アマゾン ウェブ サービス ジャパンは、2024年6月14日、AI人材育成に関する記者説明会を開催した。
AWSでは、生成AIの活用拡大に向け、データセンターや各種クラウドサービスの強化に注力しており、人材育成においても同様だ。今回、生成AIに特化した新しい「クラスルームトレーニング」と「AWS認定資格」が発表された。
アマゾン ウェブ サービス ジャパンの執行役員 サービス & テクノロジー統括本部 統括本部長である安田俊彦氏は、「人材こそがデジタル競争力の根幹であり、技術への投資と同じくらい重要。個人エンジニアから企業の営業担当まで、様々な人が最新テクノロジーを使いこなし、新たな価値を生み出すことを応援している」と説明する。
新しい生成AIに特化したクラスルームトレーニング・AWS認定資格
AWSはかねてより、デジタル人材の育成支援を展開してきた。日本では、2017年からの約7年半で延べ70万人に対してクラウドスキルのトレーニングを実施。グローバルでは、2025年までに2900万人に対して無償のクラウドトレーニングを届けることを目標としている。
トレーニングの中で、特に要望が増えているのが「生成AIや機械学習に関するスキル向上」だという。これまでも、2023年から「AI Ready」と呼ぶ生成AIを含むAIに関するトレーニングコースを無償提供しており、AWSの学習基盤である「AWS Skill Builder」で視聴可能だ。
AI Readyは拡充を続けており、現在は、基礎にあたる「生成AIの概要」から「基盤モデルのカスタマイズ」、「基盤モデルのチューニング」の3つのステップで、それぞれ50を超える教材が日本語で用意されている。
非IT人材向けにも、同社の日本人インストラクターが収録した入門講座「AWSで始める生成AI for Entry」を提供。同社のトレーニング事業を統括する岩田健一氏は、「ITの勉強を一切したことがない方も沢山いる。初心者向けの講座も揃えて、階段の1段目も非常に低くしている」とする。
さらに今回、認定講師による講義やハンズオンラボなどを提供するオンラインの「クラスルームトレーニング」に、生成AIに特化したコースを新設。「Developing Generative AI Applications on AWS」という、生成AIアプリケーションを開発するエンジニア向けのコースが、2日間にわたり展開される。前提条件として、「AWS Technical Essentials」コース相当のAWSクラウドの初級知識とPythonの中級レベルの習熟度が求められる。
内容としては、生成AIの概要から生成AIプロジェクトの計画の進め方、プロンプトエンジニアリングの基礎、生成AIアプリケーションの構築基盤である「Amazon Bedrock」や同アプリケーションを拡張するためのフレームワーク「LangChain」などについて学ぶことができる。
習熟度合いを測るための「AWS認定資格」でも、生成AIを含むAIに特化した2つの資格を追加する。
ひとつ目は、非IT人材向けの「AWS Certified AI Practitioner(AIF)」だ。AI、機械学習(ML)および生成AIのコンセプトやツールに精通していることを証明する。
2つ目は、技術者向けの「AWS Certified Machine Learning Engineer(MLA)」だ。AIやMLソリューションの構築、デプロイ、保守に必要なスキルを証明するもので、モデルパフォーマンスの最適化、計算資源の管理、モデルのバージョンアップ、AIソリューションの保護などをスキル対象とする。
新たな2つの認定資格は、認定資格として初めて日本語も同時に展開される。2024年8月13日からベータ試験の受付を開始する予定だ。
岩田氏は、「現場の人材がAIを勉強することで、現場に寄り添ったエポックな使い方が創造できたり、設計できたりする。非IT人材向けの資格に挑戦いただくことで、企業全体のレベルが上がるのではないか」と強調した。
企業も従業員も「AIスキルの身につけ方」が分からない
説明会では、日本を含むアジア太平洋地域の9か国を対象とした、AI活用やAIスキルに関する意識調査の結果も発表された。調査対象は雇用主4664人、労働者1万4896人(うち日本は雇用主約500人、労働者1600人)で、2023年10月~11月に実施された。
この調査結果からは「『AIをこれから使っていこう』という意識が非常に高いことが分かった」と岩田氏。アジア太平洋地域の雇用主の92%以上が、「2028年までに自組織でAIを利用するようになる」と予測しているという。日本の雇用主の場合は78%であり、業種別で高かったのは製造業の81%だという。
また、AIスキルの習得は、給与上昇やキャリアに影響を与える傾向があることも判明している。アジア太平洋地域の雇用主は、AIスキルを備えた労働者に対する給与の増額について、平均で「33%以上増額する」と回答した。一方で、日本の雇用主は平均で「15%以上の増額」と、対象国で最も低い回答だった。
労働者側も、AIスキルでキャリアアップすることに意欲をみせている。アジア太平洋地域の労働者の83%がAIスキルの習得に関心があり、その学習動機は「仕事の効率化」(59%)、「仕事の満足度向上」(49%)、「昇級のスピードアップ」(46%)などが上位だ。
日本の労働者だけの回答を見ると、AIスキル習得に関心を持つのは62%とアジア太平洋地域の平均を下回る。学習動機は「仕事の効率化」「知的好奇心」「仕事の満足度向上」の順だった。日本の労働者は、男女においては女性の方がAIスキル習得の関心度が高く(男性60%、女性65%)、世代の中ではZ世代(77%)の関心が一番高い。
このように徐々にAIスキルへの関心が高まっている中で、AI習得を阻む要因は何か? アジア太平洋地域の雇用主の79%(日本は68%)が「AI人材育成をどう実施すればよいか分からない」と回答し、アジア太平洋地域の労働者の74%(日本は66%)が「AIトレーニングをどう受ければよいか分からない」と回答したという。
岩田氏は、「どうAIを勉強したらよいか分からないというのは、ある意味われわれの責任でもある。トレーニングの内容を届けていくことが必要」と説明。
加えて、「周辺知識も含めて体系的に学ぶことが重要になる。生成AIも、AI、ML、ディープラーニングの中のひとつのカテゴリであり、AWSは、全体を網羅するトレーニングカリキュラムを、簡単なところから用意している」と強調した。