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ほかにないなら自分で作るしかない!会社員からの起業で女子キャンプブームの立役者に

文●杉山幸恵

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コンサルから貿易、バンド活動まで⁉多彩な事業を展開する中で大事なのは〝広報力〟

 現在、「キャンプ女子株式会社」の事業は、キャンプ場の新規開発・リニューアル支援といったコンサルティングから、キャンプ・アウトドアイベントの企画・運営、インバウンド向けキャンパーバンレンタルサービスに加え、〝キャンジョバンド〟としてのアーティスト活動まで多岐にわたる。

 「よく『どれが主軸?』と聞かれますが、すべて全力で取り組んでおり、どれもメイン事業という気持ちで展開しています。その中でも日本では珍しいのは、〝キャンプ場コンサルタント〟という事業でしょうか。キャンプインフルエンサーとしての発信力と、福岡市内初のグランピング場を経営した経験を活かし、企業・自治体と協力して全国のキャンプ場作りに携わっています。設計からHP制作、SNS集客、写真撮影まで一貫して対応できるため、スピーディーで効果的なコンサルティングが可能です」

「キャンプ女子株式会社」のプライベートキャンプ場で、草刈りをしている様子

 さらに2024年からは「WAGYUNINJA」と銘打った国際貿易事業もスタート。キャンプ場コンサルで日本各地を訪れる中で、質の高い食品や民芸品が適正な価格で流通していない現状を目の当たりにした経験に端を発したそうだ。

 「出向いた先の道の駅では、オーガニック野菜やそれらを使った完全無添加の加工品、民芸品が破格で売られています。さらに生産者さんから『人手不足で困っている』『近々廃業する』など、その裏側を知らされることも少なくありません。

 そこで、適正価格で販売し、生産者に利益を還元する仕組みを考えた結果、〝日本のいいものを海外に広める〟貿易事業に行き着きました。大手商社のように大規模な事業はできませんが、ハイクオリティなMADE IN JAPANを NINJAのように世界に届けるというコンセプトで、ラスベガスの展示会に出展するなど、積極的に海外市場を開拓しています」

2024年、WAGYUNINJAとしてラスベガスの食品展示会へ出展。和牛を中心とした日本の食文化を海外へ輸出すべくPRし

 多彩な事業を展開する中で、橋本さんが最も力を入れるべきとしているのは〝広報〟という仕事だ。いいアイデアを持っておもしろい事業を行ったとしても、「知られなければ意味がない」からだという。

 「起業後から毎月1本は必ずPR TIMESでプレスリリースを発信しているほか、社長としてのブランディングを目的とし、個人SNSも活用しています。そのため起業して半年から、セミナー登壇の機会が増えました。アウトドア関連だけでなく、女性起業家向け広報セミナーや大学・高校でのキャリア教育講演で登壇。また、2022年にPR TIMES認定のプレスリリースエバンジェリストとなったため、広報関連の講師としての活動も増えています」

プレスリリースエバンジェリストに認定されてからは、毎月のように九州のどこかで広報やPRのセミナーに登壇

橋本さんが毎月1回開催している福岡広報勉強会。現在のメンバーは70人

 爆発的なアウトドアブームを経て、今ではキャンプ文化を牽引する存在となったキャンプ女子株式会社。ここまで事業を構築していく中で、試練が訪れたのも、好機が訪れたのもいずれもコロナ禍での出来事だった。

 「当時、経営していた福岡市の『油山グランピング』は、毎週末予約が満席で、アルバイトスタッフも15人ほど抱えるなど大盛況でした。ところが、2020年3月に福岡県で初めての緊急事態宣言が発令され、市の施設であったグランピング場も閉園を余儀なくされ…」

 前金制だったため、GWまでの予約分を全額返金することになり、橋本さんは目の前から資金が消えていく恐怖と不安に直面。何をすればいいのか分からず、悩み続ける日々が続いた。

 「そんな中、あるお客様から『やっと予約が取れて楽しみにしていました』というメールが。その瞬間、自分のことばかり考えていたことに気づき、楽しみにしていたお客様に対する配慮が欠けていたと反省。そして、キャンプ女子という大きなInstagramのコミュニティを持つ自分たちが、同じ境遇にある全国のキャンプ場のために何かできないか考え始めました」

 そこで生まれたのが〝おうちキャンプ〟のアイデアだった。外出ができなくても、自宅でキャンプ飯を作り、ベランダにテントを張り、寝袋で寝ることでキャンプ気分を楽しむという取り組みをSNSで発信。さらに、コロナが明けたら行きたいキャンプ場をSNSで応援する動きも加え、「#今はおうちでキャンプしよう」というハッシュタグを広めていった。

 「この取り組みは多くの方に賛同され、テレビ局からは〝おうちキャンプ〟〝ベランピング〟についての取材も。これを機に積水ハウスで〝おうちキャンプの先生〟として講師を3年間務めたほか、ジーズアカデミーの運営会社・デジタルハリウッドのアワードでキャンプブームを牽引した一人として表彰されました。コロナ禍という困難の中で、人を思い、人を助けることの大切さなど、多くのことを学べたと実感しています」

 コロナ禍の試練を転機に変えた橋本さんにとっては、事業においても人生においても経験がすべて。失敗も何もかもひっくるめて無駄なことは何もないと語る。

 「私にとって、人生において失敗はなく、すべてが経験です。やってみて後悔したことも、失敗だと思った事業もありません。例えば、当初は対面でキャンプ道具を手渡しするレンタルサービスを行っていました。しかし、運営が難しく、ニーズも限定的だったため、早い段階で無人受け取りサービスにスイッチ。この決断が功を奏し、コロナ禍では無人サービスとして注目を集め、多くのメディアに取り上げられました」

 さらに、「うまくいかないことは早めに見極め、変化するか撤退するかを判断することが重要」と言葉を続ける。その決断のタイミングは経験とセンスによるものだが、彼女はそれを〝失敗〟とは捉えず、成長のための経験と考えているそうだ。

 そんな橋本さんが仕事をしていく中で最も大切にしているのは「人の役に立つこと」。自分たちのやりたいことを前面に出すのではなく、人が求めるもの、気づいていない課題を見つけ、それを解決することを軸にしている。そしてこれからもこの考えを貫いていきたいという。

 「私は頻繁に車を運転し、自転車に乗り、飛行機にも乗ります。常にリスクと隣り合わせですが、それでも生かされている命に感謝しない日はありません。また、この先、大規模な災害など私たちが予想もしない出来事が起こる可能性も大きいです。そのために常に備えをするだけでなく、日々徳を積むこと、毎日を一生懸命に生きることを大切にしています。10年後も、今よりもっと楽しく、より多くの人の役に立てる自分であるよう、キャンプ女子株式会社としても成長し続けていきたいと思っています」

「キャンピングカーとレトロなテントが好きです」と、今もプライベートでキャンプを楽しんでいる

 美容業界の営業職からキャンプ関連会社の代表と、まったく違う仕事への転換を果たした橋本さん。「ライフシフトをしてよかったことは?」という問いに、「いいも悪いもすべての責任が自分に返ってくること」と答える。

 「責任を取ることに喜びを感じるようになりました。一人前になったんだなぁと。この意識を持つことで、自分の人生も一日も、好きに選ぶことができます。好きな場所で、好きな人と、好きな仕事をする。そしてその仕事が、自分の得意なこと、好きなことであり、それを通じて人の役に立てる、社会に貢献できる。このことに一番の幸せを感じます。

 かつて会社員だったのでなおさらかもしれません。そして、割と大きな会社だったので、その看板がなくなった今は、すべて自分で勝負が必要に。そのために私は自己投資も惜しまないです。自分の能力を上げる、学び続けることで、私たちが提供する仕事の価値も上がる、そう信じています」

 会社設立から今年で7年目を迎える今も常に学ぶことに貪欲で、自分磨きに余念がない橋本さん。会社員を辞めることも起業することも迷いがなかったという彼女に敢えて、こんな質問をぶつけてみた。ライフシフトをしたいけど、最後の一歩を踏みだせない場合はどうすればいいのか、と。

 「もし『やりたいことがあるのに、なかなか前に進めない』と感じるなら、一度じっくり自分自身と向き合ってみてください。ライフシフトはこれまでとは違う新たな経験になるため、負担が大きくなることもあります。例えば、『自分の時間を確保したくて起業したのに、思った以上に忙しくなってしまった』という話もよく耳にします。

 どんなことでも、最初は大変なことが多いものです。起業や独立というライフシフトの先には、自分で選択できる自由や、楽しいことがたくさん待っていますが、その分すべての責任を自分で負う覚悟も必要に。そのリスクを背負ってでも、今までのキャリアを手放し、新たな道を選びたいのか?まずは自分に問いかけてみてください。

 誰かに相談しても、実はもう自分の中では答えが決まっていることが多く、ただ、その答えを後押ししてくれる人に出会うまで、つい相談し続けてしまうこともありますよね(笑)。なぜなら、答えはいつも自分の中にあるから。

 もし最後の一歩が踏み出せないなら、それはまだその時ではないというサインなのかも。逆に、『エイッ!』と勢いよく踏み出せるなら、それがライフシフトのタイミングかもしれません。自分にとって理想の状態を思い描けるなら、その夢はきっとかないます。もし迷った時は、より具体的に未来をイメージし、そのビジョンがはっきりと見える方向へ進んでみてください」

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