このページの本文へ

何もない空中に触って「感じる」 SFみたいな新技術「空中触感」NTTが発表

2025年05月14日 08時00分更新

文● サクラダ 編集●飯島恵里子/ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

デバイスの装着なしに超音波で空中にリアルな触感を創出

 日本電信電話株式会社(以降、NTT)は5月13日、何もない空中に超音波を使ってリアルな触り心地を創り出す画期的な新技術を発表した。この技術により、特別なデバイスを装着することなく、つるつるした感触やざらざらした感触など、多彩な触感を体験できるようになるという。

デバイス不要、超音波で空中にリアルな触感を創出

 NTTが開発した新技術は、超音波を皮膚の一点に集中させることで生じる力の感覚に、特定の周波数の振動を加えるというものだ。これまでも超音波を用いた触覚技術は存在したが、感じられる力が弱く、単調な感覚しか提示できないという課題があった。今回の研究では、超音波に「動き」の要素、具体的には超音波の焦点を皮膚上で回転させるという手法を加えることで、感じられる力を大幅に増強できることを世界で初めて発見した。これにより、ユーザーに負担をかけることなく、より強く、よりリアルな触感を空中に作り出すことが可能になる。この成果の一部は、東京大学との共同研究によるものだ。

非接触に力強く多彩な触り心地を生み出す超音波技術を考案

 NTTコミュニケーション科学基礎研究所では、以前から人間の視覚や触覚の仕組みを解明し、その知見を基にした高品質な感覚体験の実現に取り組んできた。XR(クロスリアリティ)体験の没入感を高めたり、離れた場所にいる人とのふれあいを実現したりするためには、触覚を伝える技術が不可欠だが、従来は重たいデバイスの装着が必要だった。超音波による非接触の触覚提示は、この課題を解決する手法として注目されていたが、力の弱さと触感のバリエーションの少なさが実用化への壁となっていた。今回の新技術は、この2つの大きな課題を解決するものとして期待される。

本研究では、5Hzの皮膚振動と5Hzの回転そのもののどちらが主要因なのかを調査

 具体的には、2つの主要な成果がある。1つ目は、超音波によって感じられる力を強める決定的な要因が、「超音波焦点の5Hz(ヘルツ)の回転」であると特定したことだ。一般的に、超音波の焦点に人が触れて感じる力は、最大でも0.01N(0.01Nは1円玉1枚=約1gの重さに相当)程度と非常に弱かった。しかし、この焦点を皮膚の上で毎秒5回の速さで回転させると、感じられる力は約20倍にも増強されるという。これまでの研究では、なぜ回転させると力が強まるのかその具体的な要因は不明だったが、今回、回転そのものが力を強める主要因であることを突き止めた。

(A)実験に用いた超音波刺激。(B)実験の結果

 2つ目の成果は、この強い力の感覚を利用して、多彩な触感を生み出す「超音波触感シンセサイザ」を考案したことだ。私たちは普段、皮膚に加わる様々な周波数の振動を統合することで、触れたものの感触を認識している。この仕組みに着目し、触覚受容器が敏感に反応する5Hz、30Hz、200Hzという複数の周波数の超音波刺激を自在に合成。これにより、何もない空中に、まるで物に触れているかのようなしっかりとした力触感に加え、物体の表面を撫でたときに指に伝わる振動を再現し、「つるつる」「さらさら」「ざらざら」といった多様な粗さ感を自在に調整できるようになった。

成果2で考案した触感シンセサイザ

 この革新的な技術は、触覚分野の国際会議「Eurohaptics conference 2024」で発表され、最優秀論文賞および最優秀デモンストレーション賞にノミネートされるなど、国際的にも高く評価されている。また、5月20日から開催されるNTTコミュニケーション科学基礎研究所の「オープンハウス2025」でも展示される予定だ。

 NTTは今後、この技術をさらに発展させ、デバイスを身に着けることなくリアルな触感を再現できる触覚インターフェースや、遠隔地からのソーシャルタッチ、XR空間でのふれあい体験といった触覚コンテンツの実現を目指すとしている。将来的には、人が様々な物体に感じる触感の忠実な再現や、触覚の仕組み、さらには人間の脳が触感をどのように知覚するかの解明にも取り組み、XRにおける世界初の触体験の実現に貢献していく考えだ。

■関連サイト

カテゴリートップへ

ピックアップ