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マクニカ×ASCII連載 第1回

世界最大級の産業見本市「ハノーバーメッセ」インサイトレポート【前編】 新事業開発の視点で見た先端技術実装の最前線

2026年09月03日 11時00分更新

文● 栗本欣行(マクニカ)

提供: マクニカ

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 マクニカで新事業開発としてフード・アグリテックソリューション室長とソリューションビジネス推進室長及び、2030年以降の技術領域を探索するフロンティア・リサーチラボで合成生物学のシニアリサーチャーしている栗本欣行です。

 これまでもシード探索や技術動向把握のためにグローバルに各ドメインで主要なカンファレンスや展示会を見てきましたが、今回初めて、先端技術実装やコンセプト提示が比較的早く見られると言われているドイツのハノーバーで4月20日から24日に開催された「ハノーバーメッセ2026」に行ってきました。

フード・アグリテックソリューション室長 兼 ソリューションビジネス推進室長 兼 フロンティア・リサーチラボ 合成生物学シニアリサーチャー 栗本欣行 マクニカで育んだ知見も使ってハノーバーメッセをレポートします。

■私がハノーバーメッセを訪れた理由

 私は、現在はフード・アグリテックの部門において、政府成長戦略でも注力されている植物工場にフォーカスしており、マクニカで取り扱う先端技術を活用して環境データや生育データを取得し、生成AIによる分析や自律型研究開発、生産の効率化につながるプラットフォームの社会実装に取り組んでいます。

 新卒でマクニカに入社して以来、通信基地局、車載、産業機器などの半導体、機器開発やOT領域で求められる新たなサイバーセキュリティなど時代ごとに必要とされてきた技術に携わってきました。

 そのため、日頃から最新の技術動向に触れ、さまざまなサプライヤーやスタートアップの技術やソリューションを見る機会があります。では、近年注目しているAIエージェントやデータ活用、デジタルツインといった技術は、実際の産業現場でどのように社会実装されていくのでしょうか。それを確かめるべく訪れたハノーバーメッセの様子や、注目を集めていた技術、そこから私が感じた産業の未来や方向性などを紹介しましょう。

■世界最大級の産業展示会「ハノーバーメッセ」とは?

 ハノーバーメッセは、インダストリー分野における世界最大級の展示会です。過去に訪問したメンバーからは、「3日くらいあれば大体見られる」と聞いていました。しかし、会場はかなり広く、各ブースの説明をしっかり聞きながら回ろうとすると、とても3日では足りません。

ハノーバーメッセ2026の会場周辺。世界中から産業分野の関係者が集まる世界最大級の展示会です。

 日本の展示会では、個別の製品やソリューションを紹介する展示が行われる傾向がありますが、ハノーバーメッセでは、個別の製品を見せるというよりも、企業活動全体をどのようにつなげるのか、企業全体がデータによってどのように最適化されるのかという視点で展示が構成されていることが印象に残っています。

 私が今回ハノーバーメッセを訪れた理由は、特にフード・アグリテック分野で取り組んでいる事業に活かせるヒントを得るためでした。現在マクニカが持つ技術では、データ収集、エージェント開発、マルチエージェント、エッジAI、フィジカルAIを社会実装できる環境がありますが、それぞれが連動しながら急速に進化している状況です。また、これらの革新的な技術により、従来必要とされていた技術やプロセスそのものを大きく変える可能性があります。

 このようなAIやデータ活用が実際の産業分野でどのように使われようとしているのか、どのようなアーキテクチャでサービス化されようとしているのかを見たかったのです。

 そのような視点で見て回ったハノーバーメッセを、私の視点でお伝えします。

■世界の最前線で見た技術と熱気。その中で、規模も内容も圧倒的だったSiemens

 会場に到着してまず感じたのは、その熱量です。初日の午前中は比較的来場者が少なかったものの、2日目、3日目になると来場者は一気に増えました。人気ブースでは説明を聞くための待ち時間が発生するなど、多くの人が次の産業の姿を見に来ていることが伝わってきました。

 中でも最大級のブースを構え、多くの来場者を集めていたのがSiemensです。PLM(Product Lifecycle Management)という考え方を起点に、市場分析や製品企画、製品ポートフォリオ、ブランディング/マーケティング、開発、生産、運用までを一つのライフサイクルとして捉え、その中でデータやAI、各種ソリューションがどう連携するのかを示していました。

 企業内の各組織や機能、また機器や食品等の製造においてPLMによる全体デザインが行われ、そのために必要なデータを用意し、各プロセスではそれぞれのAIがデータでつながる世界観が提示されており、その規模も内容も圧倒的。実際、1日目はほぼSiemensの展示を見るだけで終わりました。

市場分析から製品企画、開発、生産、運用までをデータでつなぐSiemensのPLM構想

 展示の中で印象的だったのは、AIエージェントの活用です。例えば、飲料メーカーの生産計画の事例として、サッカーの試合スケジュールと市況データをもとに需要を予測し、サプライチェーンの最適化を行い、生産工場や生産計画を自律的に立案するという展示がありました。正しいデータ、意味のあるデータがあることでエージェントが自律的に機能するということを示す事例です。

市況データから需要を予測し、生産計画を立案するエージェント活用のデモ。

 AIエージェントやエージェンティックAIの活用のためにデータ基盤としてデータファブリックの考え方も数多く紹介されていました。データそのものではAIが読み取れず、AI活用可能なデータであるためにはSemanticやContextという考えが重要になります。これはデータ所在や関係性をデータに付加して、AIを通じてデータを企業活動全体で活用できる状態にする取り組みです。

 エッジAIの展示も興味深いものでした。ある展示では、バイオ関連装置の端末にAIエージェントが組み込まれており、チャットベースでエージェントが異常状態監視の機能追加を推奨し、ユーザーの指示のもとにエージェントがコードを生成し、その場で機能を実装するというデモが行われていました。現在はクラウドベースの仕組みでしたが、将来的にはエッジ側だけで完結する可能性も感じられます。

AIエージェントがコードを生成し、設備へ新機能を実装するエッジAIのデモ。

 デジタルツイン関連の展示も非常に充実していました。プラントシミュレーションによる設備や工場の最適化検証だけでなく、他の企業が提供するロボットそのものもパフォーマンスがモデル化されており、仮想空間上で生産プロセスの効率や性能を検証できる環境が用意されています。

 個人的には、合成生物学の観点からバイオリアクターモデルも興味深い展示でした。流体シミュレーション用のライブラリは用意されているものの、微生物モデルはまだ存在していないと説明されました。グローバルでも環境に応じた微生物のモデル化はまだ行えていない領域で、同じ複雑系を持つ植物もまだモデル化はされていません。ただ、今後のAIの進化により生体モデルが実現できるようになれば大変な革新です。そのためには、Semantic・Contextを持った再現可能なデータ収集がまず必要だと感じました。

バイオリアクタモデルは流体ライブラリがありますが、微生物モデルはまだありません。

 また、工場の運用効率化や環境負荷低減に向けて、工場のエネルギー消費やCO2排出量を可視化し、投資額と改善効果を比較しながらROIを評価する展示では、単なる監視ではなく、どこに投資すればどの程度の効果が期待できるのかを経営判断にAIを活用できる点が印象的でした。

■データ、AI、ロボット、人をどうつなげていくのかという“視点”

 Siemens以外では、MicrosoftやAWS、オラクルなども数多くの展示を展開していました。Microsoftは多くのエコパートナーと連携しAIエージェントを活用したソリューションが紹介され、シュナイダーエレクトリックとの協業では、シュナイダーエレクトリックが持つプラント開発ツールをAIにより操作することでのプラント開発自動化を紹介。

 オラクルもPLMのソリューションとして各業務フェーズに対応するエージェント、業務プロセス内での機能特化型のエージェントとして「Agent App」という考え方を提案していました。特にチャット型で質問に答えるだけではなく、新たな機能の示唆、実装をおこなうエージェントが用意されていました。

オラクルは各業務フェーズに対応したAIエージェントの活用を提案。

 工場などで人の代替が期待されるフィジカルAI分野では、ドイツのAgile RobotsやスウェーデンのHexagon Roboticsなど、ヒューマノイドロボットを展示する企業もありました。しかし実際には研究開発用途が中心で、PLMにおけるロボティックスの連動ということでは動作速度や精度を含め、まだ発展途上の段階という印象です。

 今年の1月に開催されたCES(Consumer Electronics Show)でも同様の印象でしたが、NVIDIAが強力な開発ツールを提供しており、来年、再来年の展示では大きな技術進化と社会実装への進展があるのではと期待しています。

AGILE ROBOTS SEは、AIとロボティクスを統合した次世代オートメーションソリューションを展示。

 今回のように実際に現場に行くことでの有効な事例として、意図していないスタートアップやアイデアの発見があります。今回も「サンドバッテリー」というコンセプトをもったPolar Night Energyというスタートアップに出会うことが出来ました。太陽光や風力によって発電した電力を電力需要が無い場合に砂に蓄熱し、その蓄熱したエネルギーを必要なタイミングで電力や熱として活用するというもの。フード・アグリテックやAIとは直接関係ありませんが、色々な方を会話することで新たなタネが得られるのは、現場に行くことの魅力の一つです。

砂に熱を蓄えて活用するスタートアップの展示。ハノーバーメッセならではの発想に触れることができました。

 会場を歩きながら感じたのは、個別の製品競争というよりも、企業同士が連携してデータ、AI、ロボット、人をどうつなげ、産業全体の仕組みとして機能させていくのかという視点の重要性です。そして、そのための仕組みづくりがすでに始まっていることを実感させられる展示会でした。

 次回の後編では、ハノーバーメッセを通じて見えてきた世界の最新トレンドと、私自身がフード・アグリテックの取り組みに活かしたいと感じた学びについてお話しします。

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