勇気と覚悟を持って66歳で起業家に!発酵食品がくれた、人生をもう一度歩き出す力
「糀で世界中の人をお腹の中から元気にする!」をモットーに、発酵をテーマにした料理教室のほか、発酵調味料の製造・販売を展開する「泉州糀屋本家」。その代表である北島祐子さんは今でこそ、健康的で前向きな毎日を送っているが、かつては「このままでは50歳までもたないかもしれない」と思い詰めるほど心身の不調に苦しんでいた。早くに夫を亡くし、仕事をしながら2人の子どもを育て、無理を重ねていた日々…。そこからどうやって立ち直り、66歳での会社設立へとつながっていったのか。糀と発酵食品との出会いがくれた、第二の人生への歩みをたどる。
すべての画像を見る場合はこちら病気のデパートから一転、発酵食品との出会いが健康と人生の輝きをもたらす
北島祐子さんが現在の事業につながる糀と発酵食品に出会ったのは50歳の時。そこにいたるまではまさにいばらの道だった。最初の悲劇は彼女が33歳の時に訪れる。当時小学3年と5年だった2人の子どもを残し、14歳上の夫が他界したのだ。
「夫が体調不良を訴え、入院してわずか10日ほどで亡くなったんです。胃がんでした。私は母も早くに亡くしていたので、周囲からの助けも期待できず、一人でどうやって2人の子どもを育てていけばいいのか、途方に暮れてしまい。なにせ覚悟をきめる時間も、心の準備をする時間もないまま、本当に突然の出来事だったので…」
どうにか子どもたちを育てていかなければいけない、生活をしていかなければいけない。こうして北島さんは結婚前から続けていたピアノ教室の講師と、夫が生前営んでいた飲食店の経営という二足の草鞋を履きながら懸命に働いた。
「結局、飲食店は2年ほどでたたみました。夫の生前はサポートという形でかかわっていたので、引き継いでみたものの、やはりそんなに甘いものではなく。でも、ピアノの講師だけでは暮らしていけないので、朝からパートタイムの仕事もしていました」
日々をこなすことに精一杯の生活。気づけば、無理が重なり、胃潰瘍に十二指腸潰瘍、大腸ポリープ、胆石、脊柱管狭窄症、心房細動、突発性難聴など、数えきれないほどの病気を抱え、入退院を繰り返すようになっていた。
「今から思えば、発端は心因性のストレスですよね。ずっと夫に支えられて暮らしてきたのに、それがなくなってしまったので。日々の重圧や疲労から過食に走ってしまい、20キロほど体重が増えました。そして太ったことにより、さまざまな病気を引き起こしていったのです。このままでは50歳まで生きられないかも…そう思い悩むほどでした」
そんな折、ふとしたきっかけで甘酒づくりを始めることになった北島さん。炊飯器を使用して手探りで始めた甘酒づくりが、ヨーグルトメーカーを使うようになってから安定しておいしく仕上がるように。そこから味噌、塩糀と、次第に発酵食の魅力に引き込まれていった。
「発酵食を取り入れ始めてから、まずは便秘が改善されて。体も軽くなって、気づいたら病院と縁が切れていたんです。体重も減り、腸内環境が整っていくのが実感としてありました」
みるみる体調が改善したことで食の大切さを実感した北島さんは、発酵食品だけでなく、栄養全般について学びと実践を繰り返すように。もともと家政科出身ということもあり、知識を深めていくことに熱中。なにより自分の体の変化こそが、学びの原動力となった。
そして57歳のころ、その後の北島さんの人生を変えることになる転機が訪れる。普段から糀を購入していた味噌販売店に料理教室の講師を依頼されたのだ。
「お味噌屋さんでいつも『糀を使ってこんな料理を作ってみたのよ』とか話していたんです。そうしたら、そこの社長さんから『うちで料理の先生をやってみない?』と。そのうちに『糀や発酵食品のことを知りたかったら、あの人に聞いたらいいわよ』という、うわさが近所で広まって。塩糀の使い方など、みなさんが知りたいことをお答えするようになりました」
周囲で教えてほしいという人が増えてきたことから、59歳で小規模ながら料理教室をスタート。自宅での開催だったが口コミが広がり、通う人も徐々に増えていった。
「最初は流れに任せて始めたような感じです(笑)。でも、続けていくうちに、参加者の多くが普段の食生活に課題を抱えていることがわかってきて。ちょっと変えるだけで体調がよくなる方が出てらして。それを一緒に喜べるのが本当にうれしいんです」
起業で見えた新しい景色、100歳になっても〝かっこいいおばあさん〟でありたい
せっかく多くの人に教えるからにはと、健康指導員や健康管理士、野菜ソムリエ、発酵マイスターなどの資格も取得。そうすると、さらに教室の参加者が増加し、次第に自宅で開催するには手狭になってくる。
「ありがたいことにどんどん教室に参加したいという方が増えて。自宅ではもう難しいかなと思っていたころに、生徒さんの実家を借りられることになったんです」
縁あって借りることができた古民家へ「発酵サロン」として移転。そこから「泉州糀屋本家」として本格的に活動を広げ2023年、66歳の時には法人化も果たした。
「実は起業するぞ!と思い立ったのではなく、建物の改修資金を借りるためでした。お借りするおうちがかなり古かったため、大改修が必要で。銀行へ融資を申し込みに行ったのですが、年齢的なことを理由に断られまして。
困り果てて、息子に相談したところ、『法人化すれば借りられるはず』と教えてくれて。そこで、思い切って株式会社にしたんです。最初にお金を借りられていたら、法人化していなかったかもしれません(笑)」
法人化を機に、料理教室に加え、糀を使った商品の製造・販売、ホームページやECサイトの運営もスタート。現在は、6人のパートスタッフと共に「泉州糀屋本家」を運営している。
「腸を整えることで、心も体も変わっていく。私自身がそれを体感しているからこそ、体調不良に悩む人には、『まずは腸から整えてみて』と伝えたいんです。昔も今も変わらず、教室で教えているのは、自分が学んできたことと体験だけ。その〝お裾分け〟みたいな感じで、来てくれる方の健康や美しさを少しでも支えられたらと思ってやっています」
かつては多くの病に苦しんだこともある北島さんだが、今は病院とは縁がなく、定期的な歯科検診に通う程度だという。「68歳の今が最も健康で、活動的なんですよ」と笑う。
「教室に使う味噌や醤油はすべて手作りなので、毎日仕込みが必要なのですが、力仕事も多いんです。原料となるお米を運んだり、重たい樽を持ち上げたり。でも、パートさん全員ひっくるめても、私が一番力持ちなんですよ(笑)。
また趣味として59歳で始めたダイビングは今も続けていますし、最近になって乗馬も始めました。今、〝人生100年時代〟とよく耳にしますが、健康寿命と本当の寿命との開きは大きくなっているように感じます。でも、私は100歳になってもダイビングも乗馬もできる自分でいたいんです。
この会社は私自身が看板であり、広告塔のようなもの。だから、食生活を大切にしていたら100歳まで元気でいられると証明したい。『100歳になっても、あのおばあさんかっこいいな』と言われるようになれたらいいですね」
33歳で夫を亡くし、50歳までは病気を繰り返しながらも、2人の子どもを育て上げるために苦労も重ねた北島さん。そして発酵食品との出会いが人生を変え、やがて起業、ついには66歳で会社を立ち上げるというライフシフトを果たした。そんな彼女に同年代で起業を目指したいという女性へ、こんなメッセージをもらった。
「50歳くらいまでなら〝勇気〟を出せば、それだけでもいけるかもしれません。でも、60代、70代になると、〝勇気〟だけじゃなく“覚悟”もいるんです。やると決めたら、もう引き返さないという覚悟。私はそのふたつを持って飛び出しました。
そして、飛び出すからには健康が大切。そのためには〝体にいいもの、腸にいいもの〟を食べるということに、意識を少しずつ向けていってみてください」
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