生成AIを経営資源に据えた、財務・人的資本の好循環サイクルを提言
生成AIで効果を生む/生まない企業の境目は「ユースケース設定」 ― PwC調査
2024年06月18日 08時00分更新
PwCコンサルティングは、2024年6月17日、国内企業を対象とした「生成AIに関する実態調査2024 春」に関する説明会を開催した。
同社による生成AIの実態調査は、2023年5月から始まり3回目。今回は、売上高500億円以上の国内企業においてAI導入に関与する912名を対象に、2024年4月に実施された。
PwCコンサルティングの執行役員 パートナーである三善心平氏は、本調査の結果を「高い関心を維持しながら試行錯誤期へ」「成果二極化の兆し」「狙っている効果と還元先」という3つの視点で解説した。
生成AI活用は試行錯誤期へ、ヘルスケア・自動車業界は停滞気味
最初の視点は、過去の調査結果も踏まえた生成AIの活用の現状についてだ。
生成AI活用の進捗を過去の調査結果と比較してみると、「生成AIを活用中」とする企業は43%と、2023年10月の34%から着実に増加している。「検討中」以上の企業をまとめると、実に91%にまで広がる。
生成AIへの期待度合いについては、「業界構造を根本から変革するチャンス」と捉える企業が25%、「他社より相対的に優位に立つチャンス」が24%、「自社ビジネスの効率化・高度化に資するチャンス」が49%と、2023年10月の調査から大きな変化はなかった。
「既存ビジネスの効率化に期待して、競合との優位性を確保するという生成AIの捉え方は、昨年秋から変わらない」(三善氏)
業界別の進捗度には変化が生じた。業界別に生成AI活用を推進する企業の割合を算出し、順位をつけると、通信が1位、テクノロジーが2位となった(2023年秋はテクノロジーが1位で、通信が2位だった)。
2023年秋から順位を上げたのは、サービス、公共、金融、不動産といった業界だ。「サービスは、人員不足に対するユースケースの検討が進む。公共、金融、不動産は、煩雑な社内業務を解消するユースケースの開発が進んでいる」と三善氏。
一方で、順位を落としたのは、ヘルスケアや自動車業界。これらの業界はフィジカルなオペレーションが求められ、ハルシネーションなど精度面の課題が直結する業界で、「実用化に至るまでの試行錯誤が続いている」と三善氏。
三善氏は、「生成AIへの関心は変わらず維持しながら、試行錯誤するフェーズに入っている。すべての業界における関心事項なのは変わらないが、その中でも濃淡がみえ始めている」と分析する。
生成AIで効果を得ている企業の境目は「ユースケース設定」や「経営層の理解」
続いては「成果二極化の兆し」の視点だ。
生成AIを活用・推進する企業の中で、現時点の効果を「期待を大きく上回っている」とする企業が9%な一方で、「やや期待を下回る」や「期待とはかけ離れた結果になった」とする企業は18%となった。
PwCでは、この「期待を大きく超えた」企業と「期待未満だった」企業の違いを分析。その結果、さまざまな項目で違いがみられたという。
たとえば「推進するユースケース」。期待を大きく超えた企業では、単純な文章要約やRAGを用いた情報検索での活用に留まらず、特に「ブレインストーミングやアイディア出し」といった判断や意思決定での活用が進んでいる。また、「画像・音声生成系」や「開発・新規ビジネス系」といった、テキスト系以外のユースケースでの活用も平均31%と、期待未満だった企業の平均20%を上回っている。
導入対象部署をみてみると、期待を大きく超えた企業では全社活用を推進している割合が高く、加えて、部署に特化した生成AIの活用も平均38%と、期待未満だった企業の平均20%を大きく上回った。
最も大きく差が出たのは、生成AIに対する期待度の違いだ。期待を大きく超えた企業の71%が、生成AIを「業界構造を根本から変革するチャンス」と捉えている一方で、期待未満だった企業は17%と、54ポイントもの差が生まれた。「生成AIのポテンシャルをどう見積もるかによって、活用効果にも差が出ることを感じている」と三善氏。
また、それぞれの企業に、期待を超えた・期待未満だった要因について聞くと、期待を大きく超えた企業は「ユースケース設定」が一番の成功要因と回答。一方の期待未満だった層は「データ品質」を一番の失敗要因と答えた。「データの品質が生成AIのアウトプットを左右するのは確かだが、成果を得ている企業とそうでない企業でギャップを感じた」と三善氏。
ギャップが生まれたのは「経営層ビジョンとの一致」も同様で、期待値未満だった企業の失敗要因として挙げられたのは0%なのに対し、期待値を大きく超えた企業では7%が成功要因として挙げている。
三善氏は、「まだ完全に二極化とまでは言い切れないが、徐々に拡大していくと想像される。この違いを生むのは、経営層が起こりうる変革を深く理解して、規模とスピード感を持って、一丸となって推進しているかどうか」と分析する。
生成AI活用の利益は、魅力的な企業になるための投資に
最後に「狙っている効果と還元先」の視点だ。
生成AI活用の指標をどう測定しているか、生成AIに対して「業界構造の根本変革を期待する」企業と「自社ビジネスの効率化に期待する」企業のそれぞれに質問した。
両企業共に「社員生産性」が1位、「工数・コスト」が2位になった。業界構造の根本変革を期待する層は、「売上・収益」が3位と売上高も指標とする企業が多く、自社ビジネスの効率化に期待する層は、「社員の生成AIサービスの利用率」が3位と、それぞれに特徴が表れた。
生成AIの導入後に社員の業務がどう変化したかという質問には、「上流かつ創造的な業務や新規事業にシフト」した企業が55%、生成AIを活用して「人手不足が解消」した企業が45%、「人員削減」した企業が30%、「新たに生まれた仕事にシフト」した企業が27%となった。
人手不足が解消した企業は、顧客コミュニケーションが発生する「サービス・接客業」が多く、人員削減した企業は、「コーポレート・バックオフィス」部門で生成AIを導入した企業が多かった。「事務作業や定型的な業務において、生成AIで人を減らしていこうという意思がみられる」と三善氏。
最後に、生成AI活用効果の還元先を尋ねてみると、「従業員の雇用時間への還元(45%)」、「新規事業への登用など新たな投資(43%)」、「従業員への利益還元(39%)」が上位に。従業員にとって魅力的な企業になるための投資に活用する企業が目立っている。
生成AIを経営資源に据えた、財務・人的資本の好循環による企業価値の向上を
このような調査結果を受け、三善氏は、「生成AIを経営資源に据えて、何を実現していきたいかを設定する」ことが重要だと提言する。
生成AIで定型作業を極小化して、「コストを削減」することが第一歩であり、そこから更に踏み込み、判断や意思決定の高度化や新規ビジネスに生成AIを活用して、「売上高の向上」や「イノベーションの創出」を目指していく。
こうして財務資本を拡大して、人的資本の充実に還元する。それを基に、更なる生成AI活用の高度化や、財務資本の拡大につなげていく。三善氏は、「生成AIへの期待が高い企業は、この2つのサイクルを上手く回す状態を目指している」と調査結果の解説を締めくくった。