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国産GPUサービスを礎にAIロボット協会が切り拓く新時代

LLMでの苦い経験を糧に 日本の技術主権を懸けた「ロボット基盤モデル」の公共財化

2025年11月11日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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国産GPUサービスを選んだ理由は、日本のロボット産業を守るため

 また、今回、オープンなロボット基盤モデルの開発における計算基盤としてGMOインターネットの提供する「GMO GPUクラウド」が採用されている。

 数あるGPUサービスの中から、国産のGMO GPUクラウドが選ばれた理由は、日本のロボット産業が持つ国際競争力を維持・強化するという意図があるという。AIRoA 理事長の尾形氏は、「汎用ロボットの実現には、各企業が蓄積した貴重な実世界データが不可欠。これらは日本の製造業・サービス業が培ってきた技術的知見の結晶であり、日本のデジタル主権確保は学術的・技術的独立性を保つ生命線として極めて重要な意義を持っています」と語る。

AIRoA 理事長で早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 表現工学科教授の尾形哲也氏

 加えて、GMO GPUクラウドの技術的な特性が、目指ざしているロボットAIの開発思想と合致していたことも決め手となっている。

 ロボットの知能は、静的な画像認識や自然言語処理とは異なり、自身の行動によって変化する未来を予測しながら、リアルタイムで動きを調整し続ける動的な適応能力が求められる。この思想を体現するのが、尾形氏が提唱する「深層予測学習」というアプローチだ。「ロボット基盤モデルは、『未来の感覚を予測しながら腕の動きを調整する』といった時系列的な動的適応処理が中核となります。GMO GPUクラウドのクラスタはマルチノード構成でスケーラビリティに優れ、高速なネットワークを有している点を評価しました」(尾形氏)

 「NVIDIA H200 TensorコアGPU」と高速ネットワーク「NVIDIA Spectrum-X」を組み合わせた大規模クラスタは、この複雑な処理を高速に実行するための理想的な環境だという。さらに、38.06 PFLOPS(ペタフロップス)という圧倒的な計算能力は、研究に大きなインパクトをもたらす可能性を秘めている。

「今後の汎用ロボットには、画像や言語だけでなく触覚、力覚などの高次元データが含まれると予想され、現状を上回る処理能力が必要になると感じています。今回のGMO GPUクラウドの利用は、この長期目標への重要な一歩として位置づけています」(尾形氏)

 また、製造業や物流、介護といった多様な分野からロボットのデータが同時に集まる社会実装の段階では、計算資源を効率的に分配するMulti-Instance GPU(MIG)のような仕組みへの期待も大きい。今回の採用は、これらの目標に向けた最初の取り組みになるという。

「真の汎用AIロボットは、人間のように身体を持ち、環境と相互作用しながら学習し、他者と共感し合える存在です。この理想実現のため、日本の叡智を結集し、世界に誇れる『共生ロボット社会』創出に取り組んでまいります」と尾形氏は語った。

 AIRoAが目指すオープンなロボット基盤モデル開発は、単なる技術革新ではない。LLM黎明期における過去の反省を糧に、日本の技術主権と産業競争力の未来を懸けた挑戦になる。国産の計算基盤を礎に、産官学の叡智を結集して築かれるこの「公共財」は、多様な企業や開発者が自由に価値を創造する土壌となるだろう。

 この基盤から生まれるロボットたちが、物理世界の制約を乗り越え、人間と共生する社会がもう目の前まで来ている。日本産業の再興を期待したいところだ。

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