第19回 and SORACOM
相模原の町工場が作ったIoT電流計に大手が熱視線を注ぐ理由とは?
「ついカッとなって作った」 補助金騒動から生まれたポータブル通信電流計ENIMAS 製造業から外食チェーンまで魅了
提供: ソラコム
相模原の町工場が作ったクラウド対応の電流計「ENIMAS」。クランプセンサーで電線を挟み込むだけで電力を測定し、クラウドで見える化できる。脱炭素や省エネを進める製造業のみならず、外食チェーンでは電気の使い方からオペレーションの改善に活かしている。開発元であるエニマスの二関 智司氏に、ENIMASの開発秘話やユーザー事例、そして通信とセキュリティを支えるSORACOMについて聞いた。
クランプセンサーで簡単に電力測定 クラウドへの送信にソラコム
ENIMASはクラウド対応の電流計。本体と端子部分がフラットケーブルでつながるセパレート構造になっており、端子部分は工場の機械に給電する分電盤の中に格納され、「クランプセンサー」が計測した電力を受け取る。既存の電流計との差別化ポイントは、このクランプセンサーだ。電線を切断し、回路と接続することで電力を測るテスターと異なり、クランプセンサーは電線を挟み込むだけで電力を測定できる。
開発元であるエニマスの二関智司氏は、「クランプで電線を挟み込むだけなので、自宅で使うことだって可能です。娘が朝シャンでドライヤー15分も使っていて、その間どれくらい電力使っているかを測ることだって可能なんですよ」と笑う。最新モデルでは、最大8チャンネル同時に電力を計測できるため、工場にあるさまざまな機械の電力使用量を同時に計測できる。
もう1つの大きな特徴は通信機能を有している点。従来の電流計は、測定データがメモリカードに保存されていたため、データをいちいち取り出して、自分たちで加工しなければならなかった。これに対して、ENIMASは1分間隔でデータをクラウドにアップロードできる。「電力データの収集に人手が要らなくなるんです」と二関氏は語る。
他の電流計とENIMASの差別化を生み出しているこの通信は、プロトタイプの時点からソラコムの「SORACOM Air」を利用している。また、セキュアな通信を実現するためにSORACOM Beamも導入しており、デバイスの認証とセキュアなプロトコルへの変換を実現している。「デバイスごとにセキュリティを実装しようとするとソフトウェアがとても複雑になってしまいます。その点、SORACOMを使えば、セキュリティを意識しないで済むのが楽ですね」(二関氏)。
SORACOMのコンソールも常用しており、ユーザーに納品したらSIMをアクティブにしたり、通信状態が悪いときは再起動させるといった操作も行なっている。「毎日、ソラコムのユーザーコンソールにログインしています」と二関氏は語る。
電力を見える化し、省エネアクションにつなげるサービス
ENIMASは単なる電流計ではなく、電力の見える化を提供する「サービス」だ。収集した電力データは、クラウドサービスの「ENIMAS」上で見える化され、スマホのブラウザから確認できる。アプリをダウンロードせず、機械に貼られたQRコードを読めば、グラフを閲覧できるので手軽。「大手企業だとアプリがセキュリティチェックに引っかかりますが、これなら大丈夫。現場の担当者が目の前にある機械がどれだけの電力を使っているかすぐに確認できます」(二関氏)。
確認できるのは、デバイスが登録された住所の外気温、ENIMASのセンサーで感知した室内温度、クランプセンサーが検知した機械の消費電力だ。外気温と内気温を計測するのは、電力利用量が空調と連動するからだ。加えて、現在の消費電力から予測した今後の消費電力、電気代、排出炭素量まで算出される。
さらに「ENIMAS PRO」というオプションサービスを用いると、工場全体のデータを統合的に見える化することが可能だ。複数チャンネルの計測データを統合的に集計し、照明、工作機械、空調という3つのカテゴリで分類できるため、会社全体の電力利用量やコストを把握できる。
「電力会社の明細見ても、1ヶ月いくらしか出てきません。土日に動かしていない機械でも、電源を入れっぱなしにしたら、電気代がかかっています。もったいないという感情につながります」(二関氏)。なにが電力を消費しているのかがわかれば、あとは具体的な節電アクションにつなげられる。「動かしていない工作機械の待機電力を見て、これって電力を入れておかなければならないかの議論が社内で始まります」(二関氏)。
誕生のきっかけは補助金の返還要請
開発したエニマスは神奈川県相模原市に本社を置くコバヤシ精密工業の子会社にあたる。コバヤシ精密工業は金属加工を手がける製造業で、ロボットのセンサーなどを手がけている。
ことの発端は、金属加工を手がけるコバヤシ精密工業が、相模原市の省エネ補助金を利用すべく、工場内の照明のLED化を進めた7年前にさかのぼる。「その年はたまたま業績がよかったので、機械を2台購入したんです。そうしたら電気代がすごく上がってしまった。でも、機械の電力を個別に測る装置が当時はあまりなく、補助金申請に必要な電力利用量の証明ができなかったんです」と二関氏は説明する。
この結果、「計画と違う」という理由で、相模原市からは補助金の返還を要請されてしまった。この話をコバヤシ精密工業の小林社長が市内の社長友達に話し、「きちんと電力を測って、市をギャフンと言わせたい!」と持ちかけたところ、5社で作ったのが、ENIMASのプロトタイプ。「補助金返せ」という依頼に対して、「ついカッとなって」作ってしまったのがENIMASなのだ。
実は相模原市は製造業の集積地域で、半導体、ロボット、通信、機械加工など尖った技術を持つ多くの工場がひしめいている。こうした技術力のあるメーカーが得意分野を活かしたことで、ENIMASの原型はたった1年で完成した。プロトタイプは社内で利用してきたが、そのときに追い風となったのが当時の菅義偉政権の「カーボンニュートラル」のかけ声。「これは外販したら売れるのでは?」(二関氏)ということで、製品化に進んだわけだ。
ただ、コバヤシ精密工業がプロトタイプから製品版の完成に至るまでは5年の時間を費やした。そして、完成品が名古屋の展示会に初出展されたときに、子会社のエニマスを設立すべく、招へいされたのが今回取材した二関氏。「こんな製品を作っていたこと自体、知らなかった。『お披露目を名古屋でやるから』と誘われていったら、もう手伝うことになっていて、名刺までできていました(笑)。でも、説明聞いた段階で、『これは売れるな』と思いました」と二関氏は振り返る。
実際、出展ブースには朝からひっきりなしに人が訪れ、朝に説明を聞いていた立場だった二関氏もさっそく説明に立っていたという。「製品が披露された2年前は、ちょうど脱炭素の取り組みが本格化した頃。みなさんどうやってクランプセンサーで電力をとるか、人を介在させないで節電と脱炭素を実現するか、共通の悩みを抱えていました」と二関氏は語る。こうしたニーズにきっちりはまったのがENIMASで、多くの製造現場のニーズを捉えていたという。
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