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米国防総省のアンソロピック排除に「待った」、トランプ戦術が裏目に

2026年04月01日 05時46分更新

文● James O'Donnell

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Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Adobe Stock

画像クレジット:Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Adobe Stock

「まずツイートして、後で弁護士を立てる」——トランプ政権のアンソロピック排除はこのパターンで進んだ。しかしカリフォルニア州連邦地裁は3月26日、国防総省の措置に手続き不備と憲法違反を認定し、一時停止命令を出した。政府の行き過ぎた文化戦争が、法廷で裏目に出た形だ。

3月26日、米カリフォルニア州連邦地裁は、国防総省がアンソロピック(Anthropic)をサプライチェーンリスクに認定して同社の人工知能(AI)の使用をやめるよう政府機関に命じることを、一時差し止める決定を下した。1カ月にわたる対立における最新の展開だが、問題はまだ解決していない。政府には控訴のための7日間が与えられ、アンソロピックにはこの認定に対する2件目の訴訟が控えている。それまでの間、同社は政府にとって「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましくない存在)」のままだ。

この事件における利害関係、つまり、協力しない企業を政府がどの程度まで処罰できるかは、最初から明らかだった。アンソロピックは多くの有力な支持者を集めたが、その中にはトランプ大統領のAI政策の元起草者を含む、意外な協力者がいた。

しかし、リタ・リン判事の43ページにわたる意見書は、実際には契約紛争であるこの問題が、このような騒動に発展する必要がなかったことを示唆している。騒動になったのは、政府がこのような紛争を統制する既存のプロセスを無視し、政府関係者のソーシャルメディア投稿で火に油を注いだからだ。これらの投稿は最終的に、政府が法廷で取った立場と矛盾することになった。つまり国防総省は、(数時間後に始まったイランでの実際の戦争に加えて)文化戦争を仕掛けたかったのだ。

法廷文書によると、政府は2025年のほとんどの期間、アンソロピックの「Claude(クロード)」を、文句を言わずに使用していた。一方、同社は安全性重視のAI企業でありながら国防契約も獲得するという、ブランディングの綱渡りを歩んでいた。パランティア・テクノロジーズ(Palantir Technologies)を通じてClaudeにアクセスする国防省職員は、アンソロピックの共同創業者であるジャレッド・カプランが「米国民の大規模監視と致命的自律戦争を禁止する」と述べた政府専用使用ポリシーの条件を受け入れる必要があった(カプランが法廷に提出した陳述書にはポリシーの詳細は含まれていなかった)。政府がアンソロピックと直接契約を結ぼうとしたときになって初めて、意見の相違が始まった。

判事の怒りを買ったのは、これらの意見の相違が公になったとき、政府がアンソロピックとの関係を断つだけでなく、処罰に至ったことである。政府の行動にはパターンがあった。まずツイートして、後で弁護士を立てる、というものだ。

2月27日のトランプ大統領のTruth Social(トゥルース・ソーシャル)への投稿は、アンソロピックの「左翼の狂信者たち」に言及し、すべての連邦機関に同社のAIの使用を停止するよう指示した。これはすぐ後にピート・ヘグセス国防長官によって繰り返され、同長官は国防総省にアンソロピックをサプライチェーンリスクと見なすように指示すると述べた。

そのためには長官が特定の一連の行動を取る必要があるが、判事はヘグセス国防長官がそれを完了していないと認定した。例えば、議会委員会に送られた書簡では、より穏健な措置が検討されたものの実行不可能と判断された、と述べられていたが、詳細は一切明かされていない。政府はまた、アンソロピックが「キルスイッチ(日本版注:緊急時に停止させる安全装置)」を実装する可能性があるため、サプライチェーンリスクとしての指定が必要だと述べたが、政府側の弁護士はその後、それを裏付ける証拠がないことを認めざるを得なかったと判事は記した。

ヘグセス国防長官の投稿では、「米軍と取り引きする請負業者、供給業者、パートナーは、アンソロピックと一切商業活動をしてはならない」とも述べられていた。しかし政府側の弁護士は3月24日、国防長官にそのような権限がないことを認め、声明には「法的効力がまったくない」という判事の見解に同意した。

政府の攻撃的な投稿により、アンソロピックが合衆国憲法修正第1条(日本版注:自由を制限する法律の制定を禁止する条項)の権利が侵害された、と主張する確固たる根拠があると判事は結論づけた。判事は投稿を引用しながら、政府は「その『イデオロギー』と『レトリック』、そしてそれらの信念を妥協することを拒む『傲慢さ』のためにアンソロピックを公然と処罰することを企てた」と記した。

アンソロピックをサプライチェーンリスクとして認定することは、本質的に同社を政府の「破壊工作者」と指定することになるが、判事はその十分な証拠はないと判断した。判事は3月26日、この指定を停止し、国防総省による執行を阻止し、ヘグセス国防長官とトランプ大統領が約束した内容を政府が履行することを禁じる命令を発した。トランプ政権でAI政策に携わったものの、アンソロピックを支持する準備書面を書いたディーン・ボールは、同日の判事の命令を「政府にとって壊滅的な判決であり、政府の行動が違法かつ違憲である理由についてのアンソロピック側の理論のほぼすべてにおいて、同社が勝訴する可能性が高いと認定しました」と述べた

政府はこの判決を不服として控訴すると見られる。だが、アンソロピックは、ワシントンDCで起こした別の訴訟でも、同様の申し立てをしている。それはサプライチェーンリスクを統制する法律の異なる部分を参照しているだけである。

裁判資料からは、非常に明確なパターンが浮かび上がる。政府関係者と大統領による公的声明は、このような契約紛争において法律が規定することとまったく一致しておらず、政府側の弁護士は一貫して、ソーシャルメディアにおける同社に対する政府の糾弾を、事後的に正当化しなければならなかった。

国防総省とホワイトハウスの指導部は、強行措置をとれば法廷闘争を引き起こすことを認識していた。アンソロピックは、政府が正式にサプライチェーンリスクとして認定した3月3日の数日前にあたる2月27日、政府と争うことを誓った。それでもそれを追求するということは、どう見ても上級指導部がイラン戦争の最初の5日間に気を取られていたことを意味する。イランへの攻撃を開始しながら、同時にアンソロピックが政府の破壊工作者であるという証拠をでっち上げなければならなかったのだ。もっと簡単な手段で同社との関係を断つことができたにもかかわらず、である。

しかし、たとえアンソロピックが最終的に勝利したとしても、政府には同社を政府業務から排除する他の手段がある。例えば、国防総省と良好な関係を維持したい国防請負業者は、アンソロピックがサプライチェーンリスクと認定されていなくても、同社と取引する理由がほとんどなくなるだろう。

「政府が法律を破ることなく、ある程度の圧力をかけるために使える仕組みがあると言ってもいいと思います」。法とAI研究所(Institute for Law and AI)の上級研究員チャーリー・ブロックはこう述べる。「それは政府がアンソロピックを処罰することに、どれぐらい力を入れるか、ということによって変わってきます」。

これまでの証拠から判断すると、トランプ政権はAI文化戦争に勝つために最高レベルの時間と注意を注いでいる。同時に、Claudeは明らかに政府の業務にとって非常に重要であり、トランプ大統領でさえ国防総省がその使用を停止するには6カ月必要だと述べた。ホワイトハウスは主要AI企業に政治的忠誠とイデオロギー的な一致を要求している。しかし、アンソロピックに対する訴訟は、少なくとも現時点では、その影響力の限界を露呈している。

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