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専業主婦から一念発起!〝現代テーブル茶道家〟として新しい茶の湯のスタイルを探求

文●杉山幸恵

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学びと機転でコロナ禍を乗り越え、世界的企業からもオファーがくるまでに成長

 幸先のいいスタートを切ったように見えた大澤さんだったが、2020年に新型コロナウィルス感染症の影響で事態が急変する。自宅教室は閉鎖を余儀なくされ、予定されていた法人向け出張茶道はすべてキャンセルとなった。

 「先の見えない不安な状況の中、〝自宅教室が再開できるまでの苦肉の策としてのオンライン化〟ではなく、これを機に〝本格的なオンライン化〟に取り組むことを決意しました。IT関連は得意ではありませんでしたが、オンラインマーケティングを学びながら、動画コンテンツ制作やオンラインスクールの構築。これにより今までの商圏を超えて、国内外の生徒さんと出会えるようになりました」

オンラインレッスンの様子。写真は受講生が撮影したもので、画面に映っているのが大澤さん

 まさにピンチをチャンスとし、オンライン化と同時にホームページやYouTubeにも力を入れていった大澤さん。これが功を奏してコロナ禍が落ち着いたころには、多種多様な業界の企業や経営者からの問い合わせ、依頼が増えていったという。そして今でも時代や環境の変化に対して柔軟に対応すべく、自身をブラッシュアップさせることに余念がない。

 「講座の付加価値を高めるために茶道はもちろん、ほかの分野にもアンテナを貼ってインプットすることは欠かせません。また、法人様、その先のお客様に感動していただけるような、満足度の高い企画のご提案ができるよう、企画力、コミュニケーション力など新しいビジネススキルも学んでいます。さらに必要な茶道具や着物、宣材写真の撮影などにも投資しながら、実績を積み重ねているところです」

外資系企業のイベントでのティーブレイクのひとコマ。出張茶道では茶室はもちろん、ホテルやオフィスなど、希望の場所に茶道具一式を持参し、さまざまな依頼に応える

 認定講師の育成支援も行っている大澤さんは、法人向けの仕事で生徒を同行させることも。それが生徒の経験値を上げることになり、「一緒に新しい景色を見られることも私の喜びの一つです」と語る。このように順風満帆に事業を進めているように見える大澤さんだが、起業当初は足踏みをすることもあったという。

 「集客に苦労し、申し込みがあっても気軽にキャンセルされるなど、最初は思うようにうまくいかないことも多く…。茶道具や教室備品は必要経費だと思えましたが、集客に関しては自力で乗り切ろうとしていたんですよね。初めは知識もなく、相談相手もいないため、時間ばかりかかり遠回りが続きました。その後、〝タイムイズマネー〟を実感し、目標達成を早めるには自己投資と頼れる人・環境が不可欠なんだと。そこで、自分と同じように子育てをしながら起業コンサルをされている女性の方にサポートをお願いしました」

 我流では限界があると感じてマーケティングを学び始めた大澤さんは、ブログのほかメルマガも開始したことで活路が開けた。

 「〝凛として生きる〟という私の想いや考え方に共感してくださる生徒さんとネット上で出会えるようになったころから、教室が軌道に乗るようになりました」

 〝現代テーブル茶道家〟として2児の母として、忙しい日々を送る大澤さん。起業家と主婦業をうまく両立できているのは、「家族の理解と協力があるからこそ、平和に兼業ができている」のだとか。

 「今振り返ってみても、起業前に夫へ自分の想いを冷静に伝え、懸念を一つひとつクリアにしておいたのは本当によかったなと。感情的にならないよう、自分の考えをまとめたA4用紙を渡してプレゼンし、『やってみたら』と言ってもらえた時は大きな一歩でした。その後も都度、夫や子供に相談し、苦手なことを手伝ってもらいながら感謝を伝えるうち、想像以上の応援を得られるように。茶道の精神を表す和敬清寂(和やかな心、敬いあう心、清らかな心、動じない心)は、家庭でも役立つと実感しています。また、何でも自分で抱え込まず、家族や先生、生徒さん、さらには家電など時短グッズやプロの手を借りることが、兼業を長く続ける秘訣かと(笑)」

企業研修や学生に向けての茶道教養講座などの依頼も

 専業主婦から〝現代テーブル茶道家〟というライフシフトをしたことで、「専門性を磨き、好きなことで感謝されながら報酬を得られるライフワーク」を手に入れたという大澤さん。今後の目標についても聞いてみた。

 「空間や服装、茶道具などに縛られない〝現代テーブル茶道〟は、日常の中に心を癒やす非日常を作り出し、乾いた心を潤してくれます。また茶道の精神性や美意識は、日本人としての誇りや凛とした在り方を教えてくれます。何事にも動じない、しなやかな心を持ち、自分の成長や未来に希望を持てるような〝凛とした生き方〟は、多様な価値観や急速な変化の時代において特に必要なのではないでしょうか。これからも、出張茶道や講演・研修、講師の育成支援などを通して、10年後には職場、学校、家庭にもっと広く根付いているといいなと思います」

 自身の活動に「微力ながらも国際貢献・社会貢献、日本文化の継承発展に寄与するというやりがいがある」という大澤さんは、抹茶の持つポテンシャルは底が知れないと感じているそう。

 「私の茶道パフォーマンスの中には、ピアノやバレエの経験から、音楽や踊りの感性や美意識も溶け込んでいます。将来は、茶道とアート、音楽、テクノロジーなど他分野とのコラボレーションで、新しい茶道の表現を生み出していけたらおもしろそうだなと。今や〝MATCHA〟として世界で通用する〝抹茶〟も、〝現代テーブル茶道〟も、アイデア次第で可能性は無限大!これからも柔軟に挑戦し続けたいと思っています」

ドイツのカメラブランド「ライカ」による茶道の撮影イベント

日本茶専門店「茶来未」とコラボして、「お抹茶Happylife」オリジナルの抹茶・夢銘(むめい)も販売。茶筅がなくても特製シェイカーで簡単に抹茶を楽しむことができる

 40歳直前で起業を決意してから10数年、学びを重ねることで自身の成長へつなげ、ここまで走り続けてきた大澤さん。最後に人生をシフトチェンジしたい人に向けてのアドバイスをもらった。

 「人生には何度でもライフシフトが可能です。壁にぶつかることもあるかもしれませんが、私はそんな時、将来の目標を思い出します。それは『品と教養を持ち、かわいげのあるおばあちゃんになって、大切な家族や仲間と笑顔で過ごす』こと。こうした長期的な視点を持つことで、目の前の困難も〝目標達成の途中〟と考えられるようになり、再び前向きに進む力が湧いてくるのではないでしょうか」

 さらに、自身のように自宅での教室開業や、主婦として起業を考えている女性に向けて、こう付け加えた。

 「自宅教室や趣味講座は、ビジネスにならないと軽視されることもありますが、好きな趣味と実益を兼ねて定年なく働けますし、月謝制にすることで、サブスクの安定収入になります。また、自分を中心とした好きなことで繋がるコミュニティを作れて、生きがいややりがいが持てることも。私の事例を通して、本業や子育て、介護などと両立しながら、まずは小リスクで小さく始めて、専門性やビジネススキルを磨きながら事業を育てていくことができること、そして老後も楽しく続けられる安心材料にもなるということを知っていただけましたらうれしく思います。人生は一度きり、そして今が一番若い瞬間です。どうか悔いのない、ドラマティックな人生を自分らしく楽しんでください!」

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