生成AI時代に必要なのは「情熱駆動開発」
経営学者であるテレサ・アマビールの定義によると、創造性の構成要素には、「創造的思考」「専門知識」「内発的動機」がある。内発的動機とは、興味や好奇心、達成感など、内在的な動機を指す。「私の経験では、すべてを内発的動機に結びつけることができる。ただし、取り組んでいることに価値があるという前提が必要」と及川氏。
及川氏が語るのは、Microsoft時代のエピソードだ。最初はWindows XPを担当していたが、その後、POS端末などに搭載される組み込みWindowsの担当に異動となり、気持ちが沈んだという。しかし、汎用OSと異なり、独自のチャレンジもある組み込みOSの世界に次第にのめり込んでいく。さまざまな端末を触り、Windowsが導入されていない店舗を家族と“偵察”することもあった。「まるで、プロダクトを作り上げたメンバーのように、やりがいを感じるようになった。これが(セッションタイトルにもある)情熱駆動開発」と及川氏。
また、別の例として「Googleニュース」を紹介した。同サービスは、9・11米国同時多発テロの際、ニュースがすぐ検索できなかった体験から、同社の20%プロジェクトとしてスタートしている。
さまざまな日本企業を支援する中で、及川氏は日本企業にも優秀な人材は多くいると感じるという。ただし、「『なぜ自分がそれをやるのか』、極端に言えば『なぜ、貴重な命の時間を費やしてまで取り組む価値があるか』を語れる人が少ない」と指摘する。
そうした情熱を持つ人の比率が高いのは、イグジットまでに時間がかかればリスクが高まるスタートアップ企業だという。そのため、日本では、スタートアップから面白いサービスが出てくるケースが多くなる。「明らかにリソースが多いのに大企業が勝てない理由は、オーナーシップ、モチベーション、そして“パッション”にある」(及川氏)
この情熱にはさまざまなベクトルがあり、「この技術が好き」「顧客の課題を解決したい」「原体験を追求したい」「豊かな未来を創りたい」「金儲けをしたい」、どの理由であっても問題ないという。及川氏は、「本気で取り組むということをみんなが体験すれば、素晴らしい組織やプロダクトが生まれる」と強調した。
そして、AIが支援するのは意思のある人である。意思や情熱を欠いた人は、主体性を失い、AIに依存しかねない。「AIを活用することは必要だが、AIに使われてしまってはいけない。自分たちの意思と情熱を持ち、主体的に方向性を定めることを、忘れないようにして欲しい」と呼びかけ、セッションを締めくくった。










