「ユーザー視点に立つこと」の難しさと、それを乗り越えるための実践的な手法を学ぶ
“顧客が本当に必要とするもの”は? 函館高専×TDCソフトのUXデザイン教育
2025年02月12日 08時00分更新
「自分の仮説は正しくなかった」と気づき、成長する学生たち
函館高専の授業に話を戻そう。UXデザイン演習では「学校生活における困りごと」をテーマに、学生どうしがインタビューを行って、課題解決の方法をデザインしていく。
UXデザインを教えるにあたって、酒井氏、桑名氏が最も重視しているのは「どうやったらユーザー視点に立てるのか」という点だ。
ただし、それはユーザーが語る「こういうことがしたい」「こういう機能が欲しい」という言葉をうのみにすることではない(冒頭で触れた「顧客が本当に必要だったもの」を思い出してほしい)。「製品をどう使っているか」「何に困っているのか」など、まずはユーザー自身でも言語化できないレベルまで深掘りして理解する姿勢が大切だという。
桑名氏は、過去2年度の授業を通じて、学生たちに「ユーザー視点で考えるくせ」が身についたと感じていると語る。
「高専の学生たちはものづくりが好きなこともあって、課題に対してすぐ『自分なりに考えた解決策』『自分の技術で実現できる解決策』に飛びついてしまい、そこから抜け出せないケースが多く見られます。そこで(UXキットの)チェックシートを使い、『その解決策で本当にユーザーはうれしいのか』を自己レビューしてもらうことにしました」(桑名氏)
実際に自己レビューをしてみることで、「自分の仮説は正しくなかった」と気づく学生が多いようだ。さらに「ふだんの生活でも、自然と周りを観察して課題を発見するようになった」と、ユーザー視点での観察が身についたという声も聞かれるという。
「この実践的な演習を通じて、学生たちが、自分のアイデアはユーザーにとって良いものだと『根拠を持って』考えられるようになったと、そういう評価もいただいています」(桑名氏)
それでは学生の側はどう感じているのか。授業後、3人の学生に感想を聞いてみた。
この日の演習では、クラスメートに「困りごと」をインタビューしていたが、それを通じて「課題に対して、自分とは違う立場の人の視点が得られました」(大塚さん)という。また「うまく質問しないと“自分の欲しい答え”が返ってきてしまう傾向を感じて、質問の仕方に注意するのが大切だと気づきました」(大藏さん)と、具体的なインタビュー手法に対する発見を語る声もあった。
また、UXデザインを学ぶことの意義については「“何のために作るのか”を事前にきちんと掘り下げておかないと、間違ったものを作ってしまうおそれがあると理解しました」(佐藤さん)と語る。ここで得た知見は、卒業後に就く仕事の現場でも生かせるだろう。
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なおTDCでは、2024年度から、岩手県にある一関工業高等専門学校(一関高専)でも同様のUXデザイン演習をスタートさせている。こちらでは「地域社会の課題解決に向けたソリューションの開発」を目的に、地域住民へのインタビュー調査などを経て地域課題の根本原因を明らかにし、ユーザー(住民)視点での解決策のデザインに取り組んでいる。
TDCでは、今後もさまざまな教育機関と連携して、学生たちのUXデザインの基礎習得を支援していく方針だ。またUXキットについては、学校などが利用して自らデザイン教育に取り組めるよう、無償公開も含め提供の方法を検討していきたいとしている。
“顧客が本当に必要とするもの”は何か――。UXデザインにおける、ユーザー視点に立った深い洞察は、ソフトウェア業界に限らずどんな業界でも必要だろう。こうしたUXデザイン教育がさらに幅広い層に拡大することに期待したい。








