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“量子コンピューター時代”に備える暗号通信技術に向け前進

東芝・NEC・NICT、IOWN APNの高速データ通信と量子鍵配送の統合に成功 世界初

2025年07月31日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 東芝、NEC、情報通信研究機構(NICT)の3者は2025年7月28日、IOWN APN向けの大容量光伝送システム環境に量子鍵配送システムを統合し、「高速データ通信」と「鍵生成」を共存させる実証実験に、世界で初めて成功したと発表した。

 この実験では、同一の光ファイバーでIOWN APNの高速データ通信信号、東芝方式のQKD(量子鍵配送)信号、NEC方式のQKD信号の3つを波長多重伝送した。従来、QKDによる良好な鍵生成には、QKD専用のネットワーク(ダークファイバー)を用意する必要があったが、今回は、同一光ファイバーでも鍵生成と高速データ通信が両立できることが確認できた。これにより、クラウドサービスにおけるQKD技術の幅広い利用や、金融分野や政府機関をはじめとした多様なユースケースでの応用が見込めることになる。

 東芝 総合研究所の勝部泰弘氏は、今回の実証成功は「通信キャリアの次世代基幹ネットワークで、QKD鍵配送を実現できる可能性を示したものであり、広域かつ低コストな量子暗号通信サービスにつながる成果と言える」とコメントしている。

今回の実証成果の概要

東芝 総合研究所 AIデジタルR&Dセンター コンピュータ&ネットワークシステム研究部の勝部泰弘氏、情報通信研究機構(NICT) 量子ICT協創センター 研究センター長の藤原幹生氏、NEC アドバンストネットワーク研究所 主任研究員の河原光貴氏

安全なデータ通信に迫りくる“量子コンピューター時代”のリスク

 QKDは、暗号通信に必要な「鍵データ」を、通信相手と安全に共有するための技術。量子力学の原理によって、その安全性が情報理論的に担保されているのが特徴だ。

 QKD技術が注目されている背景には、“量子コンピューター時代”に訪れる新たな情報セキュリティの脅威がある。組み合わせ最適化問題などの計算処理を得意とする量子コンピューターを悪用すると、現在広く使われている暗号アルゴリズムのほとんどが、短時間で破られる可能性が高い。そのため、量子コンピューターでも解読ができない、新たな暗号通信技術が求められている。

 さらに、現時点ではまだ破れない暗号方式であっても、暗号化データを傍受して保存しておき、大規模な量子コンピューターが実用化された段階で解読する「データハーベスティング」という攻撃方法も指摘されている。その点でも、データ通信に対する早急な対策が必要とされている。

 NICT 量子ICT協創センター 研究センター長の藤原幹生氏は、こうした懸念点を指摘したうえで「東芝とNECのQKDはすぐに使える技術。NICTでもゲノムデータをやりとりする際に、これらの技術を使うことで安心できる。今回の実験結果は、安全なデータ利活用を支える一助になる」と述べた。

“物理的に盗聴不可能”なQKD暗号鍵、これまで抱えていた課題は

 QKDによる量子暗号通信は、量子コンピューターを用いても解読が不可能な、通信相手以外には情報が漏洩しない形のセキュアなデータ伝送を実現する。

 具体的には、光の最小単位である光子の信号を用いて暗号鍵を安全に伝送し、その鍵で伝えたいデータを暗号化する手法である。光子はそれ以上分割できないため、暗号鍵の光子信号が第三者に盗聴された場合は、正しい受信者に鍵が届かず盗聴が発覚する。また、コピーされた光子の状態は、量子力学の原理上必ず変化するため、こちらでも盗聴が発覚する仕組みだ。

QKD(量子鍵配送)技術による量子暗号通信の概念図

 広域/多地点間でQKDを実現するには、複数のQKDリンクを組み合わせた「ネットワーク」を構築し、任意の拠点間で鍵を共有する「鍵リレー」を行う必要がある。ここではまず、QKDを用いて隣接する拠点間で「リンク鍵」を生成/共有し、単一リンク間の通信を暗号化。さらに、リンク鍵を用いて、拠点内で生成した「アプリ鍵」を任意の拠点間で安全に共有するという手順を踏むことで、任意の拠点間の通信を暗号化できる。これを「QKDネットワーク」と呼ぶ。

 ただし、QKDネットワークの整備や運用実験が進んでいるものの、良好な条件で伝送するために、現状では専用のダークファイバーを利用して「量子鍵配送の専用ネットワーク」を使っていると、勝部氏は説明する。その結果、QKDネットワークの導入コストや運用コストが増加し、今後の広域化を妨げる課題となっていた。

 今回、IOWN APNを用いた“非専用ネットワーク”による実証実験の成功は、こうした課題を解決し、今後の広がりに向けた重要な成果と位置付けられている。

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