レイトレーシングの光源処理を加速する
「FSR Radiance Caching」
ゲームの中で光源が移動すると、それに連動して明るい部分と暗い部分が動的に変更される処理「ダイナミックライティング」がある。ダイナミックライティング自体は昔から存在する技術であり、筆者の知る限り2004年の「DOOM 3」に光や影の処理で使われている。伝統的には「ベイク」と呼ばれる事前計算によって静的に光と影を表現する技法が定番であるが、技術の進歩によってリアルタイムで計算できるようになったわけだ。
特にパストレーシングでダイナミックライティングを表現するとなれば、複雑なシーンになるほど計算量が爆発的に増大する。そこでAIを利用してこの計算を効率化しよう、というアイデアが2021年に論文化された。
これをNVIDIAが実装したものが「Neural Radiance Cache」(CES 2025で発表)、AMDが実装したものがFSR Redstoneの一部である「FSR Radiance Caching」である。つまり、両者は全く同じ親(論文)から生まれた兄弟ということになる。
FSR Radiance Cachingの元になった論文。最もノイジーなパストレース“しただけ”の映像に対し、ReSTIR(NVIDIAのRTX Direct Illuminationに相当)を適用したもの、Neural Radiance Cachingを適用したもの、正解の映像を比較している。Neural Radiance CachingはReSTIRよりも正解に近く、場合によってはフレームレートも高くなるとしている
画像は、T. Müller, F. Rousselle, J. Novák, and A. Keller, "Real-time neural radiance caching for path tracing," ACM Trans. Graph., vol. 40, no. 4, Art. no. 139, Aug. 2021, doi: 10.1145/3450626.3459812.より引用
ちなみに名称もかなり被っており、AMDは最初の発表で「Neural Radiance Caching」と表記していた(本稿の冒頭部の画像をよく見よう)。しかし後で名前の被りに気がついたのか、CES 2026における正式発表ではFSR Radiance Cachingに改められている。
FSR Radiance Cachingの動作例として、GPUOpenで公開されている「Warhammer 40000: Darktide」における実装例を見てみよう。下の図はFSR Radiance Cachingを使わずに実装した例である。床に置かれたスポットライトから出た光が中央の柱に当たっているが、その先にある階段までは到達していない。
上の図をよく見ると、階段の下にある椅子や床に光が届いているので階段の手すりを支える壁にも光がある程度反射光が届いてもよさそうだが、壁はほぼ真っ暗である。つまり上図の例では壁に向かって反射する光線の処理が打ち切られていることを意味する。
同じシーンにFSR Radiance Cachingを適用したのが次の画像である。この画像ではスポットライトの光が階段下の壁まで届いているほか、今まで黒潰れしていた天井や床にも光が届いている。FSR Radiance Cachingによってレイの追跡がより深く実施できるようになった、というところだろうか。
Warhammer 40000: Darktide:FSR Radiance Cachingがオンの状態。階段の下にある壁のほか、天井や画面奥側の壁にも光が届いている。さらに画面中央付近の椅子が床に落とす影の領域も、周囲の照り返しを受けてやや薄く表現されるなど、ライティングの説得力が上がっている
まだ発展の余地はある
FSR 4.1以降どう発展するかに注目
以上で簡単ではあるが、FSR Redstoneの解説は終了である。AIをゲームグラフィックに採り入れる動きにおいて、AMDはしばらくの間後手に回ってきた。だがNVIDIAが先行している機能を徐々にAMD流にブラッシュアップして採り入れ、GeForceのメリットを1つまた1つと潰してきていることは確かである。
確かにFSRフレーム生成はまだマルチフレーム生成ではないし、アップスケーリング後の画質もDLSSに一歩劣るところがある。特に最新の第2世代TransformerベースのDLSS-SRは、AMDも早急に対処する必要があるだろう。
ただFSR Redstoneは本稿で紹介した4つの機能だけではない。Redstoneはあくまでロードマップであり、今後さらに発展・派生する可能性を秘めている。2026年は新ハード好きにとって冬の時代。NVIDIAがRTX 50 SUPERシリーズを出さないのであれば、AMDも次のRadeonを出さないと筆者は100%確信している。
だがこんな世の中だからこそ、FSR Redstoneのようにソフトウェアアプローチによる機能の追加・更新は本当にうれしい。FSR Redstoneが今後AMD FSRをどう発展させていくのか、引き続き注目していきたいところだ。



