“AI恋人”が幸福感を底上げするとは限らない
一方で、課題点を指摘する研究も登場しつつあります。6月にスタンフォード大学などの研究者がAIチャットサービス「Character.AI」の1131人のユーザーの41万件のメッセージを分析してまとめた論文です(注5)。この調査の結論は、「チャットAIと“擬似的な友だちや恋人”になる人は少なくないが、それが幸福感を底上げするとは限らず、むしろ孤立した人ほど逆効果になりやすい」というものです。
独自の分析手法による分類によると、利用の中心は娯楽や生産性といった実用・エンタメ目的であり、恋人や親友の代わりとしてAIとの関係を求めている人は全体の一割強にとどまっています。生産性向上や学習支援、気晴らしといった目的で利用する場合には、利用頻度が高いほど主観的幸福度が向上することが確認されています。そして、その少数派が行う対話にはロマンティックなロールプレイや情緒的な励ましが頻出し、チャットボットの「いつでも応じてくれる」「評価を下さない」という特徴が孤独感や不安の一時的な緩和に一役買っているようです。それにより、AIが低コストのコンパニオンとして役立つ可能性が示されました。
ただし、恋愛的・擬似的なパートナーシップを求める利用者では、自分の情報をAIに開示する量と対話の頻度が高まるにつれて、幸福感がむしろ低下する傾向が一貫して見られるとしています。
社会的ネットワークが小さい人ほどその影響は強く、AIとの親密なやり取りがオフラインの孤立を補うどころか、依存を深めたり期待との落差から失望や抑うつを招いたりする恐れがあるとしています。また、「リスキー・ダークなテーマのロールプレイ」をする人も3割弱を占め、過激な内容が感情の不安定化をもたらすリスクも指摘されています。
著者たちは、AI開発者に対して、過度の自己開示を抑制する対話設計や、危機シグナルを検知して専門家へつなぐ仕組みなど、安全策を講じた「補完的パートナー」としての実装を提案しています。
横断研究であるため因果関係までは確定できませんが、AIコンパニオンと長期的なつながりを持つ人が広がるに従って、一定のリスクが顕在化する可能性があるものと言えるのかもしれません。

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