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中低温で高性能な燃料電池につながる新材料、東工大が発見

2024年05月30日 06時55分更新

文● MIT Technology Review Japan

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東京工業大学の研究チームは、従来とは全く異なる新しい材料設計戦略により、中低温域で世界最高の「プロトン(H+、水素イオン)伝導度」(プロトンが伝導することによる電気伝導度)を示す新物質を発見した。さらに、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所との共同研究で、新物質の高プロトン伝導度の要因を明らかにした。中低温で高性能なプロトンセラミック燃料電池などの開発に貢献することが期待される。

東京工業大学の研究チームは、従来とは全く異なる新しい材料設計戦略により、中低温域で世界最高の「プロトン(H+、水素イオン)伝導度」(プロトンが伝導することによる電気伝導度)を示す新物質を発見した。さらに、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所との共同研究で、新物質の高プロトン伝導度の要因を明らかにした。中低温で高性能なプロトンセラミック燃料電池などの開発に貢献することが期待される。 現在実用化されている固体酸化物形燃料電池は動作温度が高いため、中低温(50~500℃)で高いプロトン伝導度を示す材料を用いたプロトンセラミック燃料電池の開発が期待されている。研究グループは最近、本質的な酸素空孔を持つ酸化物「BaScO2.5」へのMo6+ドナードーピング(ホスト化合物に含まれる陽イオンよりも、価数の高い陽イオンを添加すること)により、中低温で世界最高のプロトン伝導度を持つ「BaSc0.8Mo0.2O2.8」を発見した。しかしこの材料は、水の取り込み率が100%ではなく、伝導度をさらに向上させる余地があった。 同チームは今回、BaScO2.5にMo6+よりサイズが大きいW6+をドナードーピングすることで、中低温で高プロトン伝導を示す新物質BaSc0.8W0.2O2.8を発見した。さらに、中性子回折データを用いた結晶構造解析と第一原理分子動力学シミュレーションにより、この物質の高いプロトン伝導度の要因を分析。(1)大量の酸素空孔と完全水和による高いプロトン濃度、(2)プロトントラッピング(プロトンが材料のある場所付近に捕捉されること)の減少による低い活性化エネルギーが原因の高い拡散係数にあることを明らかにした。 研究論文は、英国の王立化学会の学術誌「ジャーナル・オブ・マテリアルズ・ケミストリー(Journal of Materials Chemistry)A」に2024年5月3日に掲載された

(中條)

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