コスト、人材、セキュリティ…… データ活用の課題を包括的に解消するHPEの取り組み
なぜHPEがソフトウェアを? 統合データ基盤「HPE Ezmeral」に注力する理由を率直に聞いた
2024年08月07日 11時00分更新
日本ヒューレット・パッカード(HPE)が現在、ソフトウェア事業の一環として、統合データプラットフォーム「HPE Ezmeral(エズメラル) Software」製品の提供に注力しているという。
ただし、HPEと言えば、サーバーを筆頭とする“ITインフラのハードウェアメーカー”という印象が強い。しかも過去(2016年)にはソフトウェア事業を売却したこともある。そんな同社が現在「ソフトウェア製品のHPE Ezmeralに注力している」と聞いて、「なぜ?」と意外に感じるのは筆者だけではないだろう。
そこで今回はHPE本社に出向き、HPEにおけるソフトウェア事業の現状、ITインフラとは直接関わりのなさそうなHPE Ezmeral Softwareに注力する理由、“HPEならでは”の強みなど、さまざまな疑問を率直にぶつけてみた。
Q:そもそもHPEはソフトウェア事業を「撤退」したのでは?
――まずはHPEにおけるソフトウェア事業の現状を確認させてください。HPEでは、2016年にソフトウェア事業を売却して、データセンター製品(ハードウェア)事業への絞り込みを図ったと認識しています。今回のテーマであるHPE Ezmeral Softwareは、いったんソフトウェア事業を「撤退」したHPEが、ふたたびソフトウェア事業に取り組むもの――という理解で正しいですか?
吉岡氏:もしかしたらそういうイメージを持たれている方もおられるかもしれませんが、そこには誤解があります。2016年のHPEの動きは、「ソフトウェア事業から撤退した」わけではなく、「レガシーの運用管理系ソフトウェア事業を部分的に売却した」というのが正確なところですね。
事実、HPEではその売却と並行して、IT変革に必要なソフトウェア企業の「買収」も継続的に行ってきました。たとえば、2018年にはBlueData Softwareを、また2019年にはMapRの事業資産を買収していますが、これらのAI/データプラットフォーム技術は現在のHPE Ezmeralの基盤となっています。その後に買収したScytale、Ampoolなども同様で、HPE Ezmeralの機能を強化するためにその技術が組み込まれています。
――なるほど、そのあたりの動きを見落としていました。新たな時代に必要なソフトウェアを提供するための取り組みは、むしろ積極的に続けてきたのだと。
吉岡氏:そうです。エンタープライズITのマーケットは変化を続けており、当然ながらお客様のITにも変革が必要になります。たとえばサーバーやストレージの管理ツールでも、現在ではSaaS型が一般的になりましたよね。HPEでは、そうした「お客様のIT変革に必要なピース」をご提供してシステム全体の付加価値を高める、そのための動きを続けています。
Q:HPEのソフトウェア事業はどんな分野に注力しているのか?
――それでは現在、HPEのソフトウェア事業はどのような分野に注力しているのでしょうか。
吉岡氏:特に注力している分野としては、「AIOps」と「データマネジメント」が挙げられます。
AI技術でITオペレーションの変革を支援するAIOpsについては、かなり前からサーバー、ストレージ、ネットワークのそれぞれで取り組みを進めてきました。今年の1月にJuniper Networksの大型買収を発表しましたが、これもネットワーク分野におけるAIOpsをさらに強化することが目的です。また、昨年買収したOpsRampも、ハイブリッドクラウド環境のオペレーションを統合し、AIOpsを実現する技術を持っています。
もうひとつの「データマネジメント」は、AI/機械学習やビッグデータ分析のプラットフォームを提供するものです。ご承知のとおり、現在は「データがビジネスを変革する」と言われる時代です。そうしたお客様のビジネス変革を支援するために、「HPE Ezmeral」という製品ブランドを立ち上げてソフトウェア製品を提供しています。
Q:なぜHPEが「データマネジメント」分野に注力するのか?
――ITインフラに関係するAIOpsはわかりやすいのですが、なぜHPEがデータマネジメントのソフトウェアにも注力しているのでしょうか。やや“畑違い”のイメージもあります。その背景をもう少し教えてください。
吉岡氏:エンタープライズITの世界で“Data is New Currency”、つまり“データには大きな価値がある”と言われるようになって久しいわけですが、現実には、データから大きな価値を引き出せるような環境が整っていません。その一方で、生成されるデータ量は爆発的な成長を続けています。したがって、データをうまく活用できる、ハンドリングできるIT環境が必要とされているのです。
そこで、HPEでは2020年にHPE Ezmeralブランドを立ち上げ、ソフトウェアを継続的に育ててきたわけですが、そこに昨年から「生成AI」の大波がやってきました。生成AIへの取り組みを強化するために、データマネジメントに対する企業のニーズがますます高まりました。
すでに海外では、自社で生成AIを開発するためのデータプラットフォームへの投資が活発化しており、その中でHPE Ezmeralも活躍を始めています。日本企業の生成AIへの投資は遅れていますが、海外企業がすでにそうして競争力を高めつつあるわけですから、遠からず日本にもその動きはやって来るでしょう。
――「データ活用の機運は高まっている一方で、その環境が整っていない」というお話しですが、データ活用に取り組む企業の具体的な課題はどこにあるのでしょうか。
木村氏:現場のお客様と話してみると、そもそも「自社のどこに、どんなデータがあるのか」すら把握できていない企業が多いのが実情です。さらには「データを活用していくうえで、それぞれのデータにどの程度のセキュリティレベルを担保しなければならないか」といったことの洗い出しもできていない。自社のデータを活用しようと考え始めると、まずはそうした現実を突きつけられるわけです。
加藤氏:日本企業の場合は、データエンジニア、データサイエンティストといった人材が不足していることも課題です。さらには予算も少ないため、パブリッククラウドを利用したデータ活用という方向に向かう。そうすると今度は「セキュリティ上、クラウド(社外)には出せないデータがある」という課題に直面します。このように、さまざまな「制約」があるのが現状のデータ活用における課題だと考えています。