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プラットフォーム学~先端事例から学ぶ、社会実装の現在点

ウェルビーイング時代の経営デザイン 時代の変遷と知財がもたらすこれからの戦略

2026年03月02日 17時00分更新

文● ASCII

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 知財(知的財産)とルール形成は、企業や国家が競争力を高めるための強力な「武器」となる。単なる権利保護にとどまらず、市場競争において優位に立ち、時には業界標準そのものを左右する戦略的な資産として機能するからだ。

シクロ・ハイジア 代表取締役CEO 小林 誠氏

 京都大学 プラットフォーム学卓越大学院プログラムでは、2025年12月に「知財・ルール形成とプラットフォーム」と題する学生向けのイベントを開催し、シクロ・ハイジア 代表取締役CEOの小林 誠氏が登壇。プラットフォーム学にも不可欠な知財とルール形成、これを活かした経営、社会やウェルビーイングとの接続に関して、情報提供があり、学生の質問にも答えた。

経営をデザインし、バックキャスト型の戦略を設計することが重要

 小林氏は多くの企業の経営・事業戦略策定に携わり、知的財産アドバイザリーを務めるほか、内閣府による「経営デザインシート」の検討にも携わった。冒頭では、自身の経歴に触れながら、学生時代から技術や科学への興味が強かったこと、その技術が社会でどのように使われるのか、どのように価値になるのかについて関心を持つようになったことについて言及。その過程で技術と法律・制度を結びつける分野として知財関連の職を選び、有限責任監査法人トーマツなどでキャリアを積んだのち、現在はシクロ・ハイジアの代表取締役CEOとして知財・標準化戦略の実務支援・コンサルや制度設計、啓発活動のための講演やセミナーなどに携わっていることに触れた。

 最初の話題は知財とは何か。知財と聞くと特許や商標といった権利を思い浮かべる人が多いと思うが、実際には知財の範囲は広い。企業においては、営業上の秘密、技術情報、顧客データ、人や組織の知見など、事業を継続していく上で有用な目に見えない資産全体が含まれるからだ。この見えない資産が企業価値や競争力を考える上で重要となっている。しかしながら、その価値を企業の経営層が十分に理解していない側面があることも事実だ。その例として、企業の価値を客観的に見る投資家は中長期的な投資判断において、IT投資、研究開発投資、人材投資などを重視しているが、企業側の意識とはギャップがあり、経営判断との間にはズレが生じていると小林氏は指摘した。

投資家と企業の意識にズレが生じている点を指摘

 小林氏は、このズレが生じる背景には、「知財や無形資産が短期的な成果につながりにくい」と考える見方が根強く残っていることを挙げ、研究開発や特許は取得してすぐに利益を生むものではないため、企業の活動においてはどうしても後回しにされがちになるのだという。

独自の経営をデザインし、シナリオプランニングすることが重要

情報を公開して特許を取るメリット

本イベントでは講演の後に学生たちからの質疑を受け付ける時間が設けられていた。ここではその一部を紹介しよう。

学生からの質問:研究者にとって、世界レベルで知識を増やしていく中で、情報を公開して特許を取ることにメリットはありますか?

小林氏:特許制度の意義の根幹は産業を発展させるということです。個人や会社の利益が目的ではなく、特許制度を作ることによって、いろいろなアイデアなどが生まれ、社会が良くなっていく、産業が発展していく。それを実現するためには、発明した人にご褒美が必要で、優秀な人にお金が入れば、またそれを研究に使い、さらに良いアイデアが実現できていく。

学会での発表や論文発表では実績になるだけであまり経済的なご褒美がない。でも、特許を取ったら収益化できる可能性が出てくるわけです。そして、それを次に活かしていけるのが一番のメリットだと思っています。しかし、誰かが独占してしまうと、科学の発達に寄与できないので、そうならないように公開して、あなたの技術をみんなに見せます。公開されるから、ここをこうしたら、このように変えたらもっと良くなるのではないかという形で、誰かのアイデアを見ながら次のアイデアの参考にしていくという連鎖ができていく。最初のアイデアからどんどん広がっていく。

学術論文との大きな違いは、何に使うかというのが関係しないこと。論文では科学としてどういう事象が起きていて、きちんと証明でき、その先の仮説が持てるのかどうか、研究転換に繋がるのかどうかっていうのがポイントになります。特許はサイエンスだけでは取れなくて、この技術を何にどう使うかまで書かないといけない。知財は産業に落とし込むためのツールで、人のアイデアを公開しながら、みんなが改良していくっていうのに寄与していく。研究者は学会発表、論文発表を見据えながら、それを事業化したい、この技術を企業に使って社会実装してもらいたいという思いがあるのであれば、特許を取るという選択肢を考えてもいいのかなと思います。

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