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愛犬との出会いが導いた明るい未来。引きこもりを経てペット専用WEBメディアを開設

文●杉山幸恵

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「ペットの存在で救われる人を、幸せにしたい!」という思いから起業を決意

 「全国の飼い主さんが発信している情報を集約して発信すれば、もっと多くの人の役に立つのでは?」。これこそが自分のやるべきことだと確信した小西さんは、2019年に全国のペット可のおでかけ情報を発信するメディア「おでかけわんこ部」を個人事業として立ち上げる。

 「情報の〝点〟と〝点〟をつないで、飼い主さんにワクワクするおでかけ体験を届けていきたいなと。私がきなこと出会い、救われたように、きっと世の中には、ペットとの暮らしを通じて心が癒やされる人がたくさんいる。そんな人たちのために、私にできることを形にしたいと思ったんです。正直、数年前までは自分がメディアを立ち上げるなんて想定外でしたが、さまざまな経験を積む中で自然と〝起業〟という選択肢が目の前に。もちろん不安も迷いもありましたが、それ以上に『人生の第二幕が始まるんだ!』というワクワク感が勝りました」

 愛犬とのおでかけに特化したポータルサイトである「おでかけわんこ部」は、飼い主からのリアルな情報をコンテンツ化。そのためコミュニティサイトとしての役割も備わっている。当時、愛犬とのおでかけ情報を専門に扱うメディア自体が少なかったこともあり、ユーザーは順調に増加していった。

「現在、月間平均50万人の飼い主さんに見ていただいております」と小西さん

「おでかけわんこ部」ではペット可の施設の紹介に加え、実際に足を運んだ飼い主によるレポートが写真と共に掲載されている

 そして、2020年7月には「株式会社tent tent」として法人化。世の中に新型コロナウィルス感染症が蔓延し、緊急事態宣言が発出されたタイミングであったが、逆にこのことが「おでかけわんこ部」にとって追い風となった。

 「外出自粛が求められる中で、〝おでかけ〟を扱うメディアを運営することは、本当にいいのだろうか? そんな迷いが何度も頭をよぎり、発信を続けていいのか否かと、立ち止まりそうになったことも…。でも、『こんな時だからこそ、ワクワクする情報がほしい!』という飼い主さんの声に強く背中を押されました」

「tent tent」という社名も、〝点〟と〝点〟をつなぐという思いから生まれた

 さらに、コロナ禍でインバウンド需要が減少したことをきっかけに、ペットツーリズムが注目され、観光業界がペット連れ旅行者に目を向け始めた。2022年以降、ペットフレンドリープランが急増し、「星野リゾート」をはじめ多くの施設が対応。需要の高まりと共に「おでかけわんこ部」もペットツーリズムの最前線へと成長していった。

 近年では、宿泊施設や商業施設、飲食店、観光地に向けたコンサルティングも展開し、ペット共生の環境整備を支援。JR東日本の「わんだフルTRAIN」や神戸観光局とのペットツーリズム企画「ペットと旅するKOBE」などの協業も行っている。

愛犬と一緒にケージレスで乗れる特別列車「わんだフルTRAIN」の企画に協力

ペットツーリズムをエリアで盛り上げる「ペットと旅するKOBE」

 さらに事業を拡大させていくうえで、「おでかけわんこ部」がペット業界だけでなく、社会全体でどう評価されるのかを確かめるべく、いくつかのビジネスプラン発表会に登壇。その経験を通じ、ペットを飼っている人だけでなく、飼っていない人や動物が苦手な人の視点も考慮し、社会全体での共生を目指す視点が必要だと気づく。この考え方が、「おでかけわんこ部」を単なる情報発信メディアから、ペットツーリズムやマナー啓発、社会の仕組みを変える取り組みへと発展させる原動力となった。

関西女性起業家ビジネスプラン発表会「LED関西」では、ファイナリスト10名のうちの一人として登壇

「飼い主さんのマナーや意識のアップデートについても大事にしています」と小西さん。カフェでマナーイベントを開催しているほか(写真)、日々発信するおでかけ情報には必ずマナーや同伴条件を記載している

 「『おでかけわんこ部がきっかけで世界が広がった』。そんな飼い主さんの声を直接聞ける瞬間が、何よりの幸せです」と微笑む小西さん。ライフステージの変化の過程で、社会とのつながりを見失いかけたが、自分らしい働き方を築くうちに、幸せの形は一つではないのだと実感したという。

 「結婚、出産、キャリアなど、女性には人生の中で大きな選択を迫られるタイミングが何度もあります。でも、社会の価値観に縛られず、自分のペースで人生を歩んでいい。好きなことを仕事にすることも、家族を大切にしながら働くことも、自分が納得できる形を選べばいい。ライフシフトをしたことで、〝女性としての生き方にはもっと多様な選択肢がある〟ということに気づけたし、私自身がその選択肢を広げていく側になりたいと思うようになりました」

 また、この起業というライフシフトで得られた最大のものはなにかとたずねてみると「仲間です」という答えが返ってきた。飼い主同士によるコミュニティや協力事業者に自治体、同じ志しを持つスタッフと出会い、一緒に挑戦できる環境が生まれたことに大きな喜びを感じているという。そして、「私にとってライフシフトとは、決して〝一度きりの大きな転機〟ではなく、人生の中で何度も柔軟に形を変えながら続いていくもの」だと言葉を続ける。

 「今の私にとって次のステップは〝ペットと暮らすことで人生が豊かになる仕組みづくり〟への挑戦です。先ほどもお話ししたペットツーリズムの推進や、ペット共生を前提とした街づくり、飼い主の学びの場の提供など、情報発信を超えた取り組みをさらに進められたらと。また、現在の媒体に加えてアプリ版を開発することで、日本最大のペットフレンドリー情報プラットフォームを目指し、飼い主さんと事業者、自治体をつなぐハブとなることを目標としています」

「ペットの存在で救われる人を幸せにしたいという」という思いが、小西さんにとっての事業の軸となっているそう

 「ゆくゆくは出身地である滋賀県にペットOKのカフェを開くという、個人的な夢もあります」と笑顔で語る小西さん。インタビューの最後に、これから新しいチャレンジやライフシフトをしたいと考えている女性に向けてメッセージをもらった。

 「ライフシフトは〝大きく人生を変えること〟ではなく、〝小さな一歩を積み重ねること〟だと考えています。私も最初から起業を考えていたわけではなく、愛犬とのおでかけを楽しむ中で『こんな情報があれば便利なのに』と、ブログで発信し始めたのがきっかけでした。やがて『役に立った!』という声が届き、『もっと広げたい』と思うように。そんな小さな積み重ねが、気づけば『おでかけわんこ部』という事業になっていました。

 『こんな私にできるのかな?』と不安になることもあると思います。でも大切なのは、『今すぐ大きな決断をすること』ではなく、まず『自分はなぜこれをやるのか?』『どんな自分になりたいのか?』『誰を幸せにしたいのか?』と、自分に問いかけてみることではないでしょうか?目的や思いが明確になれば、おのずと行動に軸が生まれ、その軸が未来の自分を支えてくれるはずです」

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