遠藤諭のプログラミング+日記 第197回
9/10(水)市ヶ谷、あのロボットアームを持って集まろう!
伝説の玩具「アームトロン」に学ぶ——“1モーター×機械式ロジック”が切り拓いたロボット設計
2025年09月03日 09時00分更新
MIT Technology Review[日本版]主催
「6DoF」という言葉がある。“six degrees of freedom”の意味で日本語では「六自由度」と呼ばれる。3次元空間内で物体の「前後・上下・左右」への移動と、「ピッチ(縦回転)」「ヨー(横回転)」「ロール(斜め回転)」の3つの回転、合計6つの動きの自由度すべてを指す。
さまざまな分野で使われるが、1982年にトミー(現タカラトミー)から発売されたロボットアーム玩具「アームトロン」は、子供たちの手の届くところでそれを体験させてくれた。アームトロンは上記の6DoFそのままではなく、複雑な機構の組み合わせで六軸ロボットアームを実現している。何十年もの間に人類が生み出したすべての六自由度の具現化の中でも最もクレイジーなハードウェアの1つだったと言い切っても良いと思う。
なにしろ、機械だけで“多軸協調”を実現(箱の中は歯車・カム・クラッチの“メカ演算”)。まるで、ソフトウェアの精緻なアルゴリズムを感じさせてくれるほどの複雑さと美しさである。単1電池×2本+DCモーター1個という極限構成で、玩具としての低コスト・低電力・ノイズ耐性といった要求や制約に応えたことも、当時の産業機器などの専門家たちを驚かせた。
それは、40年を経たいまも世界最先端のロボット工学者が「玩具だと分かっていても本物のロボットだった」と語り、教育・研究現場で再評価が続いている(MITテクノロジーレビュー記事「世界の工学者を魅了し続ける80年代の日本のおもちゃ」参照)。
その開発者である渡辺広幸氏(元タカラトミー 技術開発部試作開発課フェロー)と、木口敬純氏(同課長)をお招きし、アームトロンに見られる設計思想・機構設計・試作プロセスを、一次情報として徹底解説するイベントが開催される。2025年9月10日(水)に開催される「世界のロボット工学者を魅了する伝説のおもちゃ「アームトロン」 開発者が語る誕生秘話 Emerging Technology Nite #34」だ。
私は、お二方の講演のあと質疑応答タイムでモデレーターをつとめさせていただく(自分のアームトロンも持ち込み予定なので「私も持っているゾ」という人は持ってきてくれたら楽しいかもしれない)。
『aibo誕生』収録「正しい理科少年たちのために」で1970年万博のカメラロボットなどで有名な相澤二郎さんのロボットたち、富谷龍一氏によるメカモ、トミーのOMNIBOT2000、横井軍平氏によるファミコンロボット、LEGO MINDSTORMSとともにアームトロンを紹介させていただいた。
なぜ、今アームトロンに注目したいのか? こんな方々においでいただきたい
このトークセミナーにぜひ来ていただきたいと思うのは、まずはメカ設計に興味のある方々、あるいはその専門家の方々だ。クラッチ・ラチェット・差動・カムなど、純機械式での状態遷移やバックドライバビリティに魅了される人たち。次に、ロボット制御やHRI(ヒューマン・ロボット・インタラクション)、タスク分解の機械実装、失敗時挙動(過負荷時の“カチリ…”)など行動設計の示唆を持ち帰りたい人。Maker FaireやNTの常連で、“電気を減らして機構で解く”設計に落とし込みたいと思っている人などである。
さらには、Hugging FaceのSO-101で盛り上がる小型オープンロボットアーム、AI時代のメカ設計の価値に興味のある方々にもおいでいただき、交流タイムも作ったので人の繋がりもできたら楽しい。会場は、角川アスキー総研の市ヶ谷オフィスなので、IT業界の人たちに信奉される南インド料理レストランである麹町アジャンタもほど近い立地である。
ところで、このイベントの告知を兼ねたポストをXにしたところ、元『ログイン』編集長のまたろうさんから、「うー、メチャ行きたいけど仕事で行けない~。」というコメントとともに以下の写真がアップロードされた。「1982年の発売された時です。当時おもちゃ屋でバイトしており店頭デモ品を譲り受けました~。」とのこと(ポストのURLはコチラ)。あまりにもうらやまし過ぎる!
世界のロボット工学者を魅了する伝説のおもちゃ「アームトロン」 開発者が語る誕生秘話 Emerging Technology Nite #34
■日時:2025年9月10日(水)19:00–21:00(18:45受付)
■会場:KADOKAWAセミナールーム
(東京都千代田区五番町3-1 五番町グランドビル7F/市ヶ谷駅徒歩5分)
■定員:60名(現地のみ/配信なし)
■参加費:一般 1,000円/MIT TR有料会員 クーポン利用で無料(Peatix購入時に割引コードを入力)
■主催:MIT Technology Review[日本版]
■登壇者:
渡辺 広幸(元タカラトミー 技術開発部 試作開発課 フェロー)
木口 敬純(タカラトミー 技術開発部 試作開発課 課長)
※敬称略
■モデレーター:遠藤 諭(MITテクノロジーレビュー[日本版]アドバイザー、ZEN大学客員教授、コンテンツ産業アーカイブ研究センター研究員)
■タイムスケジュール:
19:00〜19:05 ご挨拶(MITテクノロジーレビュー)
19:05〜19:45 渡辺広幸氏・木口敬純氏による講演「世界のロボット工学者を魅了する伝説のおもちゃ『アームトロン』開発者が語る誕生秘話」
19:45〜19:55 休憩
19:55〜20:35 質疑応答(渡辺広幸氏・木口敬純氏、モデレーター:遠藤 諭)
20:35〜20:55 名刺交換・交流タイム
21:00 終了/閉場
■申込み:Peatix(https://etn34.peatix.com/)
遠藤(えんどうさとし)
ZEN大学客員教授。ZEN大学 コンテンツ産業史アーカイブ研究センター研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役、株式会社角川アスキー総合研究所取締役などを経て、2025年より現職。DCAJ主催のCTIP(コンテンツテクノロジー・イノベーションプログラム)の審査委員長、ISCA(INTERNATIONAL STUDENTS CREATIVE AWARD)2025の審査員、MITテクノロジーレビュー日本版 アドバイザーなどを務める。2025年の夏コミで40年ぶりにコミケに参戦(『秋葉三尺坊の大冒険』という本で、秋葉原の東京ラジオデパートにあるShigezoneさんで入手可能)。2025年7月より角川武蔵野ミュージアムにて開催中の「電脳秘宝館 マイコン展」で解説を担当。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。
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