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巨額が集まる若返り技術「リプログラミング」、今度こそ本物か

2026年06月16日 06時33分更新

文● Jessica Hamzelou

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Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Adobe Stock

画像クレジット:Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Adobe Stock

細胞を若い状態に戻す「リプログラミング」が、老化研究で注目されている。巨額の資金が次々と投じられ、ヒト試験も始まった。だが、この分野はかつてテロメアや「ゾンビ細胞」にも沸き、やがて熱が冷めた歴史を持つ。今度こそ若返りは手の届くところに来たのか。それとも次の流行を待つことになるのか。

2026年6月9日、加齢に伴う疾患の逆転に取り組むバイオテクノロジー企業、ライフ・バイオサイエンシズ(Life Biosciences)が、最初の被験者への治療薬の投与を実施したと発表した。緑内障を患う患者に、実験的な治療薬を眼球に直接注射したのだ。

この治療の狙いは、眼内の健全な神経を再生することで、視力低下を引き起こす緑内障を治療することにある。しかし、この試験を手がける企業の会長兼共同創業者であるデビッド・シンクレアは、さらなる可能性を追い求めている。もしこの治療が緑内障を逆転できるなら、同様のアプローチで他の加齢性疾患も逆転できるかもしれない。ひょっとすると、老化そのものを逆転できるかもしれない。

このアプローチは、細胞を若い状態に「リプログラミング」することで機能するよう設計されている。老化のプロセスを遅らせ、逆転させることを目指すバイオテクノロジー企業が探求する数多くの戦略の一つとして、特に注目を集めているアプローチだ

老化は複雑だ。人間は年を重ねるにつれ、ほぼすべての生体システムにわたって非常に多くの変化が生じる。科学者たちはこれらの影響を分類しようと試みてきた。2013年、あるチームが老化の9つの「特徴(ホールマーク)」を記述した画期的な論文を発表した。このリストには、科学者たちが標的にしようとしてきた多くのプロセスが含まれている。しかし、それらの標的の中には、長年にわたって注目を集めたり失ったりしてきたものもある。

テロメアの短縮を例に挙げよう。テロメアは染色体の末端にあるデオキシリボ核酸(DNA)配列であり、靴ひもの端がほつれないようにするプラスチックのキャップに例えられることが多い。細胞が分裂するたびにテロメアは短縮し、最終的にDNAがダメージを受けやすい状態になる。

私が老化について取材を始めた頃、テロメアの短縮は大きな注目を集めていた。テロメアの短縮は、心臓や脳の加齢性疾患と関連付けられており、早期老化の兆候とも見なされていた。2015年、バイオテクノロジー企業バイオビバ(BioViva)のリズ・パリッシュCEO(最高経営責任者)は、テロメアを延長できると期待して実験的な遺伝子治療を自身に注射した

その後、テロメア研究は突然下火になったように見えた。研究は継続されたが、老化・長寿コミュニティの関心は別のホールマークへと移っていったようだ(パリッシュも自己実験を続けており、自身を「地球上で最も遺伝子改変された人間」と称している)。

次に注目されたホールマークは老化細胞だ。これは、細胞が分裂を停止しても死滅せず、有害な炎症を引き起こす化学物質を分泌し続ける「ゾンビ」状態に入る現象である。

老化細胞は研究されているほぼすべての臓器に徐々に蓄積し、加齢に伴うダメージの一因になると考えられている。それならば、定期的に除去すればよいのではないか。2011年にある科学者チームがマウスでそのアプローチを試みたところ、白内障や脊柱後弯症といった加齢性疾患の発症を遅らせることができると判明した。処置を受けたマウスは外見的にも若く見えた

しかし、ユニティ・バイオテクノロジー(Unity Biotechnology)の科学者たちが2010年代後半から2020年代初頭にかけて変形性関節症と加齢性眼疾患の患者を対象に同様のアプローチを試みたところ、結果は芳しくなかった。同社は2025年5月に全従業員を解雇し、その後完全に閉鎖した。

繰り返すが、「ゾンビ細胞」を標的とするセノリティック薬に効果がないということではない。しかし、この分野の多くの研究者が次のステージへと移行しつつあるように感じられる。今日、注目を集めているのは✨リプログラミング✨だ。

この考え方は、細胞を本質的に若い状態に戻すことを目指している。4つの遺伝因子が成体細胞を幹細胞に変換できるというノーベル賞受賞の発見に基づいており、その幹細胞はほぼあらゆる細胞タイプへと分化するよう誘導できる。

マウスを用いた有望な研究では、このアプローチが時計を巻き戻す助けになる可能性が示唆されている。組織の修復を改善し視力を回復させ、さらには学習・記憶能力を向上させる効果も見られる。

こうした研究と並行して、数億ドル規模の資金調達が繰り返されている。2021年、MITテクノロジーレビューの同僚であるアントニオ・レガラドは、若返りを目的としたリプログラミングを追求するバイオテクノロジー企業、アルトス・ラボ(Altos Labs)の立ち上げについて報じた。

アルトスは億万長者のユーリ・ミルナーが出資し、ジェフ・ベゾスらも名を連ねているとされ、その総額は30億ドルに上る。これはバイオテクノロジーのスタートアップとしては前例のない金額だ。その後、この分野では他にも潤沢な資金を持つ企業が次々と登場している。

例えば、レトロ・バイオサイエンシズ(Retro Biosciences)は、人間の健康寿命を10年延ばすことを目標に、リプログラミングをはじめとする複数のアプローチを追求している。同社の立ち上げは、オープンAI(OpenAI)のサム・アルトマンによる1億8000万ドルの出資に支えられた。2026年5月、同社は企業価値18億ドルを発表した

リプログラミングを研究する別の億万長者支援のバイオテクノロジー企業、ニューリミット(NewLimit)は、マウスを用いた研究で有望な結果が得られたと述べている。同社は2027年に、肝臓の若返りを目的とした薬剤の臨床試験を人体で実施する計画だ。2026年6月初旬、同社はその目標などの達成に向けて4億3500万ドルを調達したと発表した

ハーバード大学の生物学者デビッド・シンクレア教授が創業したライフ・バイオサイエンシズは最近、研究を支援する8000万ドルを調達した。眼の臨床試験は正式に開始されたが、シンクレア教授は全身の若返りも計画している。2026年6月、同教授はMITテクノロジーレビューのアントニオ・レガラドに対し、Xプライズ財団(XPrize Foundation)が主催する1億100万ドルのコンペティションの一環として、「極めて機密性の高い」経口リプログラミング薬の試験を計画していると語った。

リプログラミングは確かに、科学者、バイオテクノロジー企業、そして投資家の注目を集めている。マウスを用いた研究は非常に有望であり、ヒトを対象とした臨床試験も始まっている。この分野の研究には数十億ドル規模の支援が集まっている。この分野の多くの人々がリプログラミングに本当に興奮している。しかし、リスクも伴う。そして、それが実際にうまくいくかどうかはまだわかっていない。今問われているのは、ついに若返り薬が手の届くところに来たのかということだ。そして、もしそうでなければ、次の研究トレンドはどのようなものになるのだろうか。

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