表現力ではエントリーのフルサイズ機を上回る
さて、「サイズを超える妥協なきHi-Fiサウンド」を掲げる本機だが、その実力はどうだろう? 編集部はB&Wのハイエンド・スピーカー「801 D4」および「805 D4」を用いた試聴デモを通して、そのポテンシャルに触れることができた。
フルサイズ機「CD6007/PM6007」と比較
デジタルアンプ搭載で音が細かく、キレがいい
このデモンストレーションでは、実売価格で合わせて10万円程度となるマランツのフルサイズHi-Fiコンポーネント、CDプレーヤー「CD6007」とプリメインアンプ「PM6007」のペアとの比較ができた。MCR 60nはこれら2台の機能を一つにまとめ、さらにHDMI入力(eARC)やBluetooth、ネットワーク機能などを追加したモデルと言える。多機能であるのはもちろんだが、サウンドマネージャーの尾形氏は音質面でも「自信がある」と胸を張る。
ここではブックシェルフ型の805 D4を中心に据え、シーネ・エイの歌う「We've Just Begun」が再生されたした。CD6007とPM6007のペアは、ブラスの勢いが心地よく、アナログアンプならではの力強さや安定感、安心感を聴かせてくれる。一方、MCR 60nでは空間の「抜け感」が格段に良くなり、背景のノイズがスッと消え去るようなS/Nの高さがあった。ベースの分離感が際立ち、きめ細やかで情報量豊かな演奏が展開されるのだ。ブラスのキツさが消え、ボーカルのソフトで温もりあるニュアンスがふわっと広がる。
アンプモードの違いははっきり把握できた
スピーカーの出音にしっかり作用する
次に4系統のアンプの組み合わせ方(アンプモード)の違いによる変化が示された。
まず、ノーマルBTLをパラレルBTLに変更すると、音の立ち上がりが劇的に向上し、演奏の熱気が増した。ベースラインがぐんと前に飛び出し、勢いがあり、エネルギッシュなサウンドへと変貌を遂げる。
さらに、ケーブルを増やし、バイアンプ駆動を試すと、今度は空間のスケール感が一回り大きくなった。各楽器のディテールを克明に描き出しながらも、生き生きとした躍動感を両立。曲の終盤のサックスソロでは、音色の再現性が高まり、極めて滑らかな質感を聴かせてくれた。
ハイレゾストリーミングもHDMIの音も
現代のソースを鳴らし切れる多機能
ネットワーク再生のクオリティも特筆すべき点だ。Qobuzからのハイレゾストリーミングで米津玄師の『IRIS OUT)』 を再生すると、低域のパンチ感が心地よく響いた。
さらに、スピーカーを音質監修時のリファレンスとしても使用したたというB&Wの「801 D4」に切り替え、Submotion Orchestraの『Variations』を再生する。
冒頭の環境音的なざわめきが見事なS/N感で描かれ、ベースと共に現れるボーカルの押し出し感も素晴らしい。大型スピーカーでしか体験できないような深く沈み込む電子的なローエンドを、このコンパクトな筐体がしっかりとグリップして鳴らしているのがいい。インピーダンスの低い大型スピーカーを大音量で鳴らしても破綻しないのは、M-CR612と比べて大きな進化を遂げた部分だ。
本機には前モデルで要望が多かったHDMI入力(eARC)端子も搭載されている。
映像コンテンツを高音質化で楽しみたいという最新トレンドにも対応できるわけだ。Blu-ray Discでジョン・ウィリアムズ指揮のサントリーホール公演から『帝国のマーチ』を視聴したが、グランカッサ(大太鼓)の深い響きがぐいっと迫りくるなど、迫力ある音響を楽しむことができた。
各楽器の音が映像と見事にシンクロするため、オーケストラの中で何が鳴っているのかが非常に把握しやすく、没入感の高い映像体験が得られたのも魅力的な体験だ。
MODEL M1とはまた異なるアプローチ、マランツが描く多様性
こうした高音質化の裏側には、マランツならではのこだわりがある。
HEOSモジュールは最新の第7世代で、モジュール自体の仕様変更は難しいものの、周辺のノイズ対策や電源供給のノウハウを注ぎ込み、さらには基板固定用のビスに銅メッキのものを採用するなど、細かなチューニングを積み重ねている。
CDドライブのメカニズム(ピックアップとローダー)は、上位機「CD50n」と同じ高品質なものを採用しながら、デコーダーなどのソリューションを本機専用に最適化している。
本機はMODEL M1と比較されることも多いだろう。M1と音作りの共通点はあるものの、両者のアンプソリューションは別物だ。M1は入力ソースを絞り、高価なAxign(アクサイン)製アンプモジュールをベースに100Wのハイパワーを叩き出す尖ったモデル(14万3000円)である。
もし、M1のプラットフォームをベースにCDドライブやFMチューナーを追加すれば、到底この価格帯には収まらない。MCR 60nは、オールインワンとしての多機能性を担保しながら、異なるアンプソリューションと徹底した電源強化によって音質を磨き上げた「もう一つの最適解」だと尾形氏は語っていた。
現在、マランツの10〜20万円クラスのオーディオ製品はかつてないほどの充実を見せている。MODEL M1、STEREO 70s、そしてこのMCR 60nなどだ。これらは似ているようで、それぞれが異なるターゲットを設定している。
こういった側面からも、オーディオファンの趣味やライフスタイルの多様化に、真摯かつ高音質で応えようとするマランツの懐の深さが、M-CR60Nの完成度から強く感じられた。
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