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プラットフォーム学~先端事例から学ぶ、社会実装の現在点

スタートアップに求められるもの エコシステムの更新が生み出す次への挑戦

2026年03月04日 17時00分更新

文● ASCII

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登壇者である藤本氏の気付きにもつながった学生たちとのスタートアップに関するコミュケーションを抜粋

 京都大学 プラットフォーム学卓越大学院プログラムの学生向けイベントでは毎回登壇者と学生たちによるコミュニケーションを図る目的で、講演の後に質疑応答の時間が設けられている。今回のスタートアップエコシステムセミナーにおいても学生たちから多数の質問が寄せられ、藤本氏がそれに答えている。その一部分を紹介しよう。

活発な議論が交換された、学生たちとの質疑応答

学生が「とりあえずやってみる」文化は、どう育つのか

学生からの質問:海外では、学生がまずやってみようという感覚で起業に踏み出しているように見えますが、日本ではそうした空気があまり感じられません。こうした文化の違いは、どこから生まれているのでしょうか。

藤本氏:海外、特にシリコンバレー周辺では、「とりあえずやってみる」という姿勢が非常に強いと感じます。その理由の一つは、周囲に同じように挑戦している人が多いことです。例えばスタンフォード大学では、学生の多くが起業に関わっており、「みんながやっているから自分もやる」という空気が自然に生まれています。

また、失敗に対する捉え方の違いも大きいと思います。海外ではやってみてうまくいかなければ、やめて次に進めばいいという割り切りがあり、挑戦そのものが否定されません。起業が学生だけで完結するものではなく、大学の教員や投資家、経験者など、周囲に相談できる人が常にいることも、心理的なハードルを下げています。

しかし日本では、挑戦の途中で相談できる相手や次の選択肢が見えにくい状況があります。間違った知識や不十分な助言によって、かえって失敗のリスクが高まることもあり、慎重にならざるを得ない面があります。挑戦を後押しする以前に、正しい情報と人材にアクセスできる環境づくりが必要だと感じています。

学生が「やってみよう」と思えるかどうかは、個人の勇気だけではなく、その周囲にどれだけ支える仕組みがあるかに大きく左右されるのだと思います。

学生や研究者がスタートアップに踏み出しにくい理由とは

学生からの質問:海外では学生の段階からスタートアップに挑戦する例が多いように感じますが日本では学生や研究者が、自分のアイデアや研究成果をもとにスタートアップを立ち上げにくい印象があります。そのボトルネックはどこにあるのでしょうか。

藤本氏:日本の場合、スタートアップ創業者の年齢の中央値は30代から40代で、一定期間、企業で働いた後に起業するケースが多いのが実情です。学生の段階で起業に踏み切る人が少ない理由の一つは、知識の不足にあります。技術やアイデアが優れていても、それをビジネスとして成立させるための知識や経験が圧倒的に足りていないことが多いのです。

特に学生の場合、「良い技術やサービスがあれば、誰かが評価してくれる」という感覚にとどまりがちで、実際に市場に出し、事業として回していく難しさを体験する機会がほとんどありません。その結果、成長の軌道をどう描けばよいのかが分からず、最初の一歩を踏み出せない状況が生まれています。

こうしたギャップを埋めるには、ビジネス人材が初期段階から関わり、伴走する仕組みが必要です。若い世代の勢いや技術力だけでは限界があり、実務経験を持つ人材が加わることで、はじめて事業としての形が見えてきます。実際、大きく成長した海外のスタートアップでも、創業メンバーだけでなく、途中から経営を担う人材が加わるケースは少なくありません。

学生や研究者がスタートアップに挑戦しやすくするためには、挑戦そのものを支える人と環境をどう整えるかが、今後の大きな課題だと感じています。

「その観点は確かになかった」と感じることもありました(藤本氏)

「失敗」は一様ではない──スタートアップにおける撤退と学び

学生からの質問:ベンチャーキャピタルの世界では「10社中1社が成功すればいい」と言われますが、残りの9社の「失敗」にはさまざまな形があると思います。スタートアップとして、どのような失敗の仕方が望ましいのでしょうか。

藤本氏:基本的には、最初から「失敗する前提」で動くものではないと思っています。あくまで成功を目指して全力で取り組んだ結果、タイミングや方向性が合わなかったというケースが多いのが実態です。事前に失敗を想定して動いてしまうと、判断や行動もその方向に引き寄せられてしまいます。

日本では失敗への恐怖が強く、事業をたたむ判断が遅れるケースも少なくありません。本当は次に進んだ方がよい状況でも、やめられずに続けてしまう、いわゆるゾンビ企業の問題もあります。スタートアップは多くの場合、チームで動いているため、撤退の際には創業者だけでなく、従業員やユーザーの行き先まで考える必要があります。

海外でもゾンビスタートアップは存在しますが、そこで得た経験が次の挑戦につながるケースも多く見られます。重要なのは、事業に真摯に向き合い、やれることをやり切った上で次に進むことです。その過程で得た学びは、次のスタートアップや支援の場で必ず生きてきます。

失敗を避けることよりも、どう向き合い、どう次につなげるか。その姿勢こそが、スタートアップにおいて最も重要なのだと感じています。

「良い失敗」と「悪い失敗」を分けるもの

学生からの質問:アメリカでは、失敗経験のある起業家の方が評価されるという話を聞きます。スタートアップにおいて「良い失敗」とは、どのようなものなのでしょうか。

藤本氏:よく言われるのは、失敗したこと自体ではなく、その失敗にどう向き合っていたかが見られているという点です。プロダクトやユーザーに真剣に向き合い、やるべきことをやった結果としてうまくいかなかったのであれば、それはチャレンジの結果として受け止められます。

しかし、途中で投げ出してしまったり、誠実さを欠いた行動を取ってしまったりした場合は、評価されません。お金を使い切って突然やめる、不正やスキャンダルを起こすといったケースは、「悪い失敗」として明確に区別されます。投資家の立場から見ても、次に一緒にやりたいとは思えなくなってしまいます。

技術やアイデアが優れていても、ユーザーに向き合わず、ビジネスとして成立させようとしなかった場合も同様です。挑戦した結果としての失敗と、向き合うべきものから逃げた結果の失敗は、まったく違うものとして見られます。

だからこそ重要なのは、尊厳と責任を持って挑戦することです。失敗そのものではなく、そこに至る姿勢やプロセスが、次の評価や機会につながっていくのだと思います。

課題は国境を越える──スタートアップが向き合う「問題」の在処

学生からの質問:スタートアップは先進国だけでなく、途上国へも展開していくと思います。市場という観点だけでなく、課題解決という視点では、どのような広がり方をしていくと考えていますか。

藤本氏:現地を見ていると、それぞれの国には、その国特有の課題が明確に存在しています。多くのスタートアップは、自国の社会課題や産業課題に焦点を当てており、その課題を「見える化」し、外部に提示できる存在が重要になっています。インドネシアやマレーシアなどでは、そうした課題提示そのものが、次のビジネスや投資につながる役割を果たしています。

欧州やアジアの一部では、日本が抱える課題を解決しようとする動きも見られます。つまり、課題を抱えている国と、それを解決するプレイヤーの国が必ずしも一致しているわけではありません。問題を解決できる手段や技術がどこにあるかが重要であり、その国がどこかという点は本質ではないと感じています。

その意味で、スタートアップが向き合うべき対象は市場だけではなく、課題そのものです。課題が明確であれば、解決策は国境を越えて流通し、共感や支援を集めることができます。逆に、課題が言語化されていなければ、どれだけ技術やプロダクトがあっても、外部からは見えにくくなってしまいます。

スタートアップが果たす役割は、単に事業を成長させることではなく、社会の中に存在する課題を可視化し、それを解決する手段を提示することにある。その積み重ねが、結果として国や地域を越えた展開につながっていくのだと思います。

独学に頼らないための「支援のあり方」

学生からの質問:研究をしていると、この分野はビジネス化できそうだと感じても、どう形にすればいいのか分からないことが多くあります。そうした場合、結局は独学で頑張るしかないのでしょうか。

藤本氏:これまでは確かに独学に頼らざるを得ない状況が多かったと思いますが、それをできるだけ減らしたいと考えています。本来であれば、メンターと呼ばれる存在がいて、対話を重ねながら視点を広げたり、他国の事例を知ったりすることで、次に何を調べればよいかのヒントを得られる環境があるべきです。

ただし、すべてを教える人が良いメンターというわけではありません。正解を与えるのではなく、「ここまで考えているなら、次はこれを見てみるといい」といった形で、次の探索につながる示唆を与えてくれる存在が重要です。

そうした人材や関係性は、プログラムだけで簡単に作れるものではありませんが、少しずつ増やしていく必要があります。独学に頼らず、対話を通じて考えを深められる環境を整えていきたいと考えています。

「新しいスタートアップと、次の成長を支える企業を作るためのスタートアップビジネススクール」を準備しているという藤本氏

 藤本氏は今回の講演と学生たちとの質疑応答について「すごく面白くてよかったです。「なるほど、その観点は確かになかった」と感じることもありましたし、言葉によって不安を解消できることをもっとやらなければいけないなとすごく感じました」とコメント。

 また、スタートアップエコシステム協会とは別に、グローバルに成長するスタートアップを育成するために支援者とスタートアップが共に学ぶ場として、この春立ち上げる準備をしているスタートアップビジネススクールにも触れ、「学生たちからの話を聞き、いま準備しているスタートアップビジネススクールは、今回尋ねられたような悩みに寄り添えるのではないかという自信にもなりました」と語り、講演を聴いた学生たちだけでなく、登壇した藤本氏にも気付きが得られたという感想を残し、学生向けイベントが終了した。

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