遠藤諭のプログラミング+日記 第198回
9月24日(水)19時00分~「夜のマイコン展」が生放送
「電脳秘宝館 マイコン展」で、あのマイコン、このパソコン、その原点を訪ねよう
2025年09月22日 09時00分更新
誰も見たことないようなマシンから自分を育ててくれたあのマシンまで
7月19日から本棚劇場などで有名な角川武蔵野ミュージアムで「電脳秘宝館 マイコン展」が開催中だ。4階の荒俣ワンダー秘宝館を会場に、70以上のマイコン、パソコン、関係資料がずらりと並んだ展示。その「解説」を担当させてもらった。
荒俣宏さんが「監修」。荒俣さんは、実は、プログラマーとしてのキャリアの持ち主なのでコンピューターに関して一家言ある。Windows 95の発売とき、「WindowsというのはOSです。OSというのはソフトクリームでいえば持つところのコーンのようなものです」と、何かのテレビ番組で解説されていたことがあった。
私の編集部ではキヤノンの広報誌やCD-ROM+本の『遠近術』でお世話になったことがあるのだが、今回の企画のために25年ぶりにお会いした(『怪』の初代編集長の郡司聡さんにつないでいただいた)。
荒俣先生からのポイントは、「(1)秘宝館なんだからみんながビックリするもの、初めて見るものがあるか? (2)1970~1980年代の日本はこの分野で貢献したことが見えるか。(3)WindowsとMacしかない今と違って多様なOSがあったことが分かる」(言葉はこのままではありません)というものだった。
このマイコン展、このコラムでも何度も紹介している青梅の「マイコン博物館」と館長の吉崎武さんの全面協力のもとに行われている。実は、ここが入り口となって私が関わらせていただくことになった。機材のほとんどもマイコン博物館のものである。
荒俣宏さんのオーダーに対して、角川武蔵野ミュージアム(公益財団法人 角川文化振興財団)でかなりキッチリした構成を考えてくれて、それに対してマイコン博物館の収蔵品をあてはめていった形である。それぞれの時代区分についての解説と年表、各マシンのラベル的な説明文が私の担当となっている。
今回の展示で、さすがマイコン博物館と思ったのは、マイコン登場前の2つのコンピューター「MINIVAC 6010」と「EC-1」だ。これが、入口のむしろ外側にドカンと構えている。
MINIVAC 6010は、このコラムの「愛すべきマシンたち:ホームコンピューターの美学」で紹介したクロード・シャノンの手になるMINIVAC 601(1961年)の後継機だ。コンピューターの原理を学ぶためのトレーナーである。
EC-1は、米国の電子キットやロボットでも有名なヒースキット社が発売したアナログコンピューター。回路の配線を変えることで関数を解くアナログコンピューターだ。デジタル式のコンピューターの性能が十分に普及するまで使われていたものだ。必要となる企業や関係する学科には必ず設置されていた。EC-1は、その個人向け版。
1970年代に、日本のコンピューターの世界で活躍したミニコンの代名詞が日立の「HITAC 10」。「1970年代、日本発マイコンベンチャー「ソード」を知っているか──椎名堯慶氏インタビュー(前編)」にも出てくるし、後述の村上憲郎さんのインタビューでも出てくる。
1970年代にコンピューターで仕事をしていた人や学んでいた人たちは、もうこのHITAC 10のところ(入口からかなり近く)で泣いてしまうかもしれない。
HITAC 10の時代に頻繁に使われ、その後のマイコンユーザーたち羨望の周辺機器だったテレタイプ端末もある。こちらも、もう泣いてしまうミニコンやマイコンのユーザーがいるはず。写真ではセットされていないが、いわゆる8単位カミテープを読み取り・鑽孔できる(紙テープについては「やっぱりカッコいい!! うちのパソコンに「紙テープ装置」がやってきた!」を参照)。
ほかに見どころなのが、ここのところ話題になることがしばしばしある「ラテカピュータ PC-2001/PC-2000」だ。
かつて日本の家電業界では合体製品というジャンルがあった。その代表はなんといっても「ラジカセ」、「ラジオカセットレコーダー」だ。ラテカピューターは、「テ」(=テレビ)、「ピューター」(=コンピュータ)も加えた、大変に欲張りな製品。マイコン博物館には、今年になってから寄贈された個体で、シャープ公式ページによれば出荷数は、わずか200台という超レアものである。
私は、1999年にシャープ株式会社東京広報室の長山さんにラテカピューターの報道資料を送っていただいた。それによると、「6大情報メディアを有機的に結合した」とあり、その6大メディアとは、コンピュータ、テレビ、ラジオ、カセットレコーダ、時計、プリンタとあった。
このままラテカピューターについて書いているとこの記事が終わらなくなるので、偏りまくった製品の紹介はここまでとしよう。「電脳秘宝館 マイコン展」には、前述のパソコン以前の製品から1970年代のマイコン誕生の時代、さらには1980年代に「パソコン」と呼ばれるようになる頃までの製品がズラリと展示されている。
以下、主要な展示マシンの一覧である。
●モンロー計算機 機械式計算機の定番。最初は手回し式だったがやがて電動式となった
●タイガー計算器 日本における機械式計算機の代名詞となった製品。
●MINIVAC 6010 クロード・シャノンが作ったコンピューター教育キット強化版
●EC-1 教材用アナログ計算機
●DIGI-COMP 1 コンピューターの動作原理学習機
●HITAC-10 日本を代表するミニコンピューター
●SEIKO S-500 インテル最初の8ビットマイクロプロセッサ搭載電卓
●Intel 4004 世界初のマイクロプロセッサ
●Intel 8080 8ビットマイクロプロセッサの決定版として登場
●Motorola MC6800 モトローラの8ビットマイクロプロセッサ
●NEC TK-80 伝説的マイコン学習キット。Intel 8080互換の自社製マイクロプロッセッサ搭載
●マイティーレオ(Mighty Leo) コモタ製マイコン教育用ワンボードマイコン
●SM-B-80TE シャープのZ80を搭載ワンボードマイコン
●TK-Z80 東洋リンクスの東芝TMPZ84C00AP-6 (Z80互換)を搭載したワンボードマイコン
●Teletype ASR-33 テレタイプ端末
●IMSAI 8080 初期のマイコンの世界を発展させるのに貢献をした米国の8ビットマイコン
●放電破壊プリンタ(SP-14) アルミ泊を放電で飛ばして印刷するプリンタ
●ベーシックマスターMB-6880 モトローラ MC6800互換のHD46800を搭載
●MZ-80K 初期パソコン市場で際立った存在だったシャープ初の製品
●ラテカピュータ PC-2001/PC-2000 ラジオ、テレビ、カセット、コンピューターの合体製品
●PC-8001 NECが発売日を「パソコン記念日」とする機種
●FM-8(FUJITSU MICRO 8) 6809採用の特殊なシステム構成
●PET 2001 初期マイコン御三家の1つで一体型
●Apple II アップルの屋台骨を築いた名機
●TRS-80 米国全土に8000店を展開していた電気店がラジオシャックが発売
●VIC-1001 6万円台という手頃な価格で、家庭へのパソコン普及を狙った米国製パソコン
●JR-100 学習指向の低価格入門
●ファミリーコンピュータ(ファミコン) 家庭用ゲーム機の金字塔
●ファミリーBASIC 家庭でBASIC入門
●ぴゅう太 TP1000 256×192ドットは「お絵描きパソコン」向け
●ZX-81 英国シンクレア・リサーチ社が開発した低価格で成功した最も有名な8ビット超廉価機
●ソード M5 国内の初期のマイコン市場でいちはやく成功したソードのホビーPC
●HC-20(HX-20) & テレホンカプラ モバイルコンピューティングの先駆け&通信
●FM-77AV 富士通の8ビット機FM-7シリーズの上位機。4096色同時表示やFM音源の標準装備
●PC-8801シリーズ NEC最初のパソコンとして成功をおさめたPC-8001の上位互換機
●X1 turbo Z シャープの8ビット機はMZとX1シリーズがある。X1はテレビ事業部の製品
●SMC-777 ソニー独自アーキテクチャの8ビット家庭向けパソコン
●CF-2000 大手家電メーカーの松下からのホームパソコン
●HIT BIT HB-10 「ひとびと~の、ヒットビット」
●YIS-503 ヤマハの音楽や教育を重視したMSX機
●HB-F900 / HBI-F900 ソニーのAV対応MSX
●UC-2000 SEIKOの腕時計型コンピュータ
●IBM PC XT (5160) IBM PCのHDD搭載標準機
●Macintosh 128K Macの初代機
●PC-9801 国内市場を席捲したビジネス標準機
●PC-100 先進性を重視したNECの16ビット機
●Compaq Portable IBM互換持ち運び可能マシン
●Dynabook J-3100 SS001 A4ファイルサイズの大ヒット機
●X68000 グラフィック最強伝説
●OASYS 30AFⅢ 日本語ワープロ
●一太郎 日本語文書作成の王道
●Microsoft Multiplan 初期表計算の定番
●MS-DOS 16ビット時代のパソコン標準OS
●PV-A1200 MKⅢ パソコン通信で活躍したアイワのモデム
●Apple I 手作り少量生産の原点(レプリカ)
●Apple III 企業向け高級機
●Apple IIc 女性層を狙った小型機
●Lisa 先進GUI搭載したアップルのハイエンド機
●NeXTcube ジョブズが独立して作った先進マシン
●iMac 一体型トランスルーセントボディでアップル復権の象徴
●スペースインベーダー 日本のゲーセンブームを象徴
※一部の機種が変更になっている場合があります。
もちろん、コテコテのマニアの方々が訪問してくれてもいて、角川武蔵野ミュージアムの担当者によると、夏休みの間、館内の中でもとても賑わったエリアだったそうだ。
かつてコンピューターは、一部の専門家やマニアのもので、家庭の主婦などがコンピューターに興味を示すことはまずなかった。それが、いまや一般の人たちも人生の中で、なんらかの形でコンピューターに触れることのほうが多いのだろう。
実際に現地にいると、親子連れなども来ていただいていて「ママは、このコンピューター使ってたのよー」などと子供に説明している母親などもいたりする。そうした、自分がお世話になったコンピューターと再会したり、あるいは自分の知らないその原点を辿ることが、この「電脳秘宝館 マイコン展」の目的である。
個人的に準備はせっせと手伝わせてもらったものの、公開してから「おおーっ」となるくらい楽しかったのは、展示スペースの上に飾られた看板たちだ。誰が見ても「秋葉原?」と錯覚するようなロゴが並んでいて、ちょっとしたタイムトリップ感に襲われることになる。その気分だけでも楽しめる。
というのは、1970~1980年代にかけて、それを作った人たち、それを使った人たちがいた。多くの場合はそれが青春の真っただ中に行われたであろう、その熱まで伝わってくる気がするからだ。
ダブル月刊アスキー編集長が「電脳秘宝展 マイコン展」から生放送
9月24日(水)19時00分~、この電脳秘宝館 マイコン展の会場から「夜のマイコン展」という生放送が行われることになった。出演者は、青梅のマイコン博物館の館長の吉崎武さんと、元月刊アスキー編集長の私である。吉崎さんは創刊間もない頃の編集長でもあるので、ダブル月刊アスキー編集長の登場となる。
私は、マイコン誕生の時代にはこの世界に関わっていなかったので、吉崎さんからどんなお話が伺えるのか楽しみだ。その後の時代については、主に私が解説することになっているのだが、時代を象徴するような大きなテーマに関わる製品に関しては、対談のような感じになるらしい。
番組概要
番組名:夜のマイコン展~吉崎武と遠藤諭が語り尽くすマイコンの歴史:角川武蔵野ミュージアム『電脳秘宝館・マイコン展』会場から生放送
放送時間:2025年9月24日(水)19時00分~
※ニコニコ生放送のタイムシフト機能で、見逃してもご視聴になれます(配信から180日間)。
番組ページ:ニコニコ生放送
出演者:吉崎武(マイコン博物館 館長)、遠藤諭(元『月刊アスキー』編集長、ZEN大学客員教授、同大学コンテンツ産業史アーカイブ研究センター研究員)
初期マイコンからパソコンまでの時代についてのたぶんここでしか聞けないお話も出てきたそうなので、ぜひお聞きいただけると。自分はこうだったとか、iPhoneのはるか先祖はこれだったのか? とか、いまの世の中に生きる我々なら、きっと何か見つけられるものがあると思う。
そして、生放送を聴いていただいたあとは、お時間のある日を見つけてぜひとも角川武蔵野ミュージアムを訪ねてほしい。
角川武蔵野ミュージアムでは、いま「昭和100年展」も開催されていて、iPhoneの展示もされている。昭和の時代にはすべてバラバラな道具やメディアとして提供されていたものが、すべて手のひらの中に納まったことをそれぞれの製品をすべて並べた展示。
『電脳秘宝館 マイコン展』にピリリとくるものがあったら、ぜひ青梅の「マイコン博物館」にもお出かけすることをお勧めする。
吉崎武氏によれば、マイコンの誕生から今年は50年。最初期のマイコンとしては1974年のAltair 8800などがあるが、翌1975年のIMSAI 8080あたりからが、本格的なマイコンの時代が始まったといえるからだそうだ。
夜のマイコン展~吉崎武と遠藤諭が語り尽くすマイコンの歴史:角川武蔵野ミュージアム『電脳秘宝館・マイコン展』会場から生放送
https://live.nicovideo.jp/watch/lv348634473
Googleとiモードの深い関係、クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』と小型HDD開発の真相
コンピューターの歴史に関係するので、もう1つ動画番組のご案内をさせていただくことにする。ZEN大学のコンテンツ産業史アーカイブ研究センター(HARC)が実施しているオーラル・ヒストリーを紹介する番組が、2025年9月19日にニコニコ生放送で配信された。現在はログインなしで視聴可能。
元米国Google副社長の村上憲郎氏、東芝J-3100シリーズの開発に携わった菅正雄氏へのインタビュー内容の見どころを説明させていただいた。日立からDEC、第五世代コンピュータープロジェクトに関わり、Googleでも活躍された村上氏のお話は、それぞれの時代のコンピューティングや文化が克明に分かる内容となっている。Googleとiモードの深い関係も注目に値すると思う。
菅氏のお話は、1990年代後半に世界で最もノートPCを販売するメーカーとなった東芝のノートPC事業の立ち上げについて。さらには、少なくとも私は全く知らなかった某米国ゲームメーカーとの協業の経緯なども語られる。現在コンピューターやネットデジタルの世界で仕事をする方々にも、大いに刺激となる内容となっている。視聴は、以下から可能だ。
HARCインタビュアー(遠藤諭)が語るオーラル・ヒストリー深掘り
https://live.nicovideo.jp/watch/lv348713481
遠藤 諭(えんどうさとし)
ZEN大学客員教授。ZEN大学 コンテンツ産業史アーカイブ研究センター研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役、株式会社角川アスキー総合研究所取締役などを経て、2025年より現職。MITテクノロジーレビュー日本版 アドバイザーなどを務める。雑誌編集長時代は、ミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』など書籍もてがけた。2025年7月より角川武蔵野ミュージアムにて開催中の「電脳秘宝館 マイコン展」で解説を担当。著書に、『計算機屋かく戦えり』、『近代プログラマの夕』(ともにアスキー)など。
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