見比べながら方向性を決められる。自分の考えを広げるための相手として使っているわけだ。
とはいえ、制作を簡単にすることがデザインの目的ではないと、しまやすさん。
「デザインって、作ること自体よりも、どういった人の課題を解決するかが大事だと思っています。例えば切符売り場でチケットを買って電車に乗れるようにする。そのコミュニケーションを円滑にするのがデザインです。どのように作るかは、あまり本質的ではない。課題を解決することが誰にでもできるようになる、そこが民主化されるのは素晴らしいと思います」(しまやすさん)
そんな考え方は、今後の機能への注文にも表れていた。しまやすさんが欲しいというのは、CSVのデータを読み込んでQRコードまで生成できる機能だ。実際の仕事で必要になる一連の作業を、1つのツールの中で済ませたいという。さらに、AIとのやり取りそのものが自然になり、話しかけながらその場でデザインを作れる未来も想像しているという。
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