一人起業からわずか1年で急成長!製薬会社からの転身で金継ぎというサステナブルな伝統技術を継承
ライフシフトは〝できるかどうか〟を考えるよりも、〝やりたいかどうか〟が大切
現在、「株式会社つぐつぐ」のスタッフは8名で、2025年4月には新卒4名を含む5名が加わり、計13名となる予定だ。新たに加わるスタッフは、漆の経験者や、金継ぎ検定初級合格者などさまざま。すでに金継ぎを仕事にしている職人を雇い入れるのではなく、全員、社内での育成を通じて技術を習得していく。わずか5年で俣野さん1人の会社からスタッフ13名と、飛躍的に成長している印象だが、事業を構築していく中では多くの失敗も経験したという。
「まず、初期段階での大きな課題はマネジメントでした。私はもともと何でも器用にこなせるタイプで、社員にも同じような作業効率を期待してしまう傾向があったため、プレッシャーを感じて退職してしまう社員も…。この経験から、今では〝人が命〟という考え方にシフトチェンジ。特に金継ぎという手仕事において、社員のやる気や雰囲気が事業の成長に直結するため、働きやすい環境づくりを重視するようになりました」
また、社員全員が女性という環境のため、今後それぞれがライフイベントを迎える可能性が高いことを考慮。どのような状況でも働き続けられる柔軟な制度や、職場環境を整える必要性を感じているそうだ。
「もう一つの失敗は、お客様のニーズを正確に把握しないまま商品を開発してしまったこと。自分では『これはきっと売れる』と思って作った商品が、実際には売れませんでした。〝お客様の声をしっかり聞くこと〟が事業成功の鍵であると学んだことで、それからは提供する商品やサービスが本当にお客様に役立つかを慎重に確認するようにしています」
起業した当初、〝誰かと比べない生き方〟を目指していた俣野さんだが、自社の商品やサービスが模倣されるなど、次第に競合の存在を意識する場面も。最初は戸惑ったそうだが、「最近では他社が真似できるようなことは、どんどんやってもらえばいいと割り切っています」と笑う。
「誰も真似できない独自のサービスやアイデアを追求していきたいなと。『つぐつぐ』は今後も他にはないユニークな取り組みを進めていき、より多くの人に注目されるブランドでありたいと思っています」
ここまでひた走ってきた俣野さんにとって、その最大の原動力は何かと問うと、「お客様からの感謝の言葉」という返事が。壊れてしまったけれど、捨てたくない大切な器の数々。それらが金継ぎで修復されたのを目の前にし、涙を流して喜ぶ方も少なくない。そんな時、「本当にこの仕事をしていてよかった」と思うのだそう。
「修理には時間がかかり、1年以上お待ちいただくこともありますが、それでも完成品を手にした瞬間にお客様が感動されている様子は、この仕事を続ける上での大きな励みになっています。また、教室に通ってくださるお客様の変化も大きな喜びです。かつては、自分の器を修復したら終了とういう方が多かったのですが、今では金継ぎを趣味として深く楽しみ、さらにご友人の器を修理したり、漆を使った他の技法にも挑戦したりする方が増えています。教室が、ただ技術を学ぶ場ではなく、心温まる場所として受け入れられていることを感じられるのは、とても幸せです」
加えてスタッフの存在が彼女にとって大切な支えであり、一緒に働けることに日々、喜びや幸せを感じているという。だからこそ「全員が生き生きと働ける環境を作り続けたい」と語る俣野さんは、「つぐつぐ」をより効率的で、働く人がやりがいを持てる会社にすることにも余念がない。
「まずは金継ぎ修理にかかる待ち時間を大幅に短縮し、依頼から2~3か月で修理を完了できる体制に整えていきたいです。また、国内外に店舗を増やし、誰もが気軽に金継ぎを依頼できる環境を作れたらと。さらに、金継ぎ以外の日本の伝統技術にも目を向け、まだ広く知られていないけれども魅力的な技術やサービスを発掘し、世に広めることも考えています。それを通じて、新たな雇用を生み出し、より多くの人が伝統技術を活かして生き生きと働ける場を提供していきたいです。伝統を守るだけでなく、現代の技術を取り入れながら仕組み化を進め、持続可能な形で発展させることで、『つぐつぐ』が金継ぎや他の伝統技術の未来を支える存在となることを目指しています」
かつてのように弟子入り制度が機能しなくなってきた現代において、手仕事で生計を立てられる場を提供することが伝統技術の維持に重要だと、俣野さんは考える。そんな金継ぎのみならず広く伝統技術の未来まで見据える彼女にとって、金継ぎへ抱く思いは出会った当初から変化したのだろうか。
「最初に直感的に素晴らしいと思った点、例えば、大切なものを捨てずに再び使えるようにするという技術の存在や、SDGs的な視点から環境に優しいという側面、さらには日本の伝統技術を未来につなげることへの社会的意義は、今でも私の中で大きな魅力です。一方で、金継ぎの哲学的な側面に対する評価は、特に海外の方からの反応を通じて改めてその深さに気づかされました。壊れた箇所を隠さず、むしろ目立たせることで美しさを創り出すという逆転の発想に、多くの人が感銘を受けています。日本人が〝お気に入りの器を再び使えること〟に魅力を感じるのに対し、海外の方はその哲学や芸術性に惹かれることが多いのではないでしょうか」
加えて、俣野さんが考える、今後の金継ぎの可能性についても聞いてみた。
「現代の大量生産・大量消費に対するアンチテーゼとして、さらなる広がりがあると考えています。金継ぎは手間がかかり、決して便利なものではありませんが、その分、心を豊かにし、人々に新しい価値観を提供できるはず。このように、金継ぎは伝統技術でありながら、現代社会においても身近で必要とされる存在としてのポテンシャルを秘めていると感じています」
かつては自身の価値を高めるために語学の習得や、MBA取得など、ひたすらに努力を積み重ねてきた俣野さん。そして金継ぎと出会い、他者に評価を求めることを捨て、成功をつかんだ彼女にとって、ライフシフトで大切にすべきことは何か聞いてみた。
「まず、〝できるかどうか〟を考えるよりも、〝やりたいかどうか〟です。私自身も起業前は不安や迷いがありましたが、〝やりたい〟という気持ちが強かったからこそ、一歩を踏み出せました。不安は誰にでもありますし、100%準備が整うことはありません。それでも、〝これをやりたい〟と思える何かがあれば、きっとその道は開けるはず。その次に、できない理由を書き出して、できない理由を〝できる〟に変えるTo Doを作って、一つ一つできない理由を潰していけば、できる〟理由しか残らなくなります」
さらに、「失敗しても大丈夫」というマインドを持つことも大切だと続ける。
「私は、何事も、失敗したらどうするか?というプランB、プランCを作っておくことで、安心させていました。最悪の場合でもここまでしかならないんだ〜と思うと、やったほうがいいベネフィットと、やらなかったことのリスクの、どちらが大きいかわかるのではないでしょうか。何もしなかったらマイナスにならない、現状維持と思っている人が多いかもしれませんが、私は早くやらなかったことの機会損失をすごくロスだと考えるタイプなので。思い立ったらすぐ行動してしまうんです(笑)」
例えば、新しい商品やサービスを思いつくも、即実行しなかったとする。その隙に他の誰かが実行し、自分は二番手になってしまうことで、新規性や市場など失うものは計り知れないのだと、説明してくれた。
「完璧ではなくても小さく始めて、だんだんアップデートや改良していくやり方が私には合っているなと。最初から完璧なものを作ろうとしても結局完璧にはならないですし、すごく時間をかけてしまうと、何かミスや失敗があった場合、すべてを撤回しなければいけなくなります。そうするとダメージも大きいので、小さくてもスピード感を持って始めて、続けていくというのが私のスタイルです」
また、ライフシフトをしたいけど迷っている人に対してアドバイスを求めたところ、「自分のペースで進めばいいのではないでしょうか」ときっぱり。本当にライフシフトをしなければいけないのか?躊躇したり、迷うところがあるのであれば、「現状をもっと幸せだと思って生きる」のも一つの手だという。
「起業ってキラキラして見えますが、雇われている方がリスクは小さいし、受けられるベネフィットは減らないし、安定してるしと、いいことだっていっぱい。それでも、もし何か自分でやりたいと思ったら、今すぐ計画を立てて、失敗した時のプランも作っておいて、明日にでも起業支援の無料のウェブサイトをポチって、それに沿って起業準備をすれば、簡単に始められます。本当に今は便利な世の中で、『来月、ちょっと飛行機で旅行に行こう』『明日、ヘアサロンで長い髪をバッサリ切ってショートにしてみようかな?』と同じくらいの感覚で、会社を1つ作れますので、やってみてください!」
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