チーバくんの鼻先からアゴにかけての顔半分くらい、千葉県北西部にあたるこの地域には船橋市や市川市、柏市、浦安市などがあり、千葉県の人口の約54%である約340万人が暮らしている。都道府県別人口でいえば、第10位となる静岡県の人口にほぼ匹敵する規模だ。今回はこの、郵便番号上二桁が「27」の地域を担当する地域区分局である市川南郵便局にお邪魔した。
郵便局といっても一般利用者向けの窓口や郵便物の配達業務、金融窓口は行っておらず、各地から集まる郵便物や荷物を仕分けし、全国の地域区分局や配達を担当する郵便局へ送り出す中継拠点なのだが、実は2023年に「次世代型郵便局」として開局された、物流DXを推進している郵便局だ。その設備を見学しつつ、日本郵便 市川南郵便局 郵便企画部部長の湯地洋典氏と本社 郵便・物流ネットワーク部課長の竹内慎之介氏に、物流現場の課題や自動化への取り組み、局員の働き方、さらに今後の展望などについてお話を伺った。
千葉県北西部340万人の郵便・物流を支える地域区分局
市川南郵便局は2023年の開局に合わせて新設された拠点で社員数は約670人。それまで松戸南郵便局が担っていた地域区分局の機能を移管し、設備は既存機器の移設ではなく、新たな機械設備を導入している。東京湾を臨む市川市塩浜にある三井不動産ロジスティクスパークの1階に入居しており、フロア面積は約4万2600平方メートル。サッカーコート約6面分に相当する広さを持っている。建物は免震構造を採用し、水害対策も施されるなど、災害時の事業継続も考慮された施設だ。
市川南郵便局が次世代型郵便局として整備された背景には、郵便・物流を取り巻く環境の大きな変化がある。湯地氏は「まず第1にあるのが、荷物量が増えてきていることと、取り扱いの業態が多様化していることです」と語り、「EC市場が非常に拡大し、小型荷物、いわゆる『ゆうパケット』を中心に物量がかなり増加しています。また、お客様ごとのセールなどによって荷物量のピークも大きく変動するようになりました」と、EC市場の拡大に伴う荷物量の増加と、取り扱う荷物の変化を挙げている。
これまでは荷物量の増加と需要変動の大きさに対して、人海戦術を前提としたオペレーションで対応してきたが、人手だけで処理することが難しくなってきている。開局当初、機械で処理していた荷物は1日約8万個だったが、現在では10万~11万個まで増加。EC市場の拡大に合わせて処理量も着実に伸びている。
また、物流業界全体の課題となった「2024年問題」の影響もある。ドライバーの時間外労働規制を契機に、限られた人員で効率よく業務を行うことが、これまで以上に重要になった。そして、深刻なのが人材確保だ。定年退職による人員減少に加え、新たな人材の採用も容易ではないという。「アルバイトや期間雇用社員を募集していますが、このエリアは物流施設も多く、他社との競争もあり、来ていただける方が減ってきています」(湯地氏)
繁忙期にはスポットワーカーの活用などで対応しているものの、長期的には人手不足がさらに進むと考えている湯地氏は「この先、同じような仕組みの郵便局が増えていかないと、荷物量に対する処理能力も減ってしまう可能性があります。そうした意味でも、機械で対応できる仕組みを整備していくことが重要です」と、次世代型郵便局の重要性を説明した。
メールやSNSの普及により、封筒やハガキなどの郵便物は減少傾向にある。さらに、人口減少が進んでも、荷物量そのものについては急激に減るとは考えていないという。大型荷物よりも小型荷物の需要が伸びていることから、宅配全体の伸びは鈍化しても、一定の需要は今後も続くと見ており、「一番良くないのは、荷物が増えた時に処理できないことです。当局では、お預かりした荷物を遅れなく処理することを念頭に業務を行っています」と湯地氏は語った。
人手不足時代に対応する次世代型郵便局の仕組み
こうした課題に対応するため、次世代型郵便局として設計された市川南郵便局は、広大なワンフロアに各種自動化設備を集約し、人の作業をできる限り機械へ置き換えている。「他の地域区分局では、1階に到着した荷物を2階や3階へ運び、処理後に再び1階へ戻すという流れがありますが、その搬送がないのがワンフロア完結型のメリットです」(湯地氏)
局内における郵便物や荷物を載せたパレットの搬送にはAGV(自動無人搬送車)を採用している。これまで人が行っていた搬送作業を自動化したほか、各設備から取得した情報を一元管理するシステムを用いて、機械の稼働状況や処理状況をリアルタイムで把握できるようにしている。
「これまでは人がやる業務のうち、およそ2割が搬送業務でした。それをすべて機械化したことで、人手ではなく機械で処理できるようになりました」とAGVによる搬送の自動化が省人化に対して特に効果が大きかったと湯地氏は述べた。
郵便物を処理する設備としては、はがきや封書を処理する「書状区分機」、大型封筒やカタログなどを処理する「大型区分機(フラットソーター)」、割引郵便物などを処理する「バルクコンベア」を配置。荷物については、小型荷物を全国一律運賃で配達するサービス「ゆうパケット」の商品を処理する「パケット区分機」と、ゆうパックを処理する「小包区分機」が導入され、これらの設備を組み合わせることで、大量の郵便物と荷物を効率よく処理している。
書状区分機は、全国の地域区分局宛て及び管轄する16の配達担当郵便局宛ての仕分けを行い、2025年度の実績では、1日平均約83万通を処理し、配達担当郵便局については配達順路まで並べ替えることができる。
大型区分機は1日約31万通。パケット区分機は1日約13万個。小包区分機は1日約11万個と、毎日膨大な量の配達物が処理されている。こちらも、それぞれ配達担当区域や郵便局単位まで細かく仕分けを行い、効率的な配送につなげている。
他の地域区分局では1つの仕分け口(シュート)で複数の郵便局を扱うケースもあるが、市川南郵便局では郵便局ごとのシュートの数も十分に確保されているため、1つのシュートを1郵便局専用とする運用ができる。これにより、複数人で対応していた作業を少人数で処理できるようになっている。
人が判断し、機械が動く 人とDXが共存する物流現場
このように市川南郵便局では機械化を積極的に進めているが、それは「人をなくす」ことを目的としているわけではない。目指しているのは、人と機械がそれぞれ得意な役割を担うことで、限られた人員でも安定したオペレーションを実現することにある。
湯地氏は「基本スタンスとしては、人が判断し、機械が運ぶという考え方です。大量の荷物を区分したり搬送したりするようなシンプルな作業は機械が担当し、判断が必要な部分は人が担当しています」と語る。例えば、荷物の搬送や大量仕分けは機械が効率的に行えるが、荷物が予定どおり到着しているかの確認や、異常荷物への対応、トラブル発生時の判断など、人が担う業務は残る。
「荷物が到着していない、異常な荷物が見つかった、そのようなことは機械だけでは対応できません。そこは人が確認し、処理を行っています。また、何かトラブルが起きた時に業務を正常な状態へ戻すのも、現場責任者やメンバーが情報を共有しながら判断しています」(湯地氏)
竹内氏も、人が担う役割は今後も重要であり続けるという。「なるべく機械でできる範囲は広げていきたいと考えていますが、荷物が破損した場合や、トラックの到着が遅れた場合など、日々発生するさまざまなアクシデントへの対応は人の手が必要になります。また、働く人への作業指示や、機械をどう動かすかといったマネジメントも、人が担う部分になります」(竹内氏)
人と機械をどの割合にするという具体的な目標は設けていないが、今後、人手不足がさらに深刻になることを見据え、技術の進歩を取り入れながら機械化できる工程を増やし、自動化の範囲は今後も拡大していく方針だと竹内氏は語った。
荷物量の増加と人材不足が続く物流業界では、人が付加価値の高い業務を担い、機械が定型作業を担うという役割分担が、今後ますます重要になっていく。市川南郵便局は、その実践例の一つとして運用が進められている。
事故減少と「見える化」を実現 現場で実感するDXの効果
市川南郵便局で次世代型郵便局の運用が始まって約3年。機械化による省人化は進んだが、それ以外にも大きな変化が生まれている。それは安全性の向上と、業務の「見える化」だ。
湯地氏は「人がやっていた作業を機械に置き換えたことで、作業中の事故は非常に少なくなりました。例えば、パレットで指を挟んでしまうような事故はゼロではありませんが、機械化によって安全性は確実に高まっています」と、労働災害は年々減少していると語る。
また、人が担っていた重量物の搬送をAGVが担うようになったことで、「パレットは荷物を積むと300kgほどで、最初に動かす時はかなり力が必要です。AGVは1トンまで搬送できるので、人が無理をする必要がありません」と、人への負担が少なくなったことも大きいという。こうした省力化は、高齢者や女性も働きやすい職場環境づくりにもつながるため、雇用の幅を広げる効果がある。
さらに機械化を進めた結果、現場で働く人たちの意識にも変化が現れている。特に大きいのが、作業状況をリアルタイムで把握できる「見える化」のシステム導入だ。現場ではタブレットに業務の進捗状況がリアルタイムで表示されているため、作業計画も立てやすくなり、現場全体で状況を共有しながら業務を進められるようになったという湯地氏は「いつ、どれだけのパレットが到着するのか、今どこまで処理が進んでいるのかが一目で分かります。これなら、この荷物はこれくらいの時間で終わるという見通しも立てやすくなります」と、その効果を説明した。
このように機械化は単に効率化だけでなく、現場の安全性や働きやすさも大きく改善させている。
AIとデータ活用で次の物流DXへ進化を続ける次世代型郵便局
市川南郵便局の次世代型郵便局としての自動化はまだ完成形ではない。竹内氏は、「まだ機械化できていない工程もあります。新しい技術を取り入れながら、自動化をさらに進めていきたいと考えています」と語り、データ活用を含めたさらなるDXを進めていきたい考えを示した。
今後は機械設備だけでなく、現場全体の「見える化」も進化させる。現在は機械の稼働状況や処理実績を中心に可視化しているが、竹内氏は「今は機械で処理した結果をデータとして取得していますが、今後は作業シフトの編成などにも活用していきたいと考えています」と、人の作業状況をデータとして活用し、より効率的な運営につなげたいという。
日本郵便全体でもAI活用は始まっており、荷物を引き受ける際の確認作業など、人手がかかる工程ではAIによるチェックを導入し、省力化を進める取り組みも進行中だ。市川南郵便局でも、こうした新たな技術を順次取り込みながら、さらなる効率化を目指す。
人と機械がそれぞれの役割を担い、AIやデータ活用によって現場全体を最適化する。市川南郵便局は、次世代型郵便局のモデルケースとして、進化を続けていく。
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