運営企業は「儲けようとしていない」
World IDは、Worldcoinという暗号通貨とも関係している。そこにも、このプロジェクトの“非営利的”な思想が見て取れる。
吉川「Worldプロジェクトは、『Worldcoin』という仮想通貨の仕組みを含んでいるのも独特です」
牧野「Worldcoinは、World IDと同じく、Worldプロジェクトの中に含まれるひとつの要素という感じですね」
吉川「会社の収益とも関係しているのでしょうか?」
牧野「発行されるコインのうち、財団が投資家や運営企業であるTools for Humanityに保有するのは25%のみ。残りの大部分である75%はこのWorldプロジェクトの普及に協力してくれるユーザーやパートナーに分配される構想です。私たちは“稼ぐため”ではなく、“信頼の基盤を広めるため”に活動しているんです」
吉川「Tools for Humanityが会社として存続していくための、最低限の収益は必要ですよね?」
牧野「そこは25%のコインで賄いますが、Tools for HumanityはこのWorldプロジェクトを推進するために設立された企業なので、World IDが世界に広まったらとりあえず、会社の役割は終わります。World IDの認証に必要なOrbのハードウェア、ソフトウェアともに、オープンソースにしていてGithubに公開していますので、以降は、プロジェクトそのものがWeb3的な仕組みで存続していけばいいという構想です。私自身も『自分の所属する会社がなくなる未来に向かって活動している』という、ちょっと変わった立場なんですよ(笑)」
インターネット上の発言が本当に「誰か」の言葉なのか、私たちはかつてほど簡単には見極められなくなってきた。だからこそ、オンラインで「人であること」を証明する仕組みは、単なる技術ではなく、信頼の再構築を目指す社会的な試みとも言えるだろう。
World IDが目指す未来は、言い換えれば「信頼された匿名性」を育てることに他ならない。その挑戦がどのように私たちの暮らしに浸透していくのか──いま、その一歩が踏み出されている。










