ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第845回
最大256MB共有キャッシュ対応で大規模処理も快適! Cuzcoが実現する高性能・拡張自在なRISC-Vプロセッサーの秘密
2025年10月13日 12時00分更新
Condor Computingという会社はごく最近その名前が知られるようになった。創業は2023年で、エンジニア50人程度という非常に小さな設計チームだけが存在する会社だ。実はこの会社、台湾のAndes Technologyが出資して作った設計子会社である。
ただAndesの出したリリースには"now comprise nearly 100 employees, with more than 85% dedicated to R&D"とあって80人くらいはエンジニアがいる計算になっており、微妙に数が合わない。とはいえ100人未満の設計チームはCPUコアの開発としては最小限という感じである
当初はまったくアナウンスがなく、同社のXのアカウントも2023年に求人のアナウンスがいくつか並んでいるだけである。同社がAndesの子会社であることは、2025年7月のリリースまで明らかにされなかった。
どうもAndesとしては、自身の設計チームによるRISC-Vコアとはまったく異なる、非常に尖った性能の高性能RISC-Vコアの設計を別チームによって成し遂げたかった、ということらしい。
RISC-Vコアの新世代プロファイルRVA23に対応するプロセッサー
Cuzco
そんなCondor Computingの最初の製品がCuzcoであり、上のリリースによればすでに7月の段階でLinuxを始めとする複数のOSのブートに成功しているという。そんなCuzcoの特徴が下の画像だ。
余談だがCuzco(クスコ)はペルーの都市名で、旧インカ帝国の首都であった。Andesとの関わり合いを考えれば妥当な名前という気もするが、そもそもなぜ台湾の会社がAndes Technologyなのだろう?
CuzcoはOut-of-Order構成のコアで、最大8コアのクラスターを組める。命令セットはRISC-Vであるが、RVA23に対応している。RVAというのはRISC-V Internationalが定めるアプリケーションプロセッサー向けのプロファイルだ。そもそもRISC-Vでは命令セットがむやみやたらに多く、しかもそのほとんどがオプション扱いである。これは互換性を保つのも難しい。というより、RISC-Vの本来の趣旨からだいぶ外れた状態になってる気がするのは筆者だけだろうか……。
そこで必須命令に加えてどのオプション命令をサポートすべきか、を定めたのがプロファイルであり、RVA23は2024年10月に定められた最新のプロファイルとなる。このプロファイルに定められた命令をサポートすることで、Androidを含むOSの動作が保証され、またハイパーバイザーを含む昨今のアプリケーションプロセッサーに求められる要件をカバーできる。もっともCPU IPであるから、命令のカスタマイズなども可能であり、これも完全にサポートできる。
そのCuzcoの概略が下の画像だ。8命令のデコーダーと8命令の実行ユニットという、比較的強力なコアである。通常の命令に加えて512bit幅のVector命令もサポートされるが、これはRVA23の要件にVectorサポートが入っているためでもある。ステージ数は12段とそう多くはない。
サポートされる命令の詳細が下の画像である。特徴的なのはスライスと呼ばれる構造単位で実行ユニットが構成されており、それぞれのスライスにALU×2とBU×1、LSU×1とFMAC/FMIS/FDIVがそれぞれ×1含まれる構造だ。また分岐予測にTournament predictorが搭載されていることを明示しているのも珍しい(POWER5やPentium4などから実装が始まっている)。分岐予測ミスのペナルティが10サイクル程度と比較的軽いのも特徴的だ。

この連載の記事
-
第852回
PC
Google最新TPU「Ironwood」は前世代比4.7倍の性能向上かつ160Wの低消費電力で圧倒的省エネを実現 -
第851回
PC
Instinct MI400/MI500登場でAI/HPC向けGPUはどう変わる? CoWoS-L採用の詳細も判明 AMD GPUロードマップ -
第850回
デジタル
Zen 6+Zen 6c、そしてZen 7へ! EPYCは256コアへ向かう AMD CPUロードマップ -
第849回
PC
d-MatrixのAIプロセッサーCorsairはNVIDIA GB200に匹敵する性能を600Wの消費電力で実現 -
第848回
PC
消えたTofinoの残響 Intel IPU E2200がつなぐイーサネットの未来 -
第847回
PC
国産プロセッサーのPEZY-SC4sが消費電力わずか212Wで高効率99.2%を記録! 次世代省電力チップの決定版に王手 -
第846回
PC
Eコア288基の次世代Xeon「Clearwater Forest」に見る効率設計の極意 インテル CPUロードマップ -
第844回
PC
耐量子暗号対応でセキュリティ強化! IBMのPower11が叶えた高信頼性と高速AI推論 -
第843回
PC
NVIDIAとインテルの協業発表によりGB10のCPUをx86に置き換えた新世代AIチップが登場する? -
第842回
PC
双方向8Tbps伝送の次世代光インターコネクト! AyarLabsのTeraPHYがもたらす革新的光通信の詳細 - この連載の一覧へ













