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「GMO AI・ロボティクス大会議」で語られた産業界からのメッセージ

AIは身体を持つのか? NVIDIAとOpenAI、二つの巨人が描く日本のAI・ロボティクス革命

2025年10月15日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 2025年9月25日、GMOインターネットグループ主催の「GMO AI・ロボティクス大会議・表彰式2025」が開催された。2026年のヒューマノイド元年を目の前に、AIとロボティクス領域の橋渡しをすべく、産業界、政界、そして安全保障の専門家が一堂に会し、日本の進むべき道筋が熱く語られた。

 生成AIが社会に浸透し始めてからわずか数年、我々の日常やビジネスは、既に大きな変革の渦中にある。そして、テキストや画像を生成する能力を手に入れたAIは、次なるフロンティアとして物理世界(フィジカル)へ活動領域を広げようとしている。

 NVIDIAとOpenAIというAIにおける2大リーディングカンパニーは、この変化をどのように読み解いているのか。同イベントのNVIDIA 日本代表の大崎真孝氏とOpenAI Japan 社長の長﨑忠雄氏によるセッションをレポートする。

9月25日、セルリアンタワー東急ホテルにて「GMO AI・ロボティクス大会議・表彰式2025」が開催された

ハードウェアの巨星NVIDIAが提唱する「フィジカルAI」の衝撃

 NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏は、ビデオメッセージの中で、現在を「歴史的な転換点となる時代」と表現した。新しいコンピューティングモデルが登場し、AIはあらゆる産業と科学分野を変革しようとしている。その変化の中心にあるのが、次世代のデータセンターである「AIファクトリー」だ。すでに日本企業の活用も進み、成果を生み出し始めているという。

 このAIファクトリーを次のレベルへと引き上げるのが、NVIDIAの最新GPUアーキテクチャー「Blackwell」(B300)だ。フアン氏はBlackwellについて、推論や計画、そして大規模なトークン生成を行うモデルのために構築され、リアルタイムな推論に必要なパフォーマンスと効率性を提供すると説明した。

 このAIファクトリーは、長らくエレクトロニクスと精密システムの分野をリードしてきた日本にとって、「自動化(オートメーション)」から「自律化(オートノミー)」へ移行する機会を生むと強調する。「ロボットはAIファクトリーで訓練され、シミュレーションで改良され、『認識し、決定し、行動する』ことが可能なエッジAIと共に展開されます」(フアン氏)

AIファクトリーがあらゆる産業と科学分野を変革する、とジェンスン・フアン氏

 このビジョンを受け、NVIDIAの日本代表 兼 米国本社副社長の大崎真孝氏は、AIの進化の歴史を振り返りながら、現在の立ち位置を解説した。2012年の画像認識モデル「AlexNet(アレックスネット)」に始まる認知するAIは、NVIDIAのGPUとCUDA(並列コンピューティングプラットフォーム)によって大きく加速した。

 その後、2022年のChatGPT登場により生成AIが市場を席巻。そして今、個々の要望を理解し自律的に動く「エージェントAI」と、AIが身体性を持ち始める「フィジカルAI」が同時進行している。大崎氏は、このロボティクスの領域こそ「日本が今一度世界のリーダーシップを取るべき技術」であると語った。

NVIDIA 日本代表 兼 米国本社副社長 大崎真孝氏

 フィジカルAIの世界を実現するために、NVIDIAが用意する核となる技術が“シミュレーション”だ。ゲーミンググラフィックスからスタートし、AIプラットフォームを築き上げるまで至った同社の強みは、バーチャルな世界とリアルの世界をつなげる技術にある。

 ロボットをAI化するためには膨大な学習が必要だが、現実の現場だけでトレーニングを行うのは非効率であり、限界もある。そこでNVIDIAは、グラフィックスを用いて、バーチャル空間中に現実世界を忠実に再現するシミュレーションを推進する。24時間365日、バーチャル空間で試行錯誤を繰り返し、その結果を現実のロボットに適用することで、開発効率は劇的に向上する。これは自動運転をはじめ、様々なマシンの開発に応用されている手法だ。

 このアプローチを支えるため、NVIDIAは3つのコンピューティング基盤を用意している。1つ目はAIモデルの学習を行うためのコンピューター。2つ目はシミュレーションを行う技術基盤。そして3つ目は、現場でAIを実行させるためのデプロイ(展開)基盤である。

フィジカルAIを構築する3つのコンピュータ

 このシミュレーション技術は、すでにグローバル企業で大きな成果を上げている。例えば、世界に220サイトを持つAmazonの倉庫では、NVIDIAのバーチャルシステム「Omniverse(オムニバース)」で倉庫のデジタルツインを構築し、ロボットの最適な動きを検証している。また、自動車メーカーのBMWは、同じく工場のデジタルツインを構築することで、工場の立ち上げに要する時間を20%短縮している。

AmazonやBMWでNVIDIAのバーチャルシステムが活用されている

 そして、NVIDIAが日本市場に期待を寄せているのが、ヒューマノイドロボットの分野だ。日本は世界でも類を見ない高齢化社会を迎えており、労働力不足は深刻な課題となっている。世界全体で見ても、近い将来5000万人の労働者が不足すると言われている状況だ。

 大崎氏は、この課題解決のリーダーシップを取るべきは日本であると強調する。戦後、日本は機械産業を立ち上げ、精密な技術やテクノロジーを積み重ねてきた。その蓄積されたハードウェアの技術と、最新のソフトウェア技術であるAIをつなげることこそが日本の役割だという。「その結果、個性的なロボットを作り上げることが、私たち日本に課せられたリーダーシップの形です」(大崎氏)

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