“オール光”で小型データセンターをつなぎ分散AI処理を検証
九州電力、IIJ、1FINITYらが分散DCの実証プロジェクト 「九州版ワット・ビット連携」目指す
2025年09月26日 07時00分更新
国内のデジタルインフラの整備に向けて、政府が推進する「ワット・ビット連携」。電力(ワット)インフラと情報通信(ビット)インフラの効率的な連携によって、地方の脱炭素電源を有効活用し、AI向けのデータセンター(DC)適地を確保しつつ、地域復興につなげるという構想だ。この考えに賛同したプロジェクトが九州で始まる。
九州電力、インターネットイニシアティブ(IIJ)、QTnet、1FINITY、ノーチラス・テクノロジーズの5社は、分散データセンター(DC)構築に向けた実証プロジェクトを、2025年10月より開始することを発表した。九州の再生可能エネルギー(再エネ)を活用し、地域に分散したDCをAPN(All-Photonics Network・オール光ネットワーク)でつなぐことで、電力とAI処理の最適化を目指す。
九州電力のテクニカルソリューション統括本部 情報通信本部 ICT事業推進グループ チーフアーキテクトである矢野恒氏は、「AIと電力には切っても切れない関係がある。AIが従来の数十倍ともいわれる電力を必要とする中で、最適化は不可欠」と強調する。
まずは2拠点から、分散DCにおけるAI・データ処理の有効性を検証
本プロジェクトでは、九州各地にある再エネなどの電源の近くに小規模DCを分散設置。これらのDCをAPN接続によってひとつのシステムとして機能させ、場所を問わないデータ保管や処理が実現できるかを検証していく。
検証期間は、2025年10月から2026年3月までを予定しており、まずは、QTnet(九州電力グループ)の中核DCと小規模DCの2拠点でDC機能を分散配置して、AI処理と分散データベースの有効性を評価する。
九州電力のテクニカルソリューション統括本部 情報通信本部 ICT事業推進グループ グループ長である中川公士郎氏は、「従来、大規模・中規模のDCを建設する場合、開設までに数年単位の期間を要する。地理的に分散配置された小規模DCでのAI処理が、ひとつのDCと同様に機能すると実証されれば、場所を問わない高度なサーバー処理を運用可能になる」と説明する。
1Finityが独自開発した光NIC、IIJの小型DCを利用
今回の実証におけるポイントは、DC同士の接続に、光ネットワークインターフェイスカード(NIC)を組み合わせたAPN技術を採用することだ。分散されたサーバー間を、電気信号と光信号の混在ではなく“光信号のみ”で直結することで、光電変換装置が不要となり、省電力化が図れるという。
この光NICには、1Finityが効率的な分散AI処理を実現するために開発した「1Finity NIC(仮称)」が用いられる。1FINITYのフォトニクスシステム事業本部長である松井秀樹氏は「ワット・ビット連携を実現するためのひとつの現実解」と説明する。
従来のコンピューティングのデータプロトコルは、短距離でのデータ処理を前提としている。そのため、RDMA(メモリに直接データを送受信する技術)のデータ転送で性能が低下するなど、距離を伸ばそうとするほど様々な課題にぶつかる。そこで、1Finity NICは新たなプロトコル処理を採用しており、100kmの長距離データ転送において従来比で20倍のデータ処理性能を発揮し、遅延も100分の1まで抑えるという。
「AI学習のような大きなデータ処理は発電所(電源)の近くで、推論のようなカスタムが必要なデータ処理はユーザーの近くでするといった分散処理を実現できることを実証していきたい」(松井氏)
また、小規模データセンターには、IIJの「マイクロDC」が使用される。同社もこれまで、クラウドとエッジを分散させたデジタルインフラの推進に注力してきた。クラウドインフラとしては、島根県の松江DCパークや千葉県の白井DCキャンパスを、エッジインフラとしては、マイクロDCやコンテナDCを提供し、同社のネットワークでつないでいる。
マイクロDCは、屋内・屋外と設置場所を選ばない運搬可能なDCだ。UPSから空調設備までをオールインワンで備えており、高い省エネ性能とマネージドサービスで運用コストを削減できる。
IIJの常務執行役員 ネットワークサービス事業本部長である山井美和氏は、「IIJでもワット・ビット連携の構想を持っていた中で、送電網・ファイバー網でつながったエッジ基盤上でのAIやデータベース処理を実証する必要があると考えていた」と語る。














