「データガバナンスアドオン」を追加し長期間の確実なファイル保管を実現、未来の工事のあり方も模索へ

戸田建設のDropbox活用が拡大、電帳法対応から建設現場のナレッジ蓄積まで

文●大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

提供: Dropbox

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 Dropboxでは、電子帳簿保存法(電帳法)などの法的な文書保存要件に対応するためのオプション「データガバナンスアドオン」を提供している。これを導入すれば、長期保存が求められる文書ファイルを一定期間(最長99年間)確実に保持する機能、文書の変更履歴の保持(バージョン管理)を最長10年間まで拡張する機能などが利用できる。

 このデータガバナンスアドオンを導入し、社内文書のガバナンス実現と業務の効率化に活用しているのが、全国で建築/土木事業や都市開発を手がけるゼネコンの戸田建設だ。数年前からDropboxを全社展開してきたが、昨年(2023年)からは電帳法対応や竣工設計図書の長期電子保管を目的として、同オプションを全社員に付与している。

 データガバナンスアドオンの導入背景や実際の活用方法について、戸田建設 建築工事統轄部 建築生産企画部 建築生産企画部の池端裕之氏と西山英治氏、コーポレート本部 ICT統轄部 統合利益管理システム部の大島修氏と内藤明徳氏に話をうかがった。

戸田建設 建築工事統轄部 建築生産企画部 部長の池端裕之氏(右)、同部 生産システム推進1課 課長の西山英治氏(左)

戸田建設 コーポレート本部 ICT統轄部 統合利益管理システム部 部長の大島修氏(左)、同部 主管の内藤明徳氏(右)。中央の画面は、電帳法対応のために自社開発したWebアプリ

Dropboxの全社導入から5年、“仕事のための仕事”を削減し効率化

 戸田建設のDropbox全社導入は2019年からスタートした。その経緯については、以下の導入事例ページで詳しく紹介されている(本記事では割愛する)。

 Dropbox導入の成果について、池端氏は「“仕事のための仕事”をなくすことができたこと」と表現する。

 “仕事のための仕事”とは、たとえば「複雑なフォルダ階層をたどって必要な資料を探す」「メールに添付された多数の図面ファイルから最新版を探す」といった、本来の業務ではない、無駄の多い付帯業務のことだ。Dropboxを導入したことで、強力なファイル検索機能やセキュアなファイル共有機能が使えるようになり、“仕事のための仕事”は大幅に軽減されたという。

 もうひとつ、Dropbox導入直後の2020年初頭からコロナ禍が発生し、多くの社員が急きょ在宅勤務に移行することになった際にも、あらゆる業務ファイルがクラウドのDropboxに保存されていたおかげで、スムーズに働き方をシフトできたと振り返る。

 「2019年の導入時には、既存のNASやファイルサーバーからDropboxにファイルを移す作業が発生して、社内には『なぜいちいちこんなことをやらないといけないのか』という雰囲気もありました。しかし、偶然ですがその数カ月後にコロナ禍となり、Dropboxのおかげでスムーズに在宅勤務に移行できたことで『Dropboxに移行しておいてよかった』という雰囲気に変わりました」(池端氏)

 導入からおよそ5年経った現在、Dropboxは全国の建築土木現場でも本支店内勤部門でも、日常的に使う業務ツールとして浸透、定着しているという。導入検討時には「セキュリティ、スピード、使いやすさ」を総合評価してDropboxを選択したが、特に「使いやすさ」が利用の定着を促したと、西山氏は振り返る。

 「正直に言いますと、年配の社員にはITにあまり詳しくない方もいます。それでもDropboxならば、Windowsエクスプローラーを通じて今までと同じように使えます。使い勝手がほとんど変わらないので自然に使えて、利用の定着化に役立ちましたね」(西山氏)

短期間での電帳法対応のために「データガバナンスアドオン」を追加導入

 こうしてDropboxの活用を進めてきた戸田建設が、新たにデータガバナンスアドオンを導入することになったのは、「電帳法への対応」「竣工設計図書の電子保管」という2つの目的からだった。

 まずは電帳法への対応だ。これは大島氏、内藤氏らICT統轄部が主導して行ったが、さまざまな事情から検討開始が遅れてしまい「2023年の6月ごろから、半年ほどで対応する必要がありました」(大島氏)という。

 検討段階では新たなパッケージ製品を導入する案もあったが、導入にかかるコストと時間を考えると難しかった。そこで、すでに利用しているDropboxにデータガバナンスアドオンを追加し、自社開発のシンプルなWebアプリと連携させて、保存期間や改竄防止、検索性といった法定要件をクリアすることにした。

 戸田建設で開発したWebアプリは、イントラネットからアクセスできる。取引先とやり取りした見積書、請求書、領収書などのファイルは、各社員がここからアップロードするルールだ。アップロードされたファイルのURLは、別途入力する日付/取引先/金額のデータと共にデータベースに記録されており、アプリで検索すればDropbox上のファイルがすぐに閲覧可能だ。

 「時間がなかったので、まずはきちんとファイルを保存できること、検索して参照できること、という電帳法の要件に絞り込んだ仕組みを作ろうということになりました。すでにDropboxを導入していたので、データガバナンスアドオンを追加し、簡単なアプリを作ることで実現できました」(大島氏)

竣工設計図書の長期保管にもデータガバナンスアドオンを適用

 もう一方の、竣工設計図書の電子保管については、池端氏や西山氏ら建築生産企画部が担当した。

 「竣工設計図書」とは、実際に建設した建物についての詳細な情報を記録した文書や図面のことだ。建設後の維持管理や改修工事に必要となるため、長ければ数十年にもわたって確実に保管しなければならない。また一部の文書は、建築業法、建築士法などで、5~15年程度の長期保管が義務づけられている。

 従来は、この竣工設計図書を紙資料とマイクロフィルムの形で保管していた。しかし、特に紙資料は倉庫の保管コストがかかり、参照のたびに出し入れするため紛失リスクも高い。そこで戸田建設では、保管方法をDropbox上のファイル保管へと切り替え始めている。この長期保管のためにデータガバナンスアドオンが採用されたわけだ。

 「竣工設計図書は、30年後、40年後に必要になるケースもあります。今後、紙での保管はなくしていく方針で、特に重要な設計図面に関してはマイクロフィルムとPDFファイルで二重保管し、そのほかの通常の記録書類はPDFファイルで保管することにしています」(池端氏)

 ちなみに、竣工設計図書のアーカイブ作業は社外に委託しているが、保管対象となる文書の受け渡し作業は「Dropboxならではのやり方」で効率化しているという。

 「竣工時(工事完了時)は現場も忙しいですから、そのタイミングでまとめて保管対象の文書を渡すのではなく、工事中から渡すようにしています。アーカイブ作業を行う会社との共有フォルダをDropbox上に作成し、工事現場で保管対象の文書が完成したらアップロードする。アーカイブ会社のほうでは順次内容を確認して、PDFやマイクロフィルムの形に変換して保管する、という流れが出来ています」(池端氏)

 工事案件のスタートと同時に作成され、工期中は関係者間の情報共有に使われる共有フォルダも、工事完了時に内容を整理し、社外共有をすべて解除したうえでそのまま保管している。これは再利用可能な資料や過去のノウハウを蓄積し、次に生かすための取り組みであり、関係者以外の社員も参照できるようにしているという。

“働き方×デジタル”変革を通じて「未来の工事のあり方を企画する」

戸田建設の建築生産企画部では、「WX」と「DX」を両軸として、企業としてのトランスフォーメーション(CX)を進めようとしている

 池端氏や西山氏が所属する建築生産企画部は、今年3月に新設された部署だ。その役割は「未来の建築工事の姿を企画する」ことである。「WX(ワークスタイルトランスフォーメーション)」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を両軸として、魅力あふれる建設作業所を生み出すためのコーポレートトランスフォーメーション(CX)を進めようとしている。

 「WXというのは、要するに働き方改革です。“建設業の2024年問題”が話題になっていますが、特に現場社員の働き方を見直さなければなりません。そのためにはデジタルの力も必要で、並行してDXも推進していくことになります」(池端氏)

 現在進めているWXの例としては「業務実績の記録と分析」がある。Googleカレンダーを使って現場社員一人ひとりに毎日の業務実績を記録してもらい、どんな業務に時間がかかっているのかを分析するというものだ。この分析結果に基づいて、より効率的な働き方を上司と検討したり、BPOやRPAを活用して業務負荷を軽減したりしているという。

 DXの側面では、さらに高度なデジタル活用の取り組みも進めている。たとえば3次元レーザースキャナで取得した点群データを活かしたBIMモデルの構築と活用、AI搭載ロボットによる現場巡回業務の省人化、ロボットが撮影したカメラ映像解析による高度な安全品質管理といった遠隔臨場技術の向上、さらには人手不足に対応する施工の自動化といったものだ。こうしたWXとDXの取り組みが重なる中心に、あらゆるデータを保存し共有するDropboxが存在するイメージだと、池端氏は説明する。

 文書ファイルから工事中の現場映像まで、幅広いデータをDropboxに蓄積することで、将来的には「AIによる分析とサジェスト」も実現可能になる。その点から、池端氏は昨年発表された「Dropbox Dash」などのAI関連製品にも期待していると語った。

 「たとえば新たな工事案件が始まるときに、過去に蓄積したさまざまな工事関係のファイルをAIが分析して、そこにある現場のノウハウやナレッジをサジェストしてくれたら便利ですよね。特に、担当する人間がまだ気づいていないリスクや検討課題などを、AIが先回りして知らせてくれる。そんな機能が実現したら良いなと考えて、いま検討を始めようとしている状況です」(池端氏)

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