生成AI事例アワード ピッチコンテスト レポート2
常識を裏切るAIの実力 95%時短した資生堂と、3000万円の装置を不要にしたキリンビジネス
2026年04月23日 09時00分更新
2026年3月19日、Google Cloud主催のイベント「Agentic AI Summit '26 Spring」が開催された。生成AIは現在、チャットによる単純なやりとりやタスクの自動化を経て、自律的に思考し行動する「自律型AIエージェント」へと進化を遂げている。本イベントは、このエージェンティックAIがもたらすビジネス変革をテーマにしたもので、会場では多様なブース展示やピッチなどが行われ盛況を見せた。今回はその中から、第5回 生成AI事例アワード ピッチコンテストから2社をレポートする。
「宇宙」で検索したら砂漠の植物が出てきた、資生堂の原料探索エージェント
3社目は資生堂ジャパンのDX&AI戦略部から、鶴重光葉氏とシン・セバスチャン氏が登壇した。テーマは化粧品原料の探索を担うAIエージェントだ。
化粧品はさまざまな目的や機能を持つ原料を掛け合わせて作られる。たとえば「海」をテーマにした商品を開発するとき、研究員はまずデータベースを調べるのだが、「海」と入力してもヒットしない。「海」という言葉をワカメや魚、貝、海水由来の塩といったキーワードに分解する必要があるのだ。テーマを検索キーワードに変換できる解釈力と、膨大な原料の情報を知り尽くした知識力の両方が求められ、1回の探索に長いと2~3時間もの時間がかかり、属人性も高い業務だった。
「研究員の暗黙知をAIで再現するにあたり、工夫したポイントは3つあります。抽象的なテーマに対応できるようにすること、短時間での網羅的な探索を実現すること、そしてなぜその原料が選ばれたのか、その過程や理由を示して、ユーザーの納得度を向上させることです」(鶴重氏)
これを実現するアーキテクチャは3層構造になっている。まずHyDE RAGでユーザーの抽象的な入力を仮説文書に変換し、文脈を与える。次にHybrid RAGが文書検索とキーワード検索を組み合わせて大量の原料候補を拾い上げる。最後にMulti LLMレビューとして複数のLLMが専門家の立場で並列に候補を評価し、各原料の合致度スコアと選定理由をユーザーに提示する。回答中の根拠部分はハイライト表示され、なぜその原料が選ばれたかが一目でわかるようになっている。社内の厳しいセキュリティ基準をクリアしたインフラ設計の上に、これらを載せた。
結果、探索時間は95%カット。わずか3分で従来の手法より20~50%多い原料候補を提案できるようになり、ユーザーの信頼度は5段階評価で4.2を獲得した。
プロジェクトとしての大きな成果は、AIによる新しい解釈で原料を探せるようになったことだ。ユーザーテストで「宇宙に関連する化粧品原料」と入力したところ、AIは宇宙を「厳しい環境」と解釈し、砂漠で生き延びる植物から抽出された原料を候補に挙げた。もちろん宇宙由来の原料は存在しないが、テーマの本質を読み解いて別の切り口から答えを返したのだ。
「一緒に開発した研究員の方も、これができれば化粧品のコンセプト検討にも使えるんじゃないかと期待感を持ってくださっている。これまでにない価値を持った商品の開発につながる可能性を秘めているのです」(鶴重氏)
工場排水の予測精度を劇的に改善し、3000万円の装置も不要にしたVertex AI活用
4社目に登壇したのは、キリンビジネスシステム株式会社の枡野優輝氏だ。普段はキリングループのデータ分析基盤の構築やAI活用推進を担当している。今回は工場現場でVertex AIを活用した2つの事例を紹介した。
1つ目の事例は工場排水予測の自動化。製造工程で発生する排水量を予測し、微生物の活性を管理して環境リスクを低減するという重要な業務だ。基準を満たさない排水の放出は許されないため、確実な予測が求められる。
「これまでは長年の経験と勘で予測していて、技術継承が必要かつ定期的な業務なので一定の工数が発生していました。人による精度には限界があり、環境負荷リスクとしても高い状況でした」(枡野氏)
クラウドストレージに蓄積したデータをもとに、Vertex AIのAutoML機能で排水量予測モデルを作成。モデル構築自体を自動化し、データクレンジングにはGeminiを活用した。結果、1工場あたり年間150時間かかっていた業務をゼロにできた。予実誤差率も6~20%だったものが0~5%に改善。現在5工場に導入済みで、全国9工場への展開を予定している。
2つ目は菌体画像識別だ。ヨーグルトや乳酸菌飲料に含まれる菌体が規定量入っているかを検査する業務で、日々工場や研究所で行われている。プレゼンの途中で枡野氏は会場にクイズを出した。顕微鏡画像の中から数えるべき菌体はいくつか。色が濃すぎるものはNG、螺旋状のものも形状上NG。許容範囲のものだけを正確にカウントするなど、見分けるのが意外と難しいことがわかった。
Vertex AIで菌体の自動検出を実現し、Cloud Run上に確認用の表示アプリも構築。工数を80%削減し、担い手不足の解消に貢献した。さらに、3000万円ほどする菌体自動計測装置の購入も不要になった。
「高精度や高速が求められる場合は専用装置が必要ですが、一定の精度で十分で数十分の待ち時間が許容される検出であれば、AIで十分代替可能であることが今回わかりました」(枡野氏)
確認アプリの実装にはGeminiのコードアシストによるバイブコーディングも活用し、スピーディに仕上げたという。AIモデルを作るだけでなく、現場が使うUIまで作りきることで定着と改善のサイクルを回せている点が、このプロジェクトの強みだ。
次回は、残り2社の発表と最終審査の結果を紹介する。
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