このページの本文へ

85dB/0VUという基準に立ち返る「絶対領界音域」という提案

正しい“音量”が劇場体験の質を変える──岩浪音響監督が『羅小黒戦記2』で出した答え

2025年12月26日 16時30分更新

文● 野村ケンジ ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

現代の映画音響制作の問題点

 確かに、現在の音楽や映像作品の音は、目立つように音圧を過度に高める傾向があることを筆者も感じていた。実際のところ、これは映画館のような高品質な環境とは相性がよくないのだという。

岩浪 映画館には向いてない音なんです。特にセリフなどは、長時間聞くと“痛い”音に感じられてしまい鑑賞に堪えられなくなってしまいます。これは、劇場音響とテレビ音響の混同による弊害だと私は考えています。テレビ放送では、セリフがはっきり聞こえるよう人間が最も感じやすい帯域(3kHz帯など)を強調し圧縮をかける方法が一般的となっています。しかし、劇場映画で同じ処理を行うと、(映画館の)大音量では耳障りな音になってしまう。
 このように、劇場音響にはダイナミックレンジ(音量の大小の幅)の幅広さを活かした繊細なコントロールが求められますが、この違いが理解されていないことが多い。ですから、映画の音響制作者側が基本に立ち返り、劇場向けの音作りに立ち返るのがとても重要になってくるんです。

 いっぽうで、劇場設備のポテンシャル喪失も問題になっているという。

岩浪 最適な環境で映画を届けるためのルールは存在するものの、形骸化しちゃってるんです。結果、劇場は素晴らしい機材の能力を活かせず「宝の持ち腐れ」状態となってしまい、観客には不完全な形で作品が提供され続けている状態となっています。誰もが不幸なこの状況は、早急に解決しなければなりません。そのひとつとして提案したのが『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』の「絶対領界音域」上映なんです。実際、多くの観客から好評をいただきました。

他作品もぜひ真似してほしい

 こういった「基準を守り品質を担保する」という手法は、岩浪音響監督が主導している新たな試みだが、実は、他の作品でも大いに真似をしてほしい、と考えているという。

岩浪 最適な音響はその映画の価値をさらに高めてくれます。また、高品質な音響を求めて特定の劇場に通うリピーターを増やし、収益向上に繋がって行く可能性も考えられます。実際に、シネマシティなどの映画館ではそういった成功事例があり、効果のほどを証明しています。
 また、コロナ禍以降、映画館の経営が厳しいなかで、自宅でのサブスク視聴とは異なる「映画館での鑑賞が最高の体験」であることを提供し、ハッキリと差別化できることが重要なんです。単に“音響調整しました”と告知するだけではなく、「絶対領界音域」のようなキャッチーなネーミングでストーリー性を持たせることが、顧客の記憶に残り未来へと繋がっていくと思っています。

カテゴリートップへ

秋の「鉄板ヘッドフォン」購入ガイド

ピックアップ