OpenAIは10月22日、日本のAIの潜在力を最大限に引き出すための政策フレームワーク「日本のAI:Open AIの経済ブループリント」を発表した。同日開催された発表会では、司会をOpenAI 政策・パートナーシップ担当の大久保和也氏が務め、OpenAIのChief Global Affairs Officerであるクリス・レヘイン氏がブループリントの概要を説明した。ブループリントは、「包摂的な参加型社会基盤の構築:誰もがアクセスできるAI」、「戦略的インフラ投資:強靭で持続可能なAIインフラ」、「教育とリスキリングへの投資:全世代のポテンシャルをAIで開花させる教育」の3つを中核的な柱として据えている。
AIが日本に100兆円超の経済価値をもたらす可能性
レヘイン氏は、ブループリントの核心として、AIが日本経済に対して100兆円を超える経済価値を生み出す可能性があると言及。AIを電気やインターネットと同様の「汎用技術(General Purpose Technology)」と位置づけ、生産性を飛躍的に高めることで日本経済の軌道を引き上げる「世代に一度の機会」だと強調した。
また、レヘイン氏は日本の持つ独自の競争優位性についても触れた。歴史的に変革を受け入れてきたイノベーション重視の国の気風や、政府のイノベーションフレンドリーな方針に加え、特にビジネス分野におけるAIの導入ペースが米国以外で「世界ナンバーワン」である点を指摘。「これは日本にとって巨大な競争優位性だ」と述べた。
ブループリントの重要な柱である「戦略的インフラ投資」について、レヘイン氏は「インフラは運命を決める(infrastructure is destiny)」という言葉を引き合いに出し、AI時代に必要となる膨大な計算資源(コンピュート)の確保が、国家の経済競争力に直結すると強く訴えた。特に、計算能力を支えるデータセンターと、それを稼働させるためのグリーンエネルギー供給網の一体的な整備が不可欠だとした。
左から右に、OpenAI 政策・パートナーシップ担当の大久保和也氏、日立製作所 執行役常務 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニットCEO兼AIトランスフォーメーション推進本部長 細矢良智氏、OpenAI Chief Global Affairs Officer クリス・レヘイン氏、三菱UFJフィナンシャル・グループ 執行役員 グループCDO兼デジタル戦略統括部長 江見盛人氏、Cynthialy 代表取締役CEO 國本知里氏、THE GUILD CEO / UI UX Designer 深津貴之氏
発表会後半のパネルセッションには、国内の主要企業やAIの専門家が登壇した。日立製作所の執行役常務である細矢良智氏は、同社が約60年にわたりAI研究を続けてきた実績に触れ、プロダクトの制御技術(OT)とIT、そしてAIを組み合わせた「フィジカルAI」で社会変革をリードしていくと語った。AIインフラの重要性にも同意を示し、「エネルギーマネジメント技術を活かした効率的なデータセンタービジネスを推進する」とし、OpenAIとの戦略的パートナーシップを通じて持続可能な社会を目指す考えを示した。
三菱UFJフィナンシャル・グループの執行役員である江見盛人氏は、金融分野でのAI活用について報告。社内の生成AI利用率はまだ50%程度だとしつつも、今後はAIが「同僚」のようなデジタルレイバーフォースになっていくと展望を述べた。現在は、法人担当者がAIを「バディ(相棒)」として活用し、顧客への提案品質を高めるといった、人とAIが互いを高め合う関係性を目指した取り組みを進めていると紹介した。ブループリントが掲げる3つの柱(インクルージョン、インフラ、教育)は金融とも極めて親和性が高いと語った。
スタートアップの視点からは、Cynthialy代表取締役CEOの國本知里氏が登壇。スタートアップにとって最大の課題であるリソース、特に「人」の不足をAIが補ってくれる最大のチャンスの時代だと指摘。AIエージェントと共に会社を設立したり、Day 1からサービス開発と検証を高速で回したりすることが可能になり、起業のハードルが劇的に下がっていると述べた。教育面でも、10代の学生がAIを駆使して学んでおり、「好奇心さえあればいくらでも学べる」環境が整いつつあると期待を寄せた。
THE GUILDのCEOである深津貴之氏は、AIとの共生について独自の視点を展開。「AIが仕事を奪う」というゼロサム的な見方ではなく、社会全体の価値を増やす「プラスサムの存在」だと述べた。日本は超高齢化や労働者不足といった明確な課題を抱えているため、AI導入によるダウンサイドリスクよりも「アップサイドで得られるものの方が多い国」だと分析。AIの恩恵を最大化するためには、古い社会制度や業務オペレーションを「創造的に破壊」し、AIが導入しやすい形に変えていく必要があると提言した。
セッションの最後、パネリストは日本のAIの未来を一言で表現した。細矢氏は「人とAIが共働し、安心で安全な未来が作れる」、江見氏は「日本にとって絶対に逃しちゃいけないチャンス」、國本氏は「"For All Challengers"(すべての挑戦者のために)」、深津氏は「日本はドラえもんやアトムのような共存社会のロールモデルのイメージが最も強い国」と、それぞれ期待を込めた。レヘイン氏も「A window of opportunity to build big(大きく構築するための好機)」と述べ、日本のポテンシャルに強い期待を示して締めくくった。












