マランツは9月16日、サイズを超えた妥協なきHi-Fiサウンドを標榜したオールインワンオーディオシステム「MCR 60n」を発表した。市場で高い評価を得ているロングセラーモデル「M-CR612」(2019年発売)の上位モデル。高音質・多機能・コンパクトが高次元で融合した1台として企画されている。価格は17万6000円で、発売は10月2日の予定。M-CR612は併売する。
「コンパクトだから」という妥協を排した、本物のサウンド
コンパクトな機器でいい音を楽しみたいというニーズは、日本のオーディオ市場で常に一定数あるものだ。しかしながら、オーディオ機器の多くはフルサイズと呼ばれるサイズで製品を設計しており、小型の筐体でこれと同じパフォーマンスを出すのは困難だとされている(マランツの場合、幅440mm)。アナログアンプにおいて高音質化を求めれば、余裕を持った電源部など物量投入が求められ、必然的に大きく重くなってしまうからだ。
MCR 60nは「このサイズのオールインワンで、本物のHi-Fiサウンドを提供する最初の製品にする」ことを目標に掲げた。
一方で同社は、2015年の「HD-AMP1」を皮切りに、「PM-10」「PM-12」といったハイエンド機種でもデジタルアンプ(Class D)の搭載を進めてきた。2024年に発表されたワイヤレス・ストリーミング・アンプ「MODEL M1」はそのひとつの成果と言える。MODEL M1はHDMI入力とネットワーク機能を持つシンプルなアンプ内蔵型ネットワークプレーヤーで、幅22cm以下でありながら、Hi-Fi向けの本格的なスピーカーを存分に鳴らせる製品として注目された。
本機MCR 60nは、MODEL M1とは異なるソリューションのデジタルアンプを採用しているとのことだが、10年を超える年月と共に培われたデジタルアンプ技術を惜しみなく投入することで、小型ながらも力強く豊かなサウンドを実現できる機種となった。
音質責任者が「ひとりでじっくり音を磨く体制」から生まれた製品
本機におけるサウンドチューニングのプロセスは、これまでのモデルとは一線を画しているとサウンドマネージャーの尾形好宣氏は述べる。2019年にM-CR612を開発した当時は、マランツのブランドアンバサダー/音質設計者として影響力のあったケン・イシワタ氏など、ヨーロッパのチームとのやり取りが頻繁に行われていた。
開発においても、試作機を行き来させながらフィードバックを重ねる体制となっていたが、2020年のコロナ禍を境に状況が変化した。欧州チームとのやり取りや、複数人で試聴室にこもって議論するようなスタイルが難しくなったのだ。
結果として、日本のサウンドマネージャー自身が一人でハンダゴテを握り、回路図の隅々までチェックしながら徹底的にチューニングを行うスタイルへと移行した。尾形氏は「一人で全責任を負うという重圧がある一方で、自分が納得するまで何度でも試すこともできるようになった(サウンドマネージャーが意見を出し、設計者に直してもらうとなるとやはり回数には限界がある)」と話す。
「下手なものは作れない」という強い覚悟のもと、納得がいくまで何十回と試行錯誤を重ねて音を磨き上げることにつながったわけだ。
MCR 60nでは、フラッグシップモデル「MODEL 10」(220万円)のような無尽蔵の物量投入はできないが、税抜きで16万円というコスト制約の中で、最も効果的な音質向上を果たす上で、「電源部」の強化が実施された。
ここはデジタルアンプということもあり、スイッチング電源(SMPS)が用いられているが、電流が上昇しても電圧が降下しないタフな電源回路を構築した。従来機種との特性の差を見ると、M-CR612では0.5Aあたりから電圧が落ち始め、5.0Aでは20V程度まで大きく降下してしまうのに対して、MCR 60nでは大電流を流しても電力供給能力が維持できる。これがスピーカーの駆動力と安定した再生に大きく貢献するわけだ。
高音質化を支えるアンプ技術・筐体設計、多彩なアンプモードは継承
ここで本機の個性的なポイントを一つ紹介する。ステレオ再生のアンプだが、内蔵するアンプの数は合計8ch分あり、標準状態でも片側2chずつ(合計4ch)を使用するBTL接続となっている(出力65W/4Ω)。
本機ではこれとは別に、2台のスピーカーを接続して個別にボリュームを設定できる「A+B接続」やバイワイヤリング対応スピーカーの「バイアンプ駆動」、そして、8ch全てのアンプを使用することで、シングルワイヤリング対応のスピーカーでも駆動力のアップを目指せる「パラレルBTL」接続など、多彩なアンプのアサイン機能が用意されている。
2組のスピーカーを用意して、気分に応じて違う音を楽しんだり、高級スピーカーの持つ潜在能力を最大限発揮できるように設定したりと、好みに合った使い方が可能なわけだ。
筐体構造もサウンドに大きく貢献している。外観は最新のMODEL 10やMODEL M1のデザインテイストを踏襲。外装にはポリカーボネート入りの強化プラスチック樹脂を採用(フロントパネルは制約をクリアするためタッチセンサー仕様)しており、ボトムカバーは放熱と音質を考慮して密閉させず、風通しの良い構造とした。インシュレーターはインナーシャーシにマウントするデュアルレイヤー構造を採用し、共振を効果的にコントロールしている。
最新版HEOS搭載でネットワーク周りの機能も充実
機能面の進化にも触れておこう。本機が対応するソースは幅広く、CD、USBメモリーに保存したデータ、FM/AMラジオ、Roon Readyなどに対応。さらに、Spotify、Amazon Music、Qobuzなど、各種音楽ストリーミングにも対応する。スマホやワイヤレスヘッドホンと連携するためのBluetooth送受信機能も備えている。
全面的に刷新されたヘッドホンアンプ回路にも注目したい。ここには、マランツ独自の高速アンプモジュールである「HDAM-SA2」の最新版を使用している。初期の試作では基板が3枚に分かれて立体的に組み合わさるなどスペースの制約に苦しんだが、SACDプレーヤー設計の知見をフルに活かし、チップ抵抗の配置やコンデンサーの選定などを幾度も見直すことで、妥協のないクオリティへと引き上げた。3段階のゲイン切り替えに対応するなど機能も本格的だ。
MM対応のフォノイコライザーは、アナログレコードの愛好家にとって嬉しいポイントだろう。フォノ入力では入力時に信号がデジタル化されて処理されるが、アナログ信号を音の良い状態でA/D変換するために、シールド線やシールドケースを設置してデジタル起因のノイズを徹底的に排除する仕組みにしている。
アナログ出力用には金メッキ端子のLINE出力と、可変対応のサブウーファー出力(2系統)も装備している。
また、設定したソースと音量をワンプッシュで選べる「スマートセレクト」機能も装備。インターネットラジオ局やSpotifyのプレイリストなどを最大4つまで登録して、ワンタッチで呼び出すことができる。
マランツの原点「コンソレット」の哲学を受け継ぐ
最後に本機にまつわるちょっとエピソードを紹介する。創業の前年となる1952年、マランツの創業者ソウル・B・マランツは、自宅のキッチンで名機の原型となるプリアンプ「Audio Consolette(小さなコンソール)」を生み出した。多様なレコードのEQカーブに1台で対応でき、正確な音を引き出すそのコンセプトは、現代のあらゆる音楽ソースを1台で高音質に再生するMCR 60nの思想と深く通じている。
「温かみ、洗練、控えめなラグジュアリー」をテーマにしたインダストリアルデザインは、オールインワン・コンパクトの頂点にふさわしい品格を備えている。B&WやDALIといった高品質なスピーカーと組み合わせた際にも見事に調和し、一目でマランツ製品だとわかる落ち着いた佇まいが魅力的だ。「サイズを超える妥協なき、Hi-Fiサウンド」を体現した本機は、リスニングルームやリビングでの上質な音楽体験を求めるオーディオファンにとって魅力的な選択肢となるだろう。
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