好きなことが導いた出会いのバトンリレー、つむいだ縁を大切にカメラマン&講師として起業
優しく温かな目線で、一瞬を丁寧に切り取るカメラマンのこいけさとみさん。家族写真やプロフィール写真などの出張撮影から企業の商品撮影まで手掛けるほか、女性向けの写真教室「おうちdeカメラ」なども主宰。それらクリエイティブ活動の拠点として設立した「株式会社Bloom Seed(ブルームシード)」の代表でもある。そんな彼女がカメラを手にしたのは、子どもの成長記録を撮影したかったというのがもともとの理由。そこから縁が次の縁へとバトンをつなぐように広がり、いつしか人気カメラマンに。「自分が好きなことを追い続けていたら、自然と人生が切り拓かれた」という、こいけさんのライフシフトの軌跡を追う。
すべての画像を見る場合はこちら子どもを撮影するために始めたカメラが評判を呼び、仕事として成立するまでに
現在はカメラマンとして活躍しているこいけさとみさんだが、短大卒業後に進んだのは幼稚園教諭という道だった。
「子どものころからの夢だったんです。小学1年生から始めたピアノの影響で一時は、音楽の先生もいいなと思ったこともありましたが、最終的には〝音楽が好き〟〝小さな子どもが好き〟という気持ちを活かせる仕事として、幼稚園教諭の資格が取得できる短大へ進学しました」
幼稚園教諭として3年間、年少クラスの担任を務め、子どもたちの成長を間近で見守る日々。大きなやりがいを感じる一方で、短大時代にふと芽生えたマスコミ業界への憧れも消えずに残り続けていた。
「仕事自体はとても楽しかったです。ただ、勤務先は田舎で、16時に仕事が終わっても寄り道する場所もない。アフターファイブを楽しむなど、もう少し刺激的な日々も過ごしてみたいなと(笑)。また給与面でももう少し先を目指したいという思いもあり…学生時代から心の片隅にあったマスコミ業界に挑戦してみようと」
最初に受け持った園児たちが卒園するタイミングで、転職を決意したこいけさん。新聞の小さな求人広告で見つけた広告代理店に応募し、運よく即採用される。学生時代の先輩が広告業界で働いていたことから、その華やかな世界にあこがれての転職だったが、配属されたのは希望する営業職ではなく経理部だった。
経理はまったくの未経験だったが、業務をとおしてスキルを身に付けていったという。また、小規模な代理店だったこともあり、他部署の動きを間近に見ることができたため、広告代理店の仕事の全体像を知ることができたという。
「元幼稚園教諭という経歴を買われ、同社が広告を担当していたアニメや子ども向け玩具のイベントに駆り出されたことも。子どもたちにダンスを教えたり、着ぐるみに入ったりと、ちょっと思いがけないような現場経験もできました(笑)」
28歳で結婚を機に代理店を退職、その後は夫の転勤に伴って各地を転々とする生活が始まる。その間は定職につくことはなく、パティスリーやイタリアンレストランでのアルバイト、派遣社員としてメーカー勤務など、さまざまな仕事に携わった。そして、32歳で長女を出産したことで、こいけさんの人生を変える扉が開きはじめる。
「もともと写真を撮るのは好きだったのですが、コンパクトカメラではなく、もっとすてきに子供の成長を残したいと思うようになって。長女が幼稚園に入園してしばらくしたころに一眼レフを購入。そこからはひたすら撮って、失敗して、また撮って…の繰り返し。単発のフォトレッスンにも参加しましたが、内容が分かりづらくて落胆して帰ったことも。結局、独学でコツコツ学ぶことにしました」
当時、自身が親子で参加していた子育てサークルから派生して、親子リトミック(音楽教育)サークルを主宰するようになったこいけさん。幼稚園教諭としての経験を活かした内容が評判を呼び、メンバーも順調に増えていった。
「親子で一緒に過ごす時間の中で、お子さんはもちろん、ママたちが本当に素敵な笑顔が印象的で。その瞬間を残してあげたいと思うようになって、サークルの親子を撮影するようになりました」
年末には撮影した親子写真を貼り出すなど、そんな活動を数年にわたって続ける中で、周囲では〝写真がちょっと上手な人〟という認知が広がっていく。そこから自然と、「私も撮ってほしい」と頼まれるように。
また、こいけさんが日常の記録として、趣味のお菓子作りやおうちカフェを楽しむ様子、子どもの写真などをアップしていたブログも、撮影の依頼が舞い込むきっかけとなった。
「七五三の撮影をお願いされたり、カフェの写真を撮ってほしいと言われたり、ハンドメイド作家としているママ友さんから作品の撮影依頼をいただいたり。最初は趣味の延長でしたが、次第に『無料では申し訳ない』と言われることも増えていき。プロカメラマンと名乗るにはまだ遠いと感じつつも、少しずつ仕事として成立していくようになりました」
そんな中、こいけさんにとって大きな転機となる出会いが訪れる。長年、雑貨やインテリアなどカントリースタイルが大好きだった彼女が、ずっとあこがれていたハンドメイド・ドール作家の毛塚千代さんとの縁がつながったのだ。
「毛塚さんのブログは長年拝見していて。そしてあとで知ったのですが、その娘さんが実は、私の長女が通う幼稚園のママ友だったんです。そこからご縁をいただいて、毛塚さんの個展を訪れた際、さらに偶然が重なりました。
カントリーアンティーク界のプロデューサー『デポー39』の天沼寿子さんにお会いすることができたんです。うれしさと緊張でドキドキしながらも会話を交わすことができ、さらに一緒に記念撮影まですることができました」
撮影した写真をこいけさんは後日、天沼さんへ送信。すると、カメラマンとしてのキャリアをさらにステップアップさせる出来事が起こる。「ホームページのネットショップ用の写真を撮ってみませんか?」と、天沼さんから依頼が入ったのだ。
「今、思えば本当に大したことない写真だったはずなのですが、天沼さんが気に入ってくださって。そんな大役…私にお声がけをいただけるなんて思ってもいませんでした。自分で務まるのかと戸惑いもありましたが、それ以上にうれしくて…。そしてせっかくのご縁を断るなんて到底できるはずもなく、ありがたくお受けしました」
商品撮影はその後も継続し、さらに天沼さんから縁がつながり、新たな撮影依頼も入るように。こうしてこいけさんのカメラマンとしての世界が少しずつ大きく広がっていった。
「2009年の春、天沼さんが茨城県にある『B.Blue Gray』というガーデンのイベントに参加されると聞き、私も家族と一緒に参加。〝笠間の秘密の花園〟とも呼ばれるそのガーデンが本当に美しくてすっかり魅了されてしまい、心が動くままにシャッターを切り続けました」
帰宅後、その写真の数々をフォトブックにまとめ、プレゼントしたところ「B.Blue Gray」のオーナーはとても喜んでくれたという。
「それから季節ごとに写真撮影を依頼され、カレンダーやフォトブックの制作もお任せいただきました。さらにこちらのガーデンが雑誌に掲載されることが決まった際も、出版社からぜひとのことで、撮影を担当させていただけることに。ここでもご縁がまた新たなご縁につながっていきました」
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