好きなことが導いた出会いのバトンリレー、つむいだ縁を大切にカメラマン&講師として起業
一眼レフの学び直しをきっかけに写真教室での講師業もスタート、そして会社を設立
こうして仕事の幅が広がっていくなかでふと、こいけさんは「これでいいのかな?」と考えるようになる。ありがたいことにガーデンで花の写真を撮ることが増え、仕事として成立しているが、一度きちんと勉強したほうがいいのではないか、と。
そんな時に出会ったのが写真家でありフラワーデザイナーの今道しげみさんが主宰し、女性向けの一眼レフ講座の先駆けとなるフォトスクール「LIVING PHOTO」だった。
「私は屋外の花の写真を多く撮っていたのですが、しげみ先生は室内での花の写真を教えていらっしゃる方でした。でも、一眼レフを基礎からしっかり学びたいと思い、レッスンを受けることにしたんです。
取扱説明書や自己流ではわからなかったカメラの細かな設定が、先生の説明で一気に理解できるようになりました。たぶんマニュアル本にも書いてあったことだとは思うのですが…、〝人から直接教わる〟ことでより明確に。撮影はもちろん、今まで自己流だった画像編集の技術も明らかに進化を遂げました」
レッスンでの学びを通じて、今まで手探りでやってきたことが「これで合っていたんだ」と答え合わせができたことも、大きな自信につながったという。それまでは経験のないジャンルの撮影依頼があると躊躇することもあったが、自信がついたことで「なんでもやってみよう」というチャレンジ精神も備わった。
そして、カメラのスキルが格段とアップしたことで、こいけさんに「写真を教えてほしい」という声がかかるようになる。そしてその第一声となったのは、ほかでもない『デポー39』の天沼寿子さんだったという。
さらに周囲の人のリクエストに応える形で細々とではあるがカメラ教室をスタートした矢先、今道しげみさんから「LIVING PHOTOの公認インストラクターとして仕事しないか?」という、思いがけないオファーが舞い込んだ。
「しげみ先生に師事をしつつ、先生と同じプログラムで公認インストラクターとして教室を受け持つようになりました。もともと私は幼稚園教諭から仕事人生が始まっていますし、人に何かを教えるというのは、自分の天職なのかもしれない…と感じ、ありがたく依頼を受けることにしたんです」
講師業という、もう一つの肩書きが増えたこいけさんの快進撃はその後も続く。2014年当時、珍しかったスマホカメラによるレッスンを個人で始めると、瞬く間に口コミが広がり、大手の写真教室からも講師としての依頼が入るまでに。レッスンの集客が安定したのを機に個人事業主として開業届を出し、起業する。
「正直に言うと、『起業するぞ!』という気持ちより、『収入が増えてきたから、ちゃんと開業届を出さなきゃね』と (笑)。夢や希望を掲げてスタートしたわけではなく、ニーズや周囲の要望に応えていった結果、ビジネスとして自然と形になっていったという感じです」
一眼レフを手にしてから、カメラマン、カメラのレッスン、スマホのレッスン…と仕事の柱が少しずつ増えていったこいけさん。2021年には女性クリエイター向けのコミュニティ「ODCインスタ部」を設立。これによりさらに仕事の柱が増えたことで、「株式会社Bloom Seed(ブルームシード)」として法人化する。
「『ODCインスタ部』は、教室の集客や売上アップを目指す女性クリエイターさんたちが、インスタをどのように活用すればいいかを学ぶコミュニティです。写真教室の要素も大きく含んでいて、写真のクオリティアップの指導も実施。半年をワンクールとして、動画コンテンツや毎月の定例会などを通じて、メンバーと一緒に成果を目指してがんばっています」
ポートレート撮影・商品撮影・記念日撮影・イベント記録などのカメラ業、一眼レフ写真・動画、スマホカメラの講師業、そしてコミュニティ運営。法人化して事業を構築していくうえで、新たな課題に直面することも出てきたという。
「法人化した当初は本当に手探りの状態でした。もともとやっていたことの延長線上ではあったんですが、インスタ部の活動が少しずつ広がっていく中で、『これはもう組織としてしっかりした土台が必要だ』と感じたのが、そもそもの法人化の大きなきっかけ。
でも、やはり関わる方が増えると、いろんな考え方や価値観に出会いますよね。もちろん多様性は大切なんですけど、それをひとつの方向にまとめていくのは本当に悩みましたし、試行錯誤の連続でした」
そんな時は対話を大切にしながら少しずつ信頼を積み重ねていったこいけさん。いつしか自然と〝仲間〟のようなつながりが育ち、今につながっているのだという。もちろん、ここに来るまでには多くの失敗もあり、そのたびに「こうすればよかった…」という後悔も尽きなかった。
普段は明るい性格でとおっている彼女だが、仕事のことではマイナス思考に陥ってしまうこともしばしば。そんな時、一番の支えになっているのは家族の存在だそう。
「基本、夫は仕事には一切関わっていないんですけど、私が行き詰まった時に相談すると、いつも前向きな答えを返してくれて。それがすごく救いです。
一人会社でやっていると、どうしても煮詰まってしまうこともありますが、相談できる相手がいること、家族がよき理解者でいてくれることは本当にありがたいと感じています。反省はしても、後悔はしない。私もだんだんと考え方がプラス思考になっていきました」
「Bloom Seed(ブルームシード)」という社名には、〝たくさんの種を蒔いていれば、いつか花開く瞬間が来る〟という思いが込められている。彼女自身、さまざまな人と出会い、自分が好きなことを突き詰めていったことで、人生が切り拓かれていった。それと同様に彼女に関わる人たちが「これからの人生も、より楽しく、花開いてくれたらうれしいです」と語る。
「私が大切にしている言葉のひとつに〝一期一会〟があります。仕事を始めたきっかけもそうでしたが、人生の中で、どこでどんな出会いがあるかわからないし、どこでどうつながるかもわからない。だからこそ、人との出会いやご縁をこれからも大切にしていきたいです」
そんなこいけさんにとって、ライフシフトをして一番よかったのは「自分の時間を自分で選べるようになった」ことだという。好きなこと、心地いいと思えることを仕事にでき、働き方や暮らし方を自分で選択するという人生を手に入れたのだ。「子どもからは仕事というより、毎日楽しんで、遊んでいると思われているかも」と笑う。
「カメラやインスタグラムを日常的に使うようになって、より深く写真やインスタの楽しさが分かるようになったのも大きいです。何気ない日常でも、レンズを通して見るとドラマティックに映る瞬間ってたくさんあるんですよね。そんな小さな喜びを自分自身も楽しみながら、価値観を共にする仲間がどんどん増えていくのも、また私の喜びとなっています」
これからは、〝より自分らしく、より軽やかに〟働いていくことが目標というこいけさん。事業として何か新たに増やすよりは、必要なものを見極め、今よりもっと〝楽に〟仕事を続けていけないかも思案中だ。
「たくさんの生徒さんと関わらせていただけるのはとても喜ばしいのですが、年齢とともにやはり体力的にハードに感じることも増えてきたので(笑)。でも、そう感じながらもやりたいこと、楽しそうなことがどんどんあふれてくるので、時間が足りないのが目下の悩みでもあります。時には苦しいこともあるとは思いますが、70代でも現役で仕事を続けていられたら幸せですね」
「いつ閉じてもいいし、とりあえず始めてみよう」という軽い気持ちで始めた会社だが、せっかくならさらに発展させて、長続きさせたいという意欲も見せる。そんなこいけさんに自身のライフシフトを振り返ってもらうと共に、これからライフシフトをしたいという女性に向けてエールをもらった。
「まさかカメラマンや会社の社長になるなんて想像すらしていなかったのに、こんなことになっています(笑)。なにかに向けてすごく努力をしてきたという感覚はないのですが、やってみたいと思ったことには一歩踏み出し、その時々で直面したことには意外と努力していたのかもしれません。
以前は、周囲から褒められても『いやいや、私なんて…』と反射的に口にしていましが、最近は少しずつ、『私もがんばってきたんだな』『自分の選択は間違っていなかったな』と素直に思えるようになってきました。
すごく大きなことを成し遂げたわけではなくても、目の前のことを丁寧に積み重ねてきた時間が、私の実績になり、軌跡になっています。だから、今はいただいた言葉をまっすぐに受け取って、『ありがとうございます』と言えるようになったのではないでしょうか。
だから、みなさんももし今、なにか迷っているなら、まずはやってみることが大切かなと思います。目指すことがまだ明確でなくても、自分が動き出せば必ず人生も動き出していくはずです。ぜひ勇気を出して一歩踏み出してみてください」
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