
「ハラスメント」という言葉が一般化して久しいが、実際の職場では、それよりも小さく、しかし確実に心を削っていく「無神経な言動」が見られるときがある。感謝の一言がない、話を遮られる……どれも明確なハラスメントとして扱われる場面は少ないが、受け手の日常の仕事へ影を落とすには十分かもしれない。
人事プロフェッショナルブティック「CORNER」を運営するコーナーは、全国の20〜50代の正社員624名を対象に、「職場におけるインシビリティ(礼儀や尊重を欠いた言動)に関する実態調査」の結果を発表。
職場における「インシビリティ」が、多くのビジネスパーソンにとって身近な問題であることが改めて浮き彫りになった。
調査によると、回答者の半数程度が何らかのインシビリティを受けた経験があると回答。「感謝や労いの欠如」「ぶっきらぼう・高圧的な物言い」といった行為を経験したと答えた人はおよそ8割に達した。
また、「機会・役割の不公平」「話の遮り」「陰口・排除的ジョーク」など、対人関係や評価にかかわる行動も経験割合が多い。

そのようなインシビリティが日常的に起きることで、多くの社員に心理的ストレスが蓄積し、仕事の満足度や組織への信頼、パフォーマンス・生産性が低下。「心理的ストレス・疲労感」が増えたと答えた人は62.5%、「離職を考える気持ち」が増えたと答えた人は46.5%だった。

このように、インシビリティは個人の心身だけでなく、組織のモチベーションや生産性にまで影響を及ぼし得る深刻な問題である。
また、こうした行為が起きやすい状況として多く挙げられたのが、「価値観・コミュニケーションスタイルの違い」と「時間や人手に余裕がない」で、直属上司・上位管理職との場面で割合が高い。一方、同僚間では、立場差よりも価値観や距離感が要因になりやすいという結果になった。

本調査を主導したコーナーの門馬貴裕代表取締役CHROは、インシビリティは明確なハラスメントではないために見過ごされがちだが、無礼な言動の積み重ねが「組織の静かな病」となりかねないと指摘する。ゆえに、社員の尊重や感謝を前提とした行動規範の整備、役割や権限の明確化、対話スキルの教育といった日常のコミュニケーション設計が企業にとって重要な取り組みであると強調している。
職場の雰囲気や働きやすさを語るにあたって、「アルハラ」や「パワハラ」といった言葉の陰に隠れがちなインシビリティの存在、そしてその広がりと影響の深さを改めて浮き彫りにした今回の調査結果。働き方や組織づくりに関心を持つ企業やビジネスパーソンにとって、軽視できない示唆である。








