横河電機とCRAFT BANK、発酵時間を28%も短縮
API? いやいや今回はIPAだ! AIシミュレーションでクラフトビール発酵を効率化
2025年09月30日 07時00分更新

横河電機とクラフトビール醸造のCRAFT BANKは9月26日、強化学習に基づく自律制御AI「FKDPP」を用いて、京都でのクラフトビール「BANK IPA」の発酵工程を最適化する実証実験に成功したと発表しました。
香りや風味を損なうことなく、発酵時間を従来の336時間から240時間へ、およそ28%短縮できたとのこと。
クラフトビール製造は、多様な香味と品質の追求と、生産効率の向上の両立が求められる分野です。とくに、発酵工程は味・香りに直結する重要なフェーズ。
今回の実験では、酵母の挙動と温度変化の相関性に注目し、自律制御AIが最適な温度変動プランを立案、それを醸造責任者が制御する方式が採用されました。

実験は、まずビール醸造工程を模したシミュレーターでAIモデルを訓練・検証したあと、現実の発酵タンクで制御に移すという手法によるもの。AIは温度変化プランを複数生成し、それに対して人の判断を加味したうえで、実機運用へと展開しました。
結果、発酵工程は336時間から240時間へ短縮され、28%の効率化を達成。また、醸造責任者による官能評価の結果、AIが導いた温度制御案は品質基準を満たすものとして認められたそう。これにより、発酵時間を削減しながらも品質を維持できる可能性が示されました。
CRAFT BANKは、京都産の天然酵母やホップ、その他副原料の活用にも取り組んでおり、京都ならではのビールづくりを進めています。今後はAIによってどのように新たな可能性が広がるのかを探究し、CRAFT BANKらしい革新的なビールづくりの可能性を追求する意向を示しています。
一方、横河電機は、日本酒やヨーグルトなどの発酵食品製造や、微生物や酵素・酵母を利用する抗生物質などの医薬品製造などにも自律制御AIの適用を進め、製造業の品質と生産性向上の両立、競争力強化に貢献していくとしています。
ビール醸造という伝統産業の現場にAIが入り込む試みは、いわば「伝統×最先端技術」の一つの象徴ともいえます。本実証実験が示すように、AIと職人の経験が補完関係を築ければ、工業的生産と風味品質の両立も視野に入るはず。技術領域を超えて“ものづくり”全般に示唆をもたらす可能性が生まれたといえるかもしれません。
もっとも、実運用においてはタンク間差異、センサー精度、外部環境変動といったノイズへの耐性やAIモデルの汎用性が課題として残ります。将来的には、異なる酵母株や発酵方式への適用、モデルの適応力強化が鍵となるでしょう。








